メニュー

ブログ

愛着トラウマの2つの影響〜2.愛着の障害とADHDの衝動調節の問題(2021.09.29更新)

あるミュージシャンが、ADHD (注意欠如/多動障害)と双極性障害診断されたことで、一時期話題となったことは、皆さんの記憶にも新しいかと思います。

 

ADHDは、不注意・多動・衝動の3つの特性によって、不注意優位型、多動衝動型、混合型に分類されます。

さらに、小児期のADHDと成人期のADHDは不連続である、と言われています。

 

小児期のADHD、学童期の「反抗挑戦性障害」や思春期の「行為障害」などの非行から、成人期の「反社会性パーソナリティ障害」にいたる、外在化障害としての「DBDマーチ(反社会性の進行)」が知られています。

 

一方、小児期のADHDから、思春期の受動攻撃的反抗や、気分障害あるいは不安障害などの内在化障害が進行し、境界性・回避性・依存性・受動攻撃性などのさまざまな「パーソナリティ障害」を呈することもよく知られています。

 

さて、虐待によってもたらされる愛着障害によって、どのような臨床像が生じてくるのだろう。おそらくすぐに考えつくのは非行であろう。

昔から非行の陰に虐待ありと言われてきた。このこと自体は正しいことが、非行児が大集合する、たとえば児童自立支援施設などにおいて、被虐待児の割合が極めて多いことからも伺える。

(中略)

しかしご存じだろうか。この十年あまりの間、わが国において非行は著しい減少を示しているのである。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

一方、ADHDとASD(自閉症スペクトラム障害)は重なり合うこともよく知られており、「ASDとADHDを別のものと考えるよりも一つのグループのサブタイプと考えた方が、矛盾が少ないことに気づく(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)と述べられています。

 

さらに、注意の障害を例に「この注意の障害によって生じる非社会的行動に注目すればASDとなり、衝動性に注目すればADHDになる」と説明されています。

 

ASD/ADHDは注意の障害がその中心である。この注意の障害の中核は、注意の転導性ではなく、臨床的な視点からみる限り注意のロック機能(sustained attention)の障害と考えられる。

注意の固定が困難で、さらに固定をした時に今度はそれを外すのが難しいという病理がその中心にある。この両者は同時に起きてくるが、前者が優位のものをADHD、後者が優位のものをASDと呼んでいるに過ぎない。

両者とも二つのことが一緒にできないことが最も基本的な臨床上の困難になってくる。ASD/ADHDのパースペクティブの障害も、実はこの二つのことが一緒にできないことから生じる。一つのことがらに注意が向けられていると、時間的、空間的な他の情報が入らなくなってしまうのである。

杉山. 発達障害の「併存症」. そだちの科学(35); 13-20. 2020.

 

乳幼児期から、両親の不仲や家庭内暴力の目撃、両親の離婚によって祖父母や継母・継父による養育の中で精神的・身体的な暴力を受け続けたり、あるいは児童自立支援施設で職員からの体罰が日常的であったり、そのような劣悪な環境で生育した人たちは、どのような経過をたどるのでしょうか。

 

ある患者さんは、前思春期(小学校中学年)から不登校になり、過食嘔吐やリストカットを続けていました。

また別の患者さんは、中学から不登校になり、リストカットや市販薬のODなどの自傷行為を繰り返し、過呼吸やパニック発作も頻回に起きていました。

さらに、他の患者さんは援助交際を繰り返した後に、同棲した交際相手に対する暴力を繰り返していました。

 

これらの患者さんたちは、過食嘔吐や、パニック発作あるいは不安発作に伴う動悸、希死念慮や自殺企図などを主訴に医療機関を受診し、双極性障害、うつ病、パニック障害、摂食障害、解離性障害、境界性パーソナリティ障害などと診断されていました。

 

しかし、誰ひとりとして、主治医から生育歴を聞かれたことはなかった!そうです。

上記の診断で通院中の方で、幼少期から思春期にかけて悲惨な体験(逆境的小児期体験)をお持ちの方のうち、抗うつ薬や抗不安薬、あるいは気分安定薬を処方されているけれどなかなかよくならない方は、ちょっと診察場面をふり返ってみてください。

皆さんは、生育歴を聞かれたことはありましたか?

 

こころの健康クリニックでは、上記の患者さんたちには、「発達性トラウマ障害/愛着の障害」と診断しました。

もちろん「発達性トラウマ障害/愛着の障害」と診断した患者さんたちにも、グレーゾーンを越えるASD特性、あるいはADHD特性があり、対人恐怖や社会恐怖など関係性の問題も全例に認められました。

 

DSM-5では症状形成の原因として、①ネグレクト、②養育者の頻回な交代、③養育の質的不良(子どもに比して養育者が少ない施設での養育など)の三つが挙げられており、すなわち身体的虐待や性的虐待といった直接的、侵襲的な出来事ではなく、適切な愛着を形成する「機会」もしくは「場」がないことが「愛着障害」の要因であるとされている。

牧之段, 岸本. 精神科領域の愛着のトピックス. そだちの科学 33, 27-32.日本評論社. 2019

 

「複雑性PTSDと発達障害」と診断した患者さんたちとの違いは、「発達性トラウマ障害」あるいは「DESNOS(特定不能の極度ストレス障害)」の診断基準(案)に記載されているように、症状が多彩で、いくつもの診断カテゴリーをまたぐ診断がついてしまうのが特徴なのです。

 

愛着に関連して注目される指標の一つに、逆境的小児期体験(adverse childhood experiences; ACEs)がある。

(中略)

愛着形成障害とACEsは同一の概念ではないが、それらは高い相関性をもち、とりわけ感情的なサポートがなかったと感じる場合に愛着の問題が顕著となる。劣悪な小児期体験の有無は、後のさまざまな精神疾患の発症や病状と関係がある。

1998年のFelittiらの報告以降、多くの研究結果が報告されたが、ACEsは、肥満、性感染症、糖尿病、脳出血、がんなどの身体的問題に加え、うつ病、アルコール依存症、違法薬物使用、自殺企図などを著明に増加させる。

また、小児期に虐待などのトラウマ経験を持つと、統合失調症、躁うつ病、うつ病、ADHD、物質乱用、PTSDへの罹患率が増加する。

牧之段, 岸本. 精神科領域の愛着のトピックス. そだちの科学 33, 27-32.日本評論社. 2019

 

「複雑性PTSD/発達障害」と診断した患者さんたちは、タイムスリップやタイムストラップを含む広い意味でのフラッシュバックを認めました(『フラッシュバックの治療』参照)

一方、「発達性トラウマ障害/愛着の障害」と診断した患者さんたちは、複雑性PTSDの「自己組織化障害(DSO)」は満たすものの、PTSDの症状が明瞭ではないのが特徴でした。

 

想像ではありますが、「発達性トラウマ障害/愛着の障害」と診断した患者さんたちは、実の両親の不仲や暴力場面は目にしているものの、実の両親からの虐待が少なかったのが特性の違いではないか、と考えています。

仮に身体的暴力が少なかったとしても、愛着対象である両親が不仲であるということは、精神的なネグレクトに相当する虐待環境であったことでしょう。

 

そのため、情動的苦痛を調整する能力(アタッチメント能力)の形成が妨げられ、本来であればアタッチメント関係の中で緩和されるはずの情動を、パニック発作や不安発作、抑うつなどの心的苦痛を過食嘔吐や自傷行為、あるいは過量服薬など自己治療方略で対処するしかなくなります。

これが衝動性や情動調節の困難など、自己制御の障害に結び付いていると考えられたのです。

 

さらに「発達性トラウマ障害/愛着の障害」と診断した患者さんたちの人懐っこさと向きあうたび、孤独感や空虚感といった過去の痛みから完全に解放されるという空想を抱き、満たされなかった愛着欲求を満たすために、求めても得られない愛着の源泉をこころの外に求め続け、食べ物や薬、あるいは人に依存する傾向にあるのではないか、と考えられるのです。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME