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「社会的うつ」の要因(2020.10.07更新)

「職場復帰支援プログラム(医療リワーク)」は、①生物−心理−社会モデルに準拠した治療の一環、②自己管理(セルフケア)と対人スキルの獲得、③再発を防ぐための復職準備性の確認、④休職に至った外的・内的要因を分析し再休職を防ぐ、などの特徴を持ちます。

これが地域障害者職業センターで無料で行われている「職リハ・リワーク」や、企業内で実施されている「職場リワーク(復職支援プラン)」と、医療リワークとの大きな違いです。

 

医療リワークによる就労継続率は、1年後で約80%、2年後で約70%といわれています。医療リワークを利用しても、1年後に約20%、2年後に約30%の人が再休職してしまうという問題はあるにしても、年齢や性別、休職歴や業種、企業の規模などで補正すると、医療リワークを利用せずに復職した人の再休職リスクは何と6.21倍にもなるそうです。

 

実際、信じられないことですが、「復職したいなら、いつでも復職可能の診断書を書くよ」と主治医から言われたという話もしばしば耳にします。

主治医の「復職可能」診断書の信用性は完全に失われていることから、厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」で、企業が中心となって「復職支援プラン(職場リワーク)」を行うように復職への指針を変更しました。

 

2008年5月27日生活・くらし面(東京朝刊17面)では、「うつ病、広がる復職支援 再休職など課題も」の見出で、読売新聞が主要企業100社を対象にした復職支援の取り組みに関するアンケート調査結果を掲載し、100社のうち大半の92社が、復職後の勤務時間を短縮する時短勤務や、復職前に短時間の試行的な出社をさせる「リハビリ出社」などの復職支援制度を設けていることを紹介した。

一方、うつ病で休職した社員の復職を繞っては、過半数が「いったん復職した者が、病気による休職を繰り返す」などの問題を抱えていることも明らかにし、職場復帰の難しさを指摘している。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

さまざまな要因が考えられますが、主治医の診断書をもとに、リハビリ出社(出勤訓練)や時短勤務(リハビリ勤務)など「職場リワーク(復職支援プラン)」を行うと、再休職にいたるリスクが上がってしまうようです。(『主治医はどう休職を判断するか』や『どのくらいの期間リワークに通えば復職できるか』を参照してください)

 

調子が悪ければ休職の診断書を出す、3分診療で薬を処方するだけ、復職の判断もできずに患者さんが希望したからと責任転嫁する精神科医が多いこと、主治医の診断書に基づき復職しても半数以上が1年以内に再休職することが問題視されているのです。

 

再休職の要因のひとつは、「職場リワーク(復職支援プラン)」が「うつ病」をモデルに考えられており、休職に至った多様な状態に対応していないこと、職場リワークでは心理的な改善が評価できないことなどの問題も考えられます。

それ以上に、復職可能という「主治医の診断書」が職場復帰可能なレベルまで回復していることを表していないことが最大の問題と指摘されているのです!

 

主治医の判断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断しているケースも少なくなく、必ずしも職場で求められる任務遂行能力まで回復していることを考慮しているとは限らない。

(中略)

野村は、医師がうつ病と安易に広く診断している現状を批判し、「診断書が一人歩きし、現場に混乱が生じることがある」としたうえで、会社を長期間にわたって休み続ける人の中には「性格的な弱さやうつ病以外の神経症による場合もかなり多い」という問題点を指摘している。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

長期の、あるいは、複数回の休職の背景には、出来事の意味づけや気質のコントロールなどの性格やパーソナリティの問題、神経症(さまざまな心因に対する反応の仕方)など、神経認知機能の障害が考えられています。

このような状態を安易に「うつ病」と診断してしまうこと、それに安易な「復職可能」の診断書が提出されることで現場(職場)が混乱すると指摘されていますよね。

 

一方、企業の場合はどうでしょうか。

 

近年、うつ病による休職者の増加が企業ばかりか、国の経済的損失も招く重要課題と捉えられるようになった。

それをメディアが「職場うつ」などの刺激的でキャッチーなタイトルを付けて報道し、職場という日常でうつ病が広がっているという言説を流布する。これが少なからず影響し、企業はメンタルヘルス不調者への休職制度の充実など対策に力を入れることになるが、それと同時に、自らうつ病を訴えて医療機関を受診し、うつ病診断を受けて休職する労働者が増える、というアイロニカルな現象が起こっている。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

企業がメンタルヘルス対策をすればするほど、メンタル不調者が増えるというパラドックス!!

職場での長時間労働あるいは過重労働など、仕事面での大きな負担だけでなく、人間性を無視した叱責といったパワーハラスメント、職権を乱用した性的接触といったセクシャルハラスメントなど、労働災害認定につながるような事例は、企業のメンタルヘルス対策だけでは防ぐことが困難と言われています。

 

うつ病休職者の増加は、休業補償、労災認定増など企業や社会的な経済損失も招く問題となっている。また近年、データヘルス事業が企業内で活発化しており、アブセンティズム(欠勤問題)やプレゼンティズム(出勤しているが、著しく生産性が低い状態)との関係、対応策に大きな関心が持たれているが、そのメインターゲットはうつ病である。

(中略)

厚労省はメンタルヘルス対策を呼びかけ、大企業を中心に行われつつあるが、社内でのケアと相談窓口作り、医療・カウンセリングにつなぐことが柱で、職場の風土を改善するという方向性は弱い。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

このように「社会的うつ」には、さまざまな要因が複雑に絡み合っているようです。

 

社会的うつ』では、インタビュー・データの分析から、調査対象者である患者の心理・意図を3つの特徴として描いています。

 

  1. 患者は、ストレスや悩みの強い職場環境から逃れるために、会社を行って期間休みたいと考え、休職するためにうつ病診断を希望していた。
  2. 患者が休職するためにうつ病診断を希望する度合いは、患者が勤務している会社でメンタルヘルス不調者への休職制度が整っている場合はより強く、企業内制度がうつ病診断を欲する気持ちをさらに後押ししていた。
  3. 患者が休職するためにうつ病診断を希望する背景には、メディア報道や製薬会社の「疾患啓発キャンペーン」を通じて「うつ病は誰でもかかることがある風邪のようなもの」といった、うつ病を身近な病として捉える認識があった。

奥田『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか―』晃洋書房

 

(1)は「性格的な弱さやうつ病以外の神経症」に該当しそうです。

これについては、『休職中の睡眠覚醒リズム』や『アレキシサイミアと回避を支える理由づけ』で「神経認知機能障害」とともに、他者の意図や性質を理解するなど対⼈関係の基礎となる「社会認知機能障害」の2つが見られることを説明しましたので参照してくださいね。

 

後日、『「うつ病」と間違われやすい「適応障害」』というシリーズで、詳しく解説していく予定にしています。

 

院長

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