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フラッシュバックの治療(2021.10.11更新)

フラッシュバックは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に特徴的な再体験症状とされ、外傷体験に関連した記憶(トラウマ記憶)が、突然に、また鮮明に甦ることを指しています。

 

大人のトラウマを診るということ——こころの病の背景にある傷みに気づく』には、過去の記憶を思い出して嫌な気持ちになるという日常語にもなっているフラッシュバックと、「ありあり」と「はっきり」と映像のように思い出す侵入的記憶想起と呼ばれるPTSDにともなうフラッシュバックは、区別する必要があることについて述べられています。

 

PTSDの再体験症状は、《生々しい侵入的な記憶やフラッシュバックや悪夢の形で起こる。再体験には恐怖や戦慄などの強く圧倒的な情動や、強い身体的な感覚を伴う》と説明されます。

 

フラッシュバックが再体験症状と呼ばれるのは次のような理由によります。

 

トラウマ性ストレスの最中には、詳細な言語記憶を構成することは難しいのですが、ストレスと同時的に、持続性の高い、状況に接近できる記憶を形成することはできます。この状況的記憶がフラッシュバックの正体であり、トラウマを再体験しているという感覚を伴って生起します。

フラッシュバックは、意図的に思い出されるのではなく、状況想起手がかりによって非意図的に引き起こされます。この非言語的記憶は感覚的−知覚的イメージの形をとり、それは視覚像(例えば不意に現れる人影)、音(例えばバタンと閉まるドア)、匂い(例えばアルコール)だけでなく、身体感覚(例えば痛み)をも含みます。

これらの侵入性記憶は、その経験のホットスポットや最悪の瞬間と関連しているのが通例です。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

フラッシュバックは、回想や連想的な記憶想起(タイムストラップ)とは異なり、「状況想起手がかり」刺激によって非意図的に引き起こされます。

 

フラッシュバックの正体である「状況的記憶」は言語的に意味づけがなされていないため、「今/ここ」に、視覚イメージとして脈絡なく入り込んでくるように体験されるのです。

 

フラッシュバックは、些細な引き金によって引き出される。これは思い出すのではなく、強烈な再体験である。

上岡らはフラッシュバックを「どこでもドア」と形容している。どこにいても、いつであっても、ドアが開けられるとそのトラウマ場面のなかに立ちすくんでいるのである。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

さらにフラッシュバックは、視覚イメージだけでなく、さまざまな形態があるとされています。

自験例でも、映像によらない「認知・試行的フラッシュバック」の存在を知るまでは、患者さんの心のなかで何が起きているのか理解できずに、長い間、試行錯誤して治療していた時期がありました。

 

言語性フラッシュバックは、虐待者から言われたことのフラッシュバックで、子どもが些細なことから切れて、急に目つきが鋭くなり低い声で「殺してやる」などという現象である。

認知・試行的フラッシュバックは、虐待者に押しつけられた考えの再生で、「自分は何をやっても駄目だ」などの考えが繰り返し浮かぶことである。

行動的フラッシュバックは、俗に言う「キレ」る状態で、急に暴れ出す、殴りかかるなど虐待場面の再現である。

生理的フラッシュバックは、子どもが首を絞められたときのことを語っている際に、首を絞めた加害者の手の跡が首の周りにうかぶという不思議な現象である。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

フラッシュバックに対する治療として、いわゆる「神田橋処方」として知られる桂枝加芍薬湯と四物湯の合方が有名です。

私自身も発達性トラウマ障害や複雑性PTSDの患者さんに使うこともあるのですが、背景に自閉症スペクトラム(発達障害)があると、漢方薬の剤形(顆粒)や匂い、味が苦手で服用できない方も少なくありません。

 

フラッシュバックは強烈で自生的な記憶想起体験です。

想起された記憶体験との距離が保てない(トラウマ場面のなかに立ちすくんでいる)場合がほとんどで、強烈な感情体験を伴います。

 

この状態はある意味、悪夢のなかで怖いモノに追いかけられながら、なかなか目を覚ますことができない状態と似ています。頭の中で起きていることが、まさに今の瞬間に現実に起きているように感じられるのです。

 

フラッシュバックは、最も極端な形での非メンタライジング−−つまり心的等価(心理状態を現実そのものとして捉えること)−−の代表例です。

PTSDの治療は、心的等価(トラウマをまるで今起きているかのように再体験すること)からメンタライジング(今では安全だと感じながら侵入性症状を記憶として認識すること)に移行できるように患者を助けることです。

J.G.アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

心的等価モードからメンタライジング・モードに移行するには、今、舞台の上でトラウマ再体験にスポットライトが当たっている状態から、舞台全体にスポットライト(注意)をあてることに相当します。

 

これには2つの方法があります。

 

1つは、トップダウンと呼ばれ、たとえば、フラッシュバックの最中で闘うか逃げるか反応が起きているとき、覚醒度が高くなりすぎていることに気づくこと、目で見ているもの、耳で聴いている音、皮膚で感じていることに順に注意を向けていくやり方です。

 

もう1つはボトムアップと呼ばれるやり方で、覚醒亢進状態が落ち着くまで深呼吸する、あるいは身体を交互タッピングするなど、観客席の前の方(身体)にスポットライト(注意)をあてるやり方です。

 

こころの健康クリニック芝大門での治療の時にも伝えていますが、これらの対処法は普段から練習しておく必要があります。

 

教習所の運転コースで練習せずに、いきなり路上で運転しようとしてもうまくいかないだけでなく、逆効果になってしまいます。

そのため、フラッシュバックが起きていないときこそ、いい練習の時間だと思って、上記2つの対処の仕方を練習しておけば、実際にフラッシュバックが起きたときは、検定試験(卒業試験)だと位置づけて取り組むことができますよね。

 

院長

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