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目的論的モードと被暗示性の亢進(2021.09.21更新)

子どもは、養育者とのやりとりを通して養育者のメンタライジング能力を取込み、それを子ども自身が考える核としていくことで、メンタライジング能力が育っていきます。

 

子どもがメンタライジング能力を獲得するのは、およそ6歳頃とされています。

 

メンタライゼーション達成以前の主体的なありようは、「こころの原始的モード」と呼ばれ、空想と現実とが適切な距離感を取れていないことが特徴で、「目的論的モード心的等価モードプリテンド・モード」の順で出現してきます。(池田『メンタライゼーションを学ぼう——愛着外傷を乗り越えるための臨床アプローチ』日本評論社)

 

「否定的自己概念」が明確になり、高校時代にいじめを受けたセリさんの精神状態は、すごく悪化してしまったようです。

 

私は、過去に会った人物と、目の前の人物とを混同して認識してしまうことがあった。だから援助交際相手の私の体だけを求めてきた人たちと同じように、彼にも、「女」としての自分だけを求められていると錯覚した。

セックスがだめなら——と考える。捨てられないためには、いつも家をきれいに掃除するくらいしか自分に価値を見出せなかった。

それは、親から——たとえばつねに100点を取り続けるという——条件付きの愛しか受け取れず、「良い子でなければ捨てられる」といった、幼少期の思いこみからも来ていたのだろう。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

人物誤認(カプグラ症候群)とまでは言えないまでも、セリさんの対人認識は、出会う場所と時間の経験則を頼りにしているようにも見受けられます。

このことから考えると、当時のセリさんには、扁桃体や帯状回、前頭葉腹内側部など、情動脳が大きく関与する熟知相貌の情動的認知経路に、何らかの障害が起きていたようです。

 

また、情動的認知経路の機能不全があると、熟知相貌がもたらすはずの情動が喚起されません。

そして、彼も援助交際相手と同じように「女性」としての自分とのセックスを求めている、と誤った認識(錯覚)を持つ(『愛着外傷とこころの原始的モード』で説明した「目的論的モード」)まで退行しているようです。

 

それだけでなく、セリさんが「幼少期の思いこみからも来ていたのだろう」とふり返った「良い子でなければ捨てられる」といった思いこみは、大脳内側正中部皮質を中心としたデフォールトモードネットワークの異常による「結論への飛躍(jumping to conclusion)」といわれる推論プロセスの異常が起きていたようです。

つまり、セリさんのこの思いこみは妄想レベルだった、ということです。

 

同じ頃から、私は、外に出ることも怖くなった。家を空けている間に誰かが来て、その時飼っていた猫に何かしたらどうしようと、何度も鍵の確認をした。

移動中のバスの中でも、窓の外に自分の飼い猫がいるような幻覚が見える。慌てて飛び降り、いないことを確認する。だけど、またバスに乗ると、同じことの繰り返しだった。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

鍵の確認は強迫性障害ではよくある確認行為です。

 

しかし、神経症圏の強迫性障害が自己の過失を恐れるのに対して、セリさんの確認行為は「安全の手がかりや危険の手がかりの誤解を含む」とされる『発達性トラウマ障害の「注意と行動の調節不全」』の様相を呈しており、被害妄想的です。

 

さらに飼い猫の幻視もあることから、解離性障害なのではないか、とも推測されます。

 

インターネットのサイトで、「強迫性障害」という病名を見つけたのは、そんな時だった。

「自分の意思に反して不安や不快な考えが浮かび、抑えようとしても抑えられなくなる。そして、その考えをなくそうと無意味な行動を繰り返すことで自分や周りの人の日常生活に支障が出てしまう病気」だという。

考えてみれば、やりすぎてしまう掃除も、猫の幻覚も、自分の意思に反した不安……。読めば読むほど、それに近い気がする。

私は、自分の苦しみの根っこが、すべてそこにあるような気がして、すぐさまメンタルクリニックに予約の電話を入れた。

その時は、病気さえ治れば、幸せになれると信じていた。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

医学部の学生の頃、統合失調症やうつ病の講義の後に、10人程度が自分もそうではないか、と教授に質問に行っていました。

この例からもわかるように、特徴(症状)を羅列されると、人間は自分に当てはまる部分を探そうとしてしまうのです。まるで血液型占いのようですね。

 

「気分変調症ではないか?」と自己分析をして受診された方に、「症状のどの部分があてはまっていて、どこは当てはまりませんでしたか?」とお聞きすると、「全部当てはまっていました。自分が自覚している症状がすべて書いてありました」と答えられます。

 

「では、気分変調症の人は自分はそうだと思うことはなく、もしそう思えるなら別の病気を考えた方がいい、という部分についてはどうでしたか?」とお聞きすると、皆さん、口を閉ざしてしまわれます。

 

推測ですが、『「自分は人間としてどこか欠けている」「自分は何をやってもうまくいかない」「何かを言って波風を立てるくらいなら、黙って我慢したほうがずっとましだ」「人生がうまくいかないのは、今まで自分がちゃんと生きてこなかったからだ」と感じていませんか?』と帯に書いてあるので、「一部に当てはまるから自分は気分変調症なのかもしれない」と「過度の一般化」で考えてしまうのかもしれません。

 

さらに「病気さえ治れば、幸せになれると信じていた」というセリさんの信念は、「魔術的思考」とも呼ばれ、被暗示性が亢進した状態だったようです。

当時のセリさんは追い込まれ、藁にも縋る思いだったということでもありますよね。

 

 

複雑性PTSD、発達性トラウマ障害など、愛着関連のトラウマや愛着の問題、発達障害との関係についての一般向けの書籍は『発達障がいとトラウマ』を参照してくださいね。

 

 

院長

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