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つらさの種類 (2020.09.11更新)

摂食障害を発症してから高校を卒業するまでは、病気のつらさが中心だったと思います。

例えば拒食の頃は太ることが怖いとか、どのくらい食べればいいのか分からないとか。過食に転じてからは、したくないのに過食してしまうとか一度食べ始めると止められないとか。そういった症状からくるつらさが変わっていったのは大学に入学してからのことでした。

 

大学に入ると、それまでの限られた世界が一気に広がったような感じがしました。1学年約100人、全国各地から様々な背景の人たちが集まってきています。同級生だけでなく先輩後輩、他の学部さらには他大学とのつながりもあります。私は、出会う人すべてと自分を比較してはその都度劣等感を抱き、落ち込みました。そして、自分のぼろがはがれないようにと神経をとがらせました。

方言を馬鹿にされれば一生懸命治そうとしましたし、高校卒業までメイクをしたことがなかった私はデパートの化粧品カウンターに通ってはいろいろな化粧品を購入して練習しました。洋服を買いすぎて、その月の仕送りを使い果たしてしまったこともありました。

こうやって私は、自分の自信のなさをメイクや洋服、痩せることで埋めようとしていたのです。しかしそんなことで自分に自信がつくわけではありません。当時の私は、毎日自分を取り繕うことに疲れ、その緊張を解いたり、寂しさを紛らわせたりするために過食嘔吐をしていたのだと思います。過食嘔吐は、学校で押し殺している様々な感情への唯一の対処法だったのです。

 

就職してからも、私はダメな自分が露呈することを何よりも恐れていました。医者のくせにこんなことも知らないのか、こんなこともできないのか、と言われるのではないかといつもびくびくしていました。

また対人関係の悩みも増えました。当時は「境界線」を認識していませんでしたし、他人と仲良くなるためには自分の身を切らなければいけないと思い込んでいました。ですから少しでも仲良くなると自分のことを何でも話してしまい、そして毎回あんなことを話さなければ良かったと後悔するという繰り返しでした。

 

このように、大学生以降は病気の症状に関連するつらさから、生きづらさへ変わっていきました。もともと私の摂食障害は、私自身があまり自覚していなかった「生きづらさ」から来ていたと思いますが、親元を離れ一人でやらなければいけないことが増え、関わる世界が広くなったことでその「生きづらさ」をはっきりと認識できるようになったのだろうと思います。

また、それだけ私の中の摂食障害が、私の人生における影響力を強めていったという見方もできるかもしれません。いずれにしても、私の場合は症状のつらさから生きることのつらさを自覚するようになったことで治療に結びつき、そしてまた摂食障害から回復したいという気持ちを持たせ続けてくれたと言えると思います。

 

患者さんの中には、「食べたいけれど怖くて食べられない。どうしたらいいか。」とか「食べたくないのに食べるのがやめられない。どうしたらいいか。」など症状を何とかしてほしいと仰る方も少なくありません。

ですが、症状そのものを何とかしようとすることと治療は全く違います。摂食障害は一種の隠れ蓑です。あなたが本当に向き合わなければならない課題を一時的に覆い、見えなくしているのです。

そして症状は結果です。症状そのものではなく、症状に結びつく前にあなたが何を感じ、どういう考えに至ったのかを丁寧に振り返ることが大切なのです。

ですから症状から一旦離れ、あなたが何を感じ、何を考え、どんな風に生きているのか、あなたの生きざまの一部を切り取ってきてほしいのです。それはたとえ話でもなく、他の誰かの話でもなく、「何月何日にこういうことがあって…」というようなあなたの具体的な体験です。それを続けていくことによって、少しずつあなたの真の課題が見えてくるはずです。

 

アニータさんはこう述べています。

もし食べ物や痩せること、そしてダイエットに執着しているなら、食べ物に関する行動は、人生で本当に苦しんでいることから気をそらすためのものなのです。太っているように感じるのはとても苦しく辛いことですが、太っているという気分に集中することで、解決できそうにもない嫌な気持ちを実体的なものにして、いわば定義を与えることができます。

食べ物に集中することは、文字通り、そして比喩的にも、問題の根源に「手を触れる」方法のように見えます。しかし、池に映った星のように、それはただの錯覚なのです。

アニータ・ジョンストン著「摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語」より

 

そして、乱れた食行動から解放されるためには何が必要かも述べています。

「真の問題」に対処するには、まだ培っていないスキルが必要かもしれませんし、解決するなって虹を上るのと同じくらいに不可能なことのように感じられるかもしれません。けれど、本当の問題が引き起こしている錯覚に惑わされることなく、乱れた食行動の陰に隠れている葛藤や感情を表に出して解決することに全力を注ぐことができれば、乱れた食行動の役割や意図を知ることができます。

(中略)

乱れた食行動から解放されるという夢を追うと決めたなら、星を触りたいと願うだけではどうにもなりません。前に進み、正しい道を歩き、痩せれば幸せになれるという錯覚に惑わされず、また、ダイエットを続ける十分な意志があればいいんだ、カロリー計算が解決策だ、食べ物が問題なのだという信念にも惑わされないという、強い決心と覚悟が必要なのです。

アニータ・ジョンストン著「摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語」より

 

あなたがもがきながらも懸命に生きている、そんな日々の中にこそ回復の糸口が隠されています。症状に惑わされず、あなたにしか語ることのできない体験を振り返ってみませんか?

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