メニュー

ブログ

トラウマ体験の種類とPTSD・複雑性PTSD(2021.05.26更新)

トラウマには「I型トラウマ(単回性トラウマ)」として知られる、災害、暴力、深刻な性被害、重大な事故、戦闘など、実際にまたは危うく死ぬ、深刻な怪我を負うなどの精神的な衝撃を受ける出来事や、そのような出来事に他人が巻き込まれるのを目撃することや、家族や親しい者が巻き込まれたのを知ること、災害救援者の体験などがトラウマ(心的外傷)となりえます。

 

「I型トラウマ(単回性トラウマ)」の場合は、直接的あるいは間接的な外傷的な出来事体験から4週間以内に始まり、3日以上続くことがあります。「I型トラウマ(単回性トラウマ)」の影響は、1ヵ月以上持続することはない「急性ストレス障害」と、6ヵ月以内に始まり1ヶ月以上持続する「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」に分けられます。

 

PTSDはI型トラウマ体験後、3ヶ月以内に発症する「急性PTSD」と、3〜6ヶ月で発症する「慢性PTSD」、6ヶ月以上過ぎてから症状がでそろう「遅発性PTSD」に分ける場合もあります。またPTSDの生涯有病率は9%程度で、12カ月間の有病率は約4%とされています。

 

PTSDは、再体験症状(解離性フラッシュバック;悪夢)、回避症状(出来事に関する思考や感情の回避;出来事の想起刺激となる事物や状況の回避)、過覚醒症状(過度の警戒心;過剰な驚愕反応、脅威の感覚)の3つの症状がそろうことで診断されます。

 

フラッシュバックという言葉は一般の人にもよく知られるようになりました。

 

杉山は、ASD(註:自閉症スペクトラム障害)におけるフラッシュバックを、「タイム・スリップ現象」と呼んでいる。彼らは、過去に起きたことを、あたかも現在の現象であるがごとくふるまい、想起内容に対して著しく距離が取れない。これらの現象は、青年期になって自我ができてくると生じるのだとしている。

また、森口奈緒美は、断片的に過去の世界に行ってしまうタイム・スリップ現象の他に、芋蔓式に想起されるタイプがあることを指摘しており、それを「タイム・ストラップ」と呼んでいる。

内海『自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐ人たちのために』医学書院

 

フラッシュバックとタイム・スリップの違いは、健常発達者とASD者の時間体験の仕方の違いにその要因があるようです。

またタイム・スリップや、タイム・ストラップの他にも、ASD者では「反響記憶」と呼ばれる、過去の出来事を何度も思い返す反芻思考をフラッシュバックと呼んでいることもあります。

 

一方「II型トラウマ(長期反復性トラウマ)」は、極度に脅威的ないしは恐怖となる性質の出来事で、最も多くは、逃れることが困難ないし不可能で長期間あるいは繰り返された出来事とされます。

「II型トラウマ(長期反復性トラウマ)」の後に生じる「複雑性PTSD(c-PTSD)」は、PTSDの診断項目をすべて満たすとともに感情、自己、対人関係機能に持続的で広汎な障害(自己組織化の障害)が見られるとされます。

 

しかし、トラウマの種類でPTSDと複雑性PTSDが区別されるのではないことに注意が必要です。

 

しかし実際には、長期反復性トラウマのサバイバーの中にもCPTSDではなくPTSDの症状のみを示す者が一部にいる一方で、単回のレイプや暴力事件の被害者であってもCPTSDの症状を示す者が一部にいる。それについては個体としての脆弱因子やサポートなど環境因子の相違が影響している可能性はあろう。

したがって、CPTSDの定義上「最も多い」ストレッサーとされた長期反復性トラウマは、あくまでCPTSDのリスクファクターではあっても、CPTSDを発症するストレッサーとなる排他的な出来事基準としてみなすことはできない。

(中略)

たとえば、これまでCPTSDは長期反復性トラウマ後の特徴的な症候群であることが強く提唱されてきた。しかし単回性トラウマ後でもCPTSDとなったり、長期反復トラウマ後でもPTSD以上にならないことがあるとすれば、CPTSDの病因論はトラウマのタイプだけにはとどまらないことになるが、病因論的な検証はいまだ十分ではない。

またPTSDとCPTSDの診断的線引きも悩ましい面が出てきそうである。DSO(註:自己組織化の障害)としての感情制御困難や否定的自己概念は従来のPTSDでもしばしば見られるものであり、どの程度のDSOからCPTSD症状とみなすのか、信頼性と妥当性のある線引きははたして可能であろうか。

飛鳥井「複雑性PTSDの概念・診断・治療」in 原田・編『複雑性PTSDの臨床』金剛出版

 

実際、こころの健康クリニック芝大門で診ているトラウマ関連障害の患者さんの中でも、I型トラウマ(単回性トラウマ)体験に伴う症状が複雑性PTSDの診断基準を満たした人もいらっしゃいます。逆に、明らかにII型トラウマ(長期反復性トラウマ)なんだけれども、複雑性PTSDではなくPTSDの診断基準しか満たさないかたもいらっしゃるのです。

「重要なのはトラウマの種類そのものよりも、対人関係の中で慢性反復的に起こり、極度の恐怖に長時間曝露されること」なのです。(細金・齋藤「児童の複雑性PTSDへの対応」in 原田・編『複雑性PTSDの臨床』金剛出版)

 

一方で、II型トラウマ(長期反復性トラウマ)の体験があるにも関わらず、PTSDの3徴候がそろわずに感情調節の障害、否定的な自己概念、対人関係の障害など「自己組織化の障害」だけの症状を呈する自閉症スペクトラム(発達障害)の方もいらっしゃるのです。

 

飛鳥井先生はPTSDと複雑性PTSDの線引きを困難にする要因として、「個体としての脆弱因子やサポートなど環境因子の相違が影響している可能性」を示唆されています。

 

自閉症スペクトラムなどの発達特性と小児期のII型トラウマ体験(虐待など小児期逆境体験やいじめなどの家庭外の逆境体験)とサポート要因(愛着の障害)は、どちらがタマゴでどちらがニワトリなのか区別できないことも多く認められます。

 

ICD-11の基準を満たすかどうかが微妙なところのある“心的外傷〜トラウマ”を含めることも適宜可能とさせていただく。というのは複雑性PTSDと共通性の高い病態が、ICD-11の基準を明確に満たす状況以外でも高頻度で見受けられると、今回の企画担当者が認識しているためである。

具体的には、「親によるネグレクト〜心理的虐待、過酷ないじめや各種ハラスメント、暴力的教師による不適切な関わりに伴う被害」などに伴う、謂わば“軽症・複雑性PTSD”の存在。

原田「はじめに 本書に込めた、ほのかで切実な願い」in 原田・編『複雑性PTSDの臨床』金剛出版

 

原田先生は、「①精神科診療〜精神療法を行う上で複雑性PTSD概念がすこぶる重要であり、この視点を持つことが必要不可欠だが、②現在本概念が十分認識され、この病態を踏まえた臨床が十全に実施されているとは言えず、③さまざまな弊害が生じている現象がある(例:複雑性PTSDを有する症例の治療が滞りがち)」と述べられています。(前掲書)

 

さらに「治療者側に謂わば「外傷性精神障害に対する外傷体験トラウマ」と命名するのがふさわしいような心情が存在し、これまでの事態にかかわっていたのではないかと感じている」と、おっしゃっています。

さらに、さまざまな診断名で種々の治療薬を投与されているにも関わらず、トラウマの話をした途端に手のひらを返したように「トラウマは専門ではないから」と主治医から突き放される現状への危機感を募らせていらっしゃいます。

 

複雑性PTSDは、日常臨床でしばしば遭遇する疾患であり、専門外であるという理由で診療を断ったり他院を紹介したりすることも、臨床医として適切な判断とは思われない。

斎藤「複雑性PTSDとオープンダイアローグ」in 原田・編『複雑性PTSDの臨床』金剛出版

 

オープンダイアローグに普及に力を注いでいらっしゃる斎藤環先生は上記のように述べておられます。

 

あの体験はもしかするとトラウマ体験なのかもしれない、うつと診断されて抗うつ薬を飲んでいるけれどもトラウマ関連障害なのかもしれないと思われる方や、主治医から「トラウマは専門外だから」と言われた方は、こころの健康クリニック芝大門に相談してくださいね。

 

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME