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アタッチメントとその障害の今(2021.10.20更新)

一般向けの本では、いわゆる「愛着障害(アタッチメント障害)」は、乳児期から幼少期の養育者との関係に起因する、回避型・アンビバレント型・恐れ型など、安定型以外の「不安定型アタッチメントスタイル」を指すものとして説明されてきました。

 

一方、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)では、身体的虐待や性的虐待といった直接的、侵襲的な出来事ではなく、適切な愛着を形成する「機会」もしくは「場」がないことが「愛着障害(反応性愛着障害・脱抑制型対人交流障害)」の要因であるとされています。

 

「愛着障害」では、愛着が形成されないことが特徴なのです。

つまり、一般向けの本でいう不安定型アタッチメント・スタイルは、診断基準でいう「愛着障害」とは何の関係もないということです。

 

近年になってアタッチメントの障害と、ASD(自閉症スペクトラム障害)あるいはADHD(注意欠如/多動性障害)の異同に注目が集まっています。

 

チャウシェスク政権下の悪政によって生じたルーマニアの孤児らをフォローした研究により、劣悪な環境の孤児院で育てられた子どもらは、その後に暖かい家庭で養育されても長期にわたってADHDやASD様の症状を呈し、また、感情的な問題が思春期以降に顕在化してくることも報告されている。

牧之段, 岸本. 精神科領域の愛着のトピックス. そだちの科学 33, 27-32.日本評論社. 2019

 

適切な愛着を形成する「機会」もしくは「場」が提供されたとしても、長期にわたってASDやADHD様の症状が続くのはなぜでしょうか?

 

従来の愛着障害研究では、養育者による虐待などの養育環境不良が愛着障害の主な原因だとされてきたが、近年に入り、愛着が子ども側の神経発達障害に代表される感覚過敏や原始反射の残存などによってうまく形成されないことや、子宮内環境不全の影響で胎児期の心的外傷として愛着障害が生じることが指摘されるようになった。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

発達早期から思春期を経て成人期までのアタッチメントを追跡した報告についても、アタッチメントのパターンに縦断的な変化が見られることが示された。

さらに遺伝環境相互作用の枠組みで解析を行うと乳幼児期にはアタッチメントは双生児間で高い相関を示し、その大半は遺伝要因よりも共有環境が寄与していた一方で、思春期では遺伝率が35〜38%と遺伝要因の方が相当な割合で寄与しているという結果となった。

山下. アタッチメントの理論と臨床. そだちの科学 33, 8-13.日本評論社. 2019

 

愛着障害などのアタッチメントの問題は、環境要因だけでなく、子宮内環境の影響、あるいは子ども側の神経発達障害など遺伝的な要因が寄与していることが知られるようになってきました。

 

思春期までは環境要因が、思春期以降は遺伝的要因が大きく関与してくるという事実は、こころの健康クリニックでは、「乳歯の虫歯は親の歯みがき指導の影響ですが、歯が生え替わり永久歯になってからの虫歯は自分が歯磨きをしたかどうかによります」と説明していますよね。

 

人間は社会的・心理的存在として生きている(そうとしか生きられない)。けれども、生まれた時点ではまったき生物的個体だったはずである。

その生物的個体としてのヒトが社会的・心理的存在としての人間に向かって歩むには何らかの力が働かねばならず、その推力が「アタッチメント」にほかならない。

(中略)

子どものアタッチメント力が少々弱かったとしても、実際に「近接」するのは親だから、それに補完されて「アタッチメント」が成立して、関係形成が進展することが起きる。

その逆に、子どもが十分なアタッチメント力を持って生まれても、親(成人)がしかるべく近接しなければ「アタッチメント」の成立は妨げられ、関係形成が阻害されることも起きる。

ヒトの「アタッチメント」はたえず双方向的な関係の中で成立し、その「アタッチメント」が双方向的な関係性を育むという複雑な発達の構造が見て取れる。

滝川.「アタッチメント」を考える. そだちの科学 33, 2-7.日本評論社. 2019

 

一時期話題となった「毒親」関連の本についても、「双方向的な関係」という対人関係の本質をわかっていらっしゃらない方がお書きになり、さらに、神経発達障害などの遺伝的要因をもった人がそれを信じ込んでしまったのかもしれません。

 

愛着障害とは何か。それは、「絶対的信頼・安心安全の欠如」が人生早期から長期に渡って続いている状態のことである。

母子相互の愛着が何かしらの要因でしっかり内在化(身体化)されないと、その後の社会性や対人関係の広がりに問題を呈することについては、ボウルビィ始め多くの研究者たちが論じている。

ボウルビィは、発達早期における母親への絶対的安心を求める乳児の欲求に焦点を当て、愛着を与えられない子どもが過度の愛情欲求や復讐への欲求、強い罪悪感、抑うつ、緘黙的無反応、発達遅延、そして後の発達段階になると、感情の欠落、集中力の欠如、嘘をつく、強迫的盗癖といった徴候を示すことを示唆した。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

 

「愛着障害(アタッチメント障害)」が長期にわたって続くのは、生来的なASDやADHDなどの遺伝的要因が加わったためであると考えられます。

 

その観点でボウルビィが示した「愛着障害(アタッチメント障害)」の症状を見てみると、①ASDに代表される対人関係の障害をはじめとして、②ADHDに代表される衝動・情動調整の問題③否定的自己概念などの認知機能の問題、など、「自己組織化の障害(DSO)」と重なりあうようです。

 

愛着障害が心的外傷である理由は、乳幼児にとっての愛着形成不全が生命の存続を脅かす危機的状況を意味するからである。

(中略)

著者は、これまでASDの子どもと出会い不思議に感じていたことがあった。それは子どもらしさの欠如だった。大人びた顔つきの子どもが多かったのだ。

その他、こだわり、偏食、指差しがない、言葉が遅い、同じ行動を繰り返す、排泄の自立が遅れる、視線が合わない、つま先立ちで歩く、姿勢が独特、声が甲高い、聴覚過敏、嗅覚過敏、アレルギー体質、人見知りや反抗期がないなど、一般によく知られている状態についてもその原因について知りたいと思っていた。

知的障害の有無に関係なく、ASDの子どもに共通する「子どもらしさの欠如」と虐待を受けてきたこどもに共通する「子どもらしさの欠如」の共通点と相違点がどこにあるか著者は考え続けてきた。そして両者に「愛着障害」と「心的外傷」があることに気がついた。

杉山登志郎氏は、発達障害の子どもに児童虐待被害者が多いことに言及している。しかし、虐待を受けていないASDの子どもであっても、「子どもらしさの欠如」をあわせもっていることから、その根底には、「絶対的信頼」「絶対的安心・安全」の欠如があることが想定される。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

 

愛着障害(アタッチメント障害)者は、他者を介して情動を調節するという基本的なアタッチメント機能を獲得していないので、助けを求めないとされています。

同じことが、ASD児あるいは虐待をうけたASD児にも共通するとされています。

 

ASDの子どもは助けを求めない。それはこの世に信頼できる他者がいないからに他ならない。絶対的信頼の欠如は絶対的孤独を意味するわけだが、ASDの子どもや依存症者のこだわり行動は、乳幼児が母親にこだわるように、何かしらの対象にこだわることで安心・安全を得ようとする自己完結型自己治療とも考えられる。

(中略)

愛着障害(心的外傷)があることで、人は、依存、自傷、摂食障害、ひきこもりなど種々の症状を呈するようになる。どの症状も孤独な自己治療といった共通項があるからだ。

他害、暴力、暴言、反社会的行動など行動化においても同様である。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

 

愛着の障害(発達性トラウマ障害)と複雑性PTSDは、DSMやICDの診断カテゴリーをまたいで、さまざまな臨床像を示すことはよく知られています。

 

診断基準がなければ診断ができない。しかしICD-11の公表と同時に、臨床家は複雑性PTSDの治療を求められることになるのである。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

では、愛着の障害(発達性トラウマ障害)と複雑性PTSDに対しては、どのような治療法が必要になるのでしょうか。次回以降はそれをみていきましょう。

 

院長

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