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感情調節・衝動制御の困難とDESNOS(特定不能の極度ストレス障害)(2021.10.25更新)

否定的自己概念と解離〜気分変調症との違い』で、ニクレスクとアキスカルは、気分変調症を、アンヘドニアを主徴とする「無力型気分変調症」と、トラウマの関与がある「不安型気分変調症」に分類したことを紹介しました。

 

慢性のうつ状態の特徴である「絶望感と無力感」は、不安、恐怖、抑うつ、身体化などとともに「内在化症状」と呼ばれます。

 

この「内在化症状」を主徴とするのが、「ASD/複雑性PTSD」とも考えられるアンヘドニアを主徴とする「無力型気分変調症」です。

 

アンヘドニア(興味の喪失、快感の喪失など)、易疲労性、集中困難を伴うが、抑うつ気分、罪責感、睡眠の障害、食欲の障害、精神運動抑制または焦燥、自殺性を伴わない人は、社会的機能障害がどれほど深刻であったとしても、大うつ病性障害の診断基準は満たさない」とされています。(マフソン『思春期うつ病の対人関係療法』創元社)

 

一方、トラウマの関与がある「不安型気分変調症」は、多動、かんしゃく、反抗性、非行などは「外在化症状」を主徴とし、「ASD/ADHD/発達性トラウマ障害(DESNOS; 特定不能の極度ストレス障害)」とも考えられるのではないでしょうか。

 

セリさんの「自己組織化の障害(DSO)」の中心症状である、自己の卑小感、敗北感、無価値感などの持続的な思いこみである「否定的自己概念」は、思考と現実の混乱を引き起こし、セリさんを苦しめ続けたようです。

 

だけど、そんな中でも、私の自己否定感は、仕事の足を引っ張った。

クライエントからメールの返事が1日来ないだけで「怒らせた」と怯えてしまう。些細な修正依頼が来ただけで、自分の存在すべてを否定されたようで、「こんな、何もできない私なんて、生きる価値がない」という気持ちが襲ってきた。

私は、ひとつでも、うまく行かないことがあると、何もかもがダメだという極端な思考に陥りがちだった。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

「否定的自己概念」は、自己に対する「心的等価モード」だけでなく、「白黒思考(全か無か思考)」という極端な思考を引き起こしています。

この考え方は、自己否定・自己嫌悪を強化してしまい、次から次に「○○しなくちゃ」という「べき思考」を生みだしてしまいますよね。

 

「おまえは世界一のできそこない」。

かつて父に言われた言葉が、仕事のうえでもずっと付き纏った。

私は仕事のストレスが溜まるたび、大量のお酒を飲んで、くだを巻き、夫につらく当たるようになった。

事情を説明し愚痴を吐くなら、まだわかる。だけど、私の場合はただの暴言。それは、まるで幼少期、酒を飲んでは罵声を浴びせた父の生き写しのようだった。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

セリさんが回顧しているように、「かつて父に言われた言葉」が内在化されたことが、セリさんの「否定的自己概念」の根底にあるようですね。

 

「否定的自己概念」から生み出される不安・焦燥・不満・憤懣などの気分解消行動として、飲酒により感情麻痺を図ろうとしたセリさんは、逆に感情反応の亢進、暴力的爆発など、「自己組織化の障害(DSO)」のひとつの症状である「感情調節障害」も引き起こしています。

 

そして、セリさんのこころの中で切り離された矛盾や葛藤などが、気づかないうちにセリさんと夫の関係の中にもちこまれ、セリさんが自分では決して望まなかったはずの「父の生き写し」になり、夫がかつてのセリさんの役割を演じさせられてしまう「エナクトメント(再演)」を引き起こしてしまっていますよね。

 

「また、病院に行くしかないか……」

凝りもせずそう思ったのは、私のアルコールへの依存が、日に日にひどくなってきたからだ。

(中略)

問診の末、希望通りの薬(註:睡眠導入剤と精神安定剤)が処方された。もう「治療」なんて夢見ていない。アルコールをやめるための薬さえもらえればそれでよかった。

(中略)

だけどお酒を止めても、いや、やめた反動だったのだろうか。私の精神は日に日に不安定になっていった。

私は夫に暴言を吐くどころか、また暴力行為や、自傷を繰り返すようになってしまった。

理由なんてわからなかった。

ふとしたきっかけで、発作のようにネガティブな感情がわきあがる。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

セリさんが医師に所望した睡眠導入剤と精神安定剤は脱抑制を起こす、つまり感情耐性が低下し感情調節や衝動制御ができなくなってしまいます。

抗不安薬は、PTSDの症状の経過を改善しないこと、長期連用が推奨されていないことはよく知られているのですが、実際は漫然と抗不安薬が投与され、PTSDあるいは複雑性PTSD、トラウマ関連障害が遷延化するだけでなく、治療が混乱している場合もよく見かけます。

 

外在化症状を主徴とする「ASD/ADHD/発達性トラウマ障害(DESNOS; 特定不能の極度ストレス障害)」が引き起こす症状のひとつに、過食症があります。

この場合、「多衝動型過食症」の病態を呈することが多く、たとえば、過食が減ると自傷がひどくなったり、自傷が減ると買い物依存や盗癖がひどくなるなど、衝動の対象が次から次に移りかわっていくことが特徴です。

 

こころの健康クリニックで診ている「ASD/ADHD/発達性トラウマ障害」の患者さんは、以前通ったクリニックで抗不安薬と睡眠導入剤、抗うつ薬の影響で、過食衝動、買い物衝動、窃盗癖、自傷が悪化してしまい、通院を止めてしまった経験をお持ちの方もいらっしゃいます。

 

セリさんも感情調節と衝動制御の困難のため衝動対象が移りかわり、夫との関係が危機をはらむ状態になった(対人関係困難)だけでなく、「否定的自己概念」も増強してしまいました。

 

ここまで読み進めると、睡眠導入剤と精神安定剤で「治療に用いられる通常量の処方を行った場合、たとえば抗うつ薬の処方によって気分変動が悪化する、抗不安薬の処方によって意識水準が下がり行動化傾向が促進されるなど、副作用の方が目立つ状況となる(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)と述べられていることが、実感をもって理解されますよね。

 

院長

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