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適応障害と反応性うつ状態(2020.09.09更新)

「うつ病」は以前は「内因性」と「神経症性」に分けられていて、内因性のうつ病には抗うつ薬が効き、神経症性のうつ病には環境調整や長期の精神療法が必要とされていました。

 

現在の診断基準では、内因性と神経症性の区別がなくなり、一律に「うつ病」と診断されます。

心の不調のために精神科や心療内科を受診した患者さんは、「うつ病ですから休職しましょう」と説明され、会社宛に休職診断書が提出されます。また「この薬を飲んで様子をみてください」と、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬など数種類の薬が処方されます。

 

ところが「うつ病で治療を受けているけど、よくならないのでそちらにかかりたい」とこころの健康クリニックに転院を希望される方が多いのです。

もちろん、こころの健康クリニックでは「リワーク(職場復帰支援プログラム)」があるので、病気を治して早く復職したいと思っている方もいらっしゃいますし、症状を訴えるとどんどん薬が増えるばかりなので対人関係療法や薬によらない精神療法で治したいと転院を希望する方もいらっしゃるのです。

 

以前、こころの健康クリニックに転院してこられた患者さんから、このようなことをお聞きしました。

「前の病院では[適応障害によるうつ状態]と診断されて抗うつ薬を飲んでいるのですけど、効いている感じがしないし薬が増えるのもイヤなんです。それに薬を飲んでいれば復職できるとも思えないし。」

この方が心の不調をきたしたきっかけが、移動した先の部署でプロジェクトのリーダーを任されて、業務内容がプロジェクトの進捗状況や部下のマネージメントなどにシフトしたことでした。また以前の職場でも同じような出来事があって不調をきたして転職した経緯がありました。

 

この患者さんの場合、働き方の変化で不調を起こし、他の様々な状況でも同様の不調を繰り返すパーソナリティの問題や、生来的な脆弱性と状況とのミスマッチがありそうでした。

このような「反応性抑うつ状態」は、以前は「神経衰弱(F48.0)」と呼ばれていました。

 

特に激しくはない精神的、身体的な労働であっても、易疲労感や衰弱を自覚し、充分な休養を経ても同様の状態を繰り返すことによって規定される。

疲労感、頭痛、頭重、不眠、肩こり、耳鳴り、めまい、手指や眼瞼の振戦、知覚過敏、集中力散漫、記憶力減退、被刺激性亢進、心気傾向、連続的作業に対する気後れ、などがあり、多岐にわたる。

過去に神経衰弱と診断された症例の多くが、今では「F32 うつ病エピソード」/「F33 反復性うつ病性障害」か「F40 恐怖症性不安障害」/「F41 他の不安障害」、あるいは「F45 身体表現性障害」の診断が下されている。

中根、山内、岡崎『ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

現在は「適応障害」と診断される「反応性抑うつ状態」は、過度の心身の疲労状態であり、その状態で仕事を続けることでさらに心身の疲労が増すという悪循環が起き、無力状態におかれてしまいます。

心身の疲労状態は、精神的疲労と身体的疲労によって2つの型に分類されています。

 

1つは精神的な労働の後に顕著な精神的易疲労性が現れるもので、職業や日常生活上の活動能力の低下に結びつく。余計な考えに妨害されることによる注意力散漫や集中力低下、思考あるいは能率低下、アンヘドニア、知覚過敏、記憶力減退などの訴えとして現れる。

2つめの病態は、身体的な労働の後の身体的疲労が強調されるもので、易疲労感や筋緊張性頭痛、頭重感、不眠あるいは過眠、振戦、めまい、耳鳴り、肩こりなど多彩な症状が認められる。心気的傾向、軽度でさまざまな不安や抑うつなどを伴うことが多い。

中根、山内、岡崎『ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

「適応障害」と診断されるこれらの病態は、神経症性不安を合わせもった「神経症性抑うつ」と考えると理解しやすいですよね。

 

現在、精神科や心療内科で行われている治療を考えてみると、①診断の問題、②病名の問題、③治療方針と治療法の問題、の3つの問題があるようです。

①の診断の問題と③の治療法の問題については、『うつ病と適応障害のストレス反応の違い』で説明しましたし、冒頭で少しだけふれましたのでそちらを参照していただくとして、この方の[適応障害によるうつ状態]という診断と抗うつ剤による治療は不適切と言わざるを得ないですよね。

 

そもそもうつ病でも適応障害でも、薬物療法だけで改善するのは不可能です。ところが、医師から「抗うつ薬を飲んで様子をみましょう」と言われると、患者さん自身も「薬で治る病気」と錯覚してしまいます。

加えて、薬物療法のみを行う多くの精神科や心療内科、メンタルクリニックの精神科医が、生活環境の調整や気質や性格に焦点を当てた対処行動の指導などを行わないことで、患者さんの側もお任せした感じになり、「自分で改善の努力をする」「心と向き合う」などといった治療意欲が損なわれてしまうのです。

さらに職場では疾病性と考えられてしまうので、事例性を考慮したり、産業医とともに職場環境の改善を行う必要性を理解することが難しくなってしまうようです。

 

つまり、適切な治療を行うためには、「軽症の内因性うつ病」と「非内因性抑うつ(神経症性抑うつ、反応性抑うつ)」を鑑別することが必要不可欠だということですよね。(『休職中の睡眠覚醒リズム』参照)

 

ちなみに上記の患者さんは、こころの健康クリニックのリワークでトレーニングして復職されました。前主治医からは、「部署異動に伴う適応障害だから、休職前の部署には戻らない方がいい」と言われていたそうですが、リワークプログラムで対人関係療法を学び、今ではプロジェクトリーダーとして部下のマネージメントもこなし、再発することなく働いていらっしゃいます。

 

院長

 

※北里大学の宮岡先生が「良い心療内科医・精神科医の見つけ方」というWeb講演会を行われます。

2020年9月13日(日)13:00〜14:00

参加は無料で、どなたでもご視聴いただけるとのこと。

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