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「社会的うつ」は医原性なのか(2020.10.14更新)

こころの健康クリニック芝大門では、さまざまな疾患で仕事を休職されている方が職場復帰を希望される場合に、リワークプログラムによるトレーニングを行っています。

 

リワーク中、そして復職まで責任を持つという意味で、多くのリワーク施設で、リワーク中には転院や主治医を変更することを条件にされている医療リワークも多いようです。

 

こころの健康クリニック芝大門では、主治医と連携しながら復職してもらえばいいと考えているので、主治医を変えることは条件にしていません。

しかし、主治医との連携がうまくいかない場合がときどきあります。
主治医の診断が違っていたり、処方内容が患者さんにとって有効に作用していないとき、処方変更や減薬をお願いしても応じてもらえないこともあるのです。

 

社会的うつ』では、インタビュー・データの「語り」から浮かび上がった主治医の対応と推測される主治医の意図について、3つの特徴を挙げられています。

 

  1. 主治医は、うつ病診断により休職したい、ストレスや悩みの多い職場環境から逃れたい、という患者の希望を、DSM-5などの診断基準による判断よりも重視し、うつ病診断を出していた可能性がある。(ストレスの多い仕事を休むことが患者のためになる)
  2. メンタルヘルス不調者への休職制度が整っているため、うつ病診断で休みやすい(復職後も働きづらくなりにくい)
  3. 主治医はDSM-5などの診断基準に該当しなくとも、薬(抗うつ薬)を処方したいために、うつ病診断を出していた可能性がある。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

なんとも辛辣な!!しかし残念ながら、これが現実で起きていることなのです。

 

厳密には、(1)が社会的うつに該当するものでしょう。

実際、(内因性の)うつ病でもなく、過度のストレスによる適応障害(反応性抑うつ)でもなく、脆弱性としか言いようのない神経症性抑うつの患者さんに、うつ病や適応障害の診断がついているのをよく見かけます。

 

(2)は社会問題として、「企業はメンタルヘルス不調者への休職制度の充実など対策に力を入れることになるが、それと同時に、自らうつ病を訴えて医療機関を受診し、うつ病診断を受けて休職する労働者が増える」という現象の一端を担っているものと考えられます。

 

さて問題は(3)でしょう。

2019年に京都大学のグループが、「抗うつ薬の投与量は承認範囲内でも低めが最適」との研究結果を発表しました。
それでも、「抑うつ状態」というあいまいな診断名で、抗うつ薬が2種類、それも最大量で投与されているケースをみることも珍しくありません。

 

それで患者さんは改善しているのか、というと、抗うつ薬を飲んでも飲まなくても何も変わらないし、体重が増えた、身体がだるい、やる気が起きないなど、効果よりも副作用を強く感じている人が多いようです。

 

インタビュー対象者が語った内容からは、主治医に薬(抗うつ薬)の効能効果を強調され、副作用の十分な説明なしに、投薬治療を強く勧められたケースがあることがわかった。

こうしたケースからは患者の症状から適切に診断したうえで療法を選ぶのではなく、薬を使用したいためにその薬が適応となる診断名をつける、薬が先にありきのうつ病診断が行われていた可能性も推察された。

主治医が必要以上に薬の服用を勧め、さらに副作用のリスクを軽視しているのではないかと推測される事例が一定数存在したが、それが事実であれば、医療行為として大きな問題である。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

症状から適切に診断したうえで療法を選ぶのではなく、薬を使用したいためにその薬が適応となる診断名をつける、薬が先にありきの診断」に関連して衝撃を受けた出来事がありました。

通常の食事を摂取せず、過食嘔吐だけでまかなっている低栄養状態の人が双極性障害と誤診され、双極I型の躁状態で入院するレベルの炭酸リチウム800mgとラモトリギン100mgが処方されていたケースがありました。

低栄養状態では、食物探査行動としての運動過多(活動亢進)がみられます。精神科医はこれを双極性障害の躁状態と誤診したと考えられます。

炭酸リチウムの中枢神経系中毒症状として、運動過多や小脳失調症状としての手の震えなどが見られますが、この所見が見落とされていました。

さらに嘔吐によるナトリウム欠乏時には炭酸リチウムの血中濃度が上昇し、リチウム中毒を引き起こしやすくなります。また、炭酸リチウムもラモトリギンも消化器症状や食欲不振を引き起こしやすいので、拒食症や食事摂取ができていないケースに投与するのは、不適切と言わざるを得ません。

患者さんの生活状況を把握せず、3分診療で症状だけをみてクスリを投与する今の精神科医療の在り方の問題点が露呈したケースでした。

このブログで何度も指摘しているように、摂食障害は薬では治りません。食行動異常を訴えて受診したのに、うつ病や摂食障害と誤診されて抗うつ薬や気分安定薬を投与されている方は、注意してくださいね。

 

社会的うつ』には、「インタビュー対象者が語った自覚症状の詳細について、筆者がDSM-5のうつ病の診断基準に照らして検討した結果、43人(86.0%)がうつ病に該当しなかった」と、医療関係者以外の人がみても明らかにうつ病ではないとわかるわけです。

 

再診断結果は、9ケース(全10ケースのうち、症状などが診断基準DSM-5に該当する純粋に医学的に診断される可能性が高いAの1ケースを除く)について、六人すべての医師がうつ病と「診断しない」が「診断する」を上回った。

ケースAを除く9ケースについて、「診断しない」率は平均83.3%と高い割合であった。

また、再診断医が「診断しない」としたケースの多くは、主治医によって「軽症うつ病」と診断されていた。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

ここで挙げられているケースAというのは、DSM-5の「大うつ病性障害」に該当するケースで、これにはさまざまなプロファイルを持つ精神科医と心療内科医6人の再診断医全員が「うつ病と診断する」と回答し、「「診断する」の「自信の度合い」の平均も96.7%と、非常に高い割合であった」とされています。

 

うつ病と診断されて休職したケースの実に86%がうつ病とは診断されないという結果から、「医者が金儲けのために、病気と診断して、薬を出している」と揶揄される状況は、あながち的外れな意見ではない側面もあり、なんとも嘆かわしいことなのかもしれません。

 

院長

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