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3度穴に落ちて(2020.09.04更新)

今日はまずこの詩をみなさんにご紹介したいと思います。

「5つの短い章からなる自叙伝」


第1章
私は通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
私は落っこちる。
私はどうしたらいいのかわからない…どうしようもない。
これは私の間違いじゃない。
出方がわかるまでものすごく時間がかかる。


第2章
私は同じ通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
私はそれを見ないふりをして、
またまた落っこちる。
また同じ場所にいるのが信じられない
でも、これは私の間違いじゃない。
やはり出るのにずいぶん時間がかかる。


第3章
私は同じ通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
それがあるのが見える。
それでも私は落っこちる、…これは私の習癖(くせ)だ。
私の目は開いている。
自分がどこにいるのかわかる。
これは私のしたことだ。
すぐそこからでる。


第4章
私は同じ通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
私はそれを避(よ)けて通る。


第5章
私は別の通りを歩く。
From "There's a hole in my sidewalk: the romance of self-discovery" by Portia Nelson   
作/ポーシャ・ネルソン 訳/深沢道子

 

この詩は、私が2度目か3度目に穴に落ちた時、生野先生から教えていただいたものです。私自身もまさにこの詩と同じ過程を歩んできたのだと、この詩を読むたびに実感します。

今日はこの詩に照らし合わせて、そんな私の道のりを振り返ってみたいと思います。

 

第1章:私にとっての1度目の落下は大学の休学だと思います。休学に至るまでのことは前回「心の蓋」でお話しした通りですが、休学した当時は自分がなぜこうなってしまったのか、これからどうしたらよいのか全く分からずに、真っ暗闇の中にたった一人置いて行かれてしまったような気持ちでした。

実家に戻った私を見て両親は「なんでお前が…」と頭を抱え落胆していました。私は自分の中から湧き上がる不安、恐怖、孤独、自己嫌悪、情けなさ、恥といった感情に押しつぶされそうでした。1日中部屋の電気もつけずに布団をかぶって泣いていました。

数か月が経ち少し落ち着いたころから、私は塾のアルバイトをしながらこれからのことを考え始めました。医学部以外の道を模索していたのですが、そのたびに父は「そんなところに行ってどうする」と声を荒げました。結局私自身も医学部を辞めて他の道に進む勇気がなく、今度戻ってダメだったらその時は退学しようと心に決め、復学することにしました。

 

第2章:復学の少し前からダイエットに励み、さらに復学後は新しい学年になじまなければという緊張感から食事量が減りました。今思えば、休学したことを恥じていた私は痩せることで何とか自信をつけようとしたのです。けれどそれもうまくはいきませんでした。

5年生から病院実習が始まると、親の職業や腕の傷だけでジャッジされることも多く、そのたびにつらい思いをしました。それでも何とか大学を卒業し、国家試験にも無事合格することができました。しかし働き始めても、そのつらさは変わりませんでした。むしろ世間知らずで何もできない自分に落胆し、自信をなくしていきました。

 

第3章:頑張っても頑張っても私の自信のなさが消えることはなく、これ以上頑張れない状況にまで追い込まれた私は、とうとう小児科の後期研修中に休職することになりました。私の摂食障害は、高校卒業から医師として働き始めるまで少しも良くなることなく私を苦しめ続けていました。

そしてやっと治療に行きついたのもこの時でした。生野先生との治療の中で、これまでの自分の人生を振り返り、未整理だったたくさんの出来事を一つずつ位置づけしなおす作業をしていきました。そして徐々にまた小児科医として仕事をしたいという気持ちが湧いてきました。別の病院で小児科医としての再スタートをきった私は、そこで小児科の専門医を取得することもできました。

しかし、またまた私は穴に落っこちてしまったのです。復職後、私は自分の欠点や弱点を何とかして補おうと必死になっていました。周りの小児科医は皆優秀でしたし、ブランクのある私は医師としての年数だけ経って中身の伴っていない自分をとても恥ずかしく感じていました。ですから小児科のあらゆる分野の本を買って勉強し、色々な講習会にも参加してその穴を何とか埋めようとしていました。しかし、あることをきっかけに私の心は簡単に折れてしまいました。

 

第4章:2度目の休職後、私は一旦医学から離れてみることにしました。子供のころ好きだったことや好きだったものにもう一度触れてみたり、その時やりたいと思ったことに挑戦してみたり。どんなに小さなことでも、自分の気持ちに正直に行動することを心掛けたのです。もちろん休職中であることや、この先のことを考えて落ち込んだり不安になったりしたことは何度もありましたが、この状況だったらそう感じるよねと自分の感情を否定せずに受け止めるよう意識しました。

 

第5章:私は3度穴に落ちるという経験から、ようやく自分の本当の課題に気づかされました。

1度目は痩せることや容姿に気を遣うことで自信をつけようとしてうまくいきませんでした。2度目は自分のできないことや苦手なことを補うことで自信をつけようとして、それもうまくいきませんでした。

 

私がそれまでやろうとしていたことは、今の自分ではダメだという評価を自分に下し、それを何とかして自信をつけるということでした。けれど、私に本当に必要だったのは、自分への評価でもなく、外に向かって努力することでもなく、ましてや自信をつけるということでもありませんでした。

ありのままの今の自分を「ああ、これが私なんだな」と受け容れることだったのです。

 

それに気づいた時、私はふと生野先生が昔描いてくれた欠けた円の絵を思い出しました。欠けた部分を補って完璧な円にしようと頑張るから苦しくなる。欠けているのではなく最初からそれが完成形で、その形のまま成長していくと考えたらどうだろう、と先生は説明してくれました。その時の私はどうしても欠けた円にしか思えませんでしたが、今は完璧な円でないその形こそ自分らしいと感じています。

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