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愛着障害と複雑性PTSD(2021.09.08更新)

2021年の日本摂食障害学会総会では、「自閉スペクトラム症、不安症と摂食障害」「発達性トラウマ障害」「発達性トラウマ障害、そしてアッタッチメントと摂食障害」など、このブログでも取り上げている話題が教育講演やシンポジウムで取り上げられています。

『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました』の解説が終わったら、「摂食障害(特に過食排出型の神経性やせ症や神経性過食症)」と「境界性パーソナリティ障害」、そして「多衝動型過食症」などとの関連について書いてみようと思っていますので、お楽しみに。

 

さて、「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」の診断には、出来事基準として「社会的ネグレクトおよび剥奪」が挙げられています。

つまり、「ほとんどケアをされない孤児院で育てられたり、重度の虐待を体験したなど、養育の欠如や特定の養育者と一度もアタッチメントを発達させられなかった」出来事を満たすことが診断の必須条件となっています。

 

一方、「社会的ネグレクトおよび剥奪」があるからといって「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」と診断されるわけではありません。

重度のネグレクトを受けた子どもの集団の中でも「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」は10%程度にしか診断されないのです。

 

皆さんの中でも、生きづらさや対人関係の問題などで医療機関を受診したり、あるいはカウンセリングを受けていらっしゃる中で、「愛着障害ではないか」と言われた方もいらっしゃるかもしれません。

 

そもそもアタッチメント行動は、「ある危機的状況に接し、あるいはまた、そうした危機を予知し、恐れや不安の情動が強く喚起された時に、特定の他個体への近接を通して、習慣的な安全の感覚を回復・維持しようとする」ことです。

よく考えてみると、受診する、治療を受ける、相談するなどのアタッチメント行動があること自体、「反応性アタッチメント障害(愛着障害):特定のアタッチメント対象の欠如」ではないといえるのです。

 

「社会的ネグレクトおよび剥奪」がなく、「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」と似た「大人の養育者に対する抑制され情動的にひきこもった行動の一貫した様式」「持続的な対人交流と情動の障害」が見られる場合は、「自閉スペクトラム障害(いわゆる発達障害)」や「ADHD(注意欠如/多動性障害)」の可能性が非常に高いということかもしれませんね。

 

「社会的ネグレクトおよび剥奪」まではいかなくても、幼少期の虐待(小児期逆境体験)を体験した人たちは、「境界性パーソナリティ障害」という「強力な否定的含意を持つ(軽蔑的な意味を帯びた)診断名を付与されやすい」として、ハーマンは「複雑性PTSD」という代替的診断を提唱しました。

 

ハーマンは、戦争捕虜であったこと、家庭内暴力の犠牲者であったこと、幼少期の虐待の被害者であったことなど、「期間にわたって支配と統制に服従し続けた」ことによる問題群に対して、「特定不能の極度ストレス障害(DESNOS)」としてDSM-IVの診断として取り上げるべきと主張していました。

しかし、反論も多くあったようです。

 

(複雑性PTSDでは)従来のPTSDの中核症状(再体験、回避、過覚醒)に加えて、怒りや暴力の爆発、自傷行為など感情制御の障害、自分は汚れているなどの自己感覚の変化と他者への不信感、孤立などの症状、さらに心的外傷の加害者についての歪んだ感覚(復讐への没頭や、逆に加害者の合理化)などが挙げられています。

崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服——<心を見わたす心>と<自他境界の感覚>をはぐくむアプローチ』星和書店

 

「複雑性PTSD」は、PTSDとは区別できてもまったく独立した疾患単位ではなく、「複雑性PTSD」と診断するためには、前提としてPTSDの診断基準を満たしていることが前提になります。

その上で、「DESNOS」の7カテゴリーのうち頻度の多かった「感情調節不全」「否定的な自己概念」「対人関係障害」の3カテゴリー症状が採択され、その3カテゴリーを総称して「自己組織化の障害(DSO)」と名づけられました。(飛鳥井「複雑性PTSDの概念・診断・治療」in 原田・編『複雑性PTSDの臨床』金剛出版)

 

つまり「複雑性PTSD」は、PTSDの中核症状とともに、感情調節の障害、否定的な自己概念、対人関係の障害など「自己組織化の障害」を伴うもの、とされたのです。

 

しかし一方では、幼少期にII型トラウマ(長期反復性の対人トラウマ:逆境的小児期体験)があるにも関わらず、PTSDの診断基準を満たさず、「自己組織化の障害」のみの診断基準を満たす人たちも、数多くいらっしゃいます。

このような人たちも、トラウマ体験(逆境的小児期体験)の存在だけで、安易に「複雑性PTSD」を疑われ、「うちでは治療できない」「トラウマの治療は専門ではない」と言われたり、親の過干渉があったという理由だけで「複雑性PTSD」とカウンセリングで言われたから、きっとそうだろうと思い込んで、こころの健康クリニックを受診されたり、紹介されることも多いのです。

 

トラウマ体験があり、DESNOSの診断基準を満たす人たちの集団の約半数はPTSDの診断基準を満たしていないことがわかりました。

彼(ジュリアン・フォード)の結論によれば、「DESNOSは、PTSDの複雑な亜型であり、PTSDと併存するが、PTSD自体とは異なるものである」とのことです。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

「自己組織化の障害」は「DESNOS」の7項目のうち多く認められた3項目に相当するのですが、トラウマの既往があっても「自己組織化の障害」を認める人の約半数が「PTSDの中核症状」を満たさないのです。

 

その要因の一つとして、前述したように「自閉スペクトラム障害(発達障害)」では、「自己組織化の障害」に相当する「感情調節不全(自己制御の障害)」「否定的な自己概念(認知機能の障害)」「対人関係障害(関係障害)」が高頻度でみられることは以前に指摘したとおりです。(『発達障害の二次障害としての愛着障害や複雑性PTSD』参照)

 

さらに、「自閉スペクトラム障害(発達障害)」では、記憶反芻(タイムスリップやタイムストラップ)、行動回避、感覚過敏など、PTSDの症状に類似した症状があるため、トラウマ体験があると「複雑性PTSD」だと誤認されやすいのです。

 

もう一つの要因として、おそらくI型トラウマとII型トラウマという、トラウマ体験の仕方が異なることが関連しているとも考えられます。(『トラウマ体験の種類とPTSD・複雑性PTSD』)

 

「複雑な心理的トラウマ」による影響は、アレンが「愛着トラウマ」として述べているように、「情動的苦痛を引き起こすと同時に、苦痛を調整する能力の形成を妨げる」のです。

心理的トラウマにより引き起こされた情動的苦痛の緩和不全が、「自己組織化の障害」感情調節不全です。

この情動的苦痛は、「自閉スペクトラム障害(ASD)」と似た関係性の障害を引き起こします。

 

PTSDや「複雑性PTSD」ではトラウマ体験が必須の出来事基準になりますが、逆にトラウマ体験があるからといって、PTSDや「複雑性PTSD」と診断されるわけではないことに注意が必要です。

さらに「複雑性PTSD」では「自己組織化の障害」を伴いますが、逆に「自己組織化の障害」があるからといって、「複雑性PTSD」ではない(「自己組織化の障害」を認める人の約半数が「PTSDの中核症状」を満たさない)ということです。

 

逆は必ずしも真ならずですから、注意してくださいね。

 

院長

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