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再休職とリワーク(2020.11.11更新)

医療リワークによる就労継続率は、1年後で約80%、2年後で約70%といわれています。
逆に言うと、1年以内に約20%、2年後に約30%の人が再休職してしまうということです。

一方、年齢や性別、休職歴や業種、企業の規模などで補正すると、医療リワークを利用せずに復職した人の再休職のリスクは6.21倍!にもなることが知られています。

 

再休職に至るリスク要因についての研究はありませんが、いくつかの可能性が考えられます。

 

以前にこういうケースを経験したことがあります。

適応障害の診断で休職したある患者さんは、抗うつ薬と抗不安薬を処方されていました。数回目の通院で主治医は「元気になったら復職を」と復職可能の診断書を提出し、約1ヵ月で復職されました。産業医は診断書にチラッと目を通しただけで、「では、復職しましょう」と業務軽減を指示されました。

しかし復職後1ヵ月も経たないうちに、休職前に感じたようなイライラや、不安焦燥、動悸、入眠困難などを感じるようになりました。主治医のクリニックを受診したところ再休職を勧められたため、こころの健康クリニックに転院してこられました。

 

ICD-10で「適応障害」は「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1ヵ月(DSMでは3ヵ月)以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされています。

上記の方の場合は上司との関係がストレッサーになっていたようで、休職により上司と顔を合わせずに済むため症状は急速に軽快しましたが、環境調整がなされなかったことによるストレス反応に加えて、抗うつ薬の賦活症候群によって状態が悪化したということですね。

この方の診断には問題はありませんでしたが、適応障害の治療で抗うつ薬や抗不安薬は必要なく(服用していても休職前と同じ症状が出ていることに注意!)、必要だったのは環境調整だった、ということです。

 

現在、精神科の外来には、次のような患者さんたちがひしめいています。

  1. 反応性の抑うつ状態(多くは治療不要)
  2. 過酷なストレスによるうつ病(つまり一線を越えてしまった。治療も必要だし環境改善も必要)
  3. さほど過酷でないストレス下なのに生じたうつ病(治療が必要)
  4. パーソナリティの偏りに由来する抑うつ状態(治療というよりは自分の心とのつきあい方を学ぶべき)
  5. 他の精神疾患に由来する抑うつ状態(その精神疾患への治療が必要)

どれも「うつ」ではあるが重症度も治療法も大きく異なる患者さんです。そして医師によっては、どの患者さんにも一律に抗うつ薬を処方しているので(馬鹿ですね、明らかに)、ますます事態は見極めにくくなっています。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

ここで言う「うつ」は「(抑)うつ状態」のことです。よく読むと(2)と(3)は「うつ病」で、それ以外は「(抑)うつ状態」になっていますよね。

 

(2)はいわゆる「疲弊うつ病」と呼ばれるタイプで、(3)が中年期に好発する「内因性のうつ病」です。

 

上記の(5)については、このブログでも何度か触れたことがありますが、過食や過食嘔吐を主訴にメンタルクリニックや心療内科を受診すると、「うつですね」と言われ抗うつ薬が処方される、という本末転倒の話はこれに該当するでしょう。

 

上記の(1)が狭義の「適応障害(反応性抑うつ)」に相当します。

(4)は「持続性抑うつ障害(気分変調症)」やパーソナリティの問題とされている「神経症性抑うつ」、あるいは、脆弱性としか言いようのない「心因性の抑うつ状態」や「非障害性の自閉症スペクトラム(AS)」や「自閉症スペクトラム障害(ASD)」に伴う抑うつ状態も含まれるかもしれません。

 

うつ病と適応障害のストレス反応の違い』で、「抑うつ神経症(あるいは神経症性抑うつ)」や「適応障害(反応性抑うつ)」では、変化への脆弱性(環境への適応力の弱さ)や性格的な脆弱性が問題になる、と指摘しました。

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークから復職された方を見ていると、状況の些細な変化で不調を起こし、他の様々な状況でも同様の不調を繰り返す「回避的なパーソナリティの問題」や、「生来的な脆弱性」と状況とのミスマッチが、複数回の休職の既往と関連しているようでした。

このような人たちには、こころの健康クリニック芝大門のリワークでの個人プログラムでは、本人の特性の部分に焦点を当て、対処スキルを延ばすことを課題にしていますよね。

 

職場の問題が個人の問題にすり替えられる!」』で言及したように、上記の引用で春日先生は、(1)の「適応障害(反応性抑うつ)」では、「治療ではなく困難状況への取り組みを優先させるべき」であり、「たとえ困難状況の解決が難しい場合でも、時の流れが癒してくれる場合が多い。我慢が可能な範疇であるならば、さしあたっては医療の対象外」とされています。

さらに「医師によっては、どの患者さんにも一律に抗うつ薬を処方している(馬鹿ですね、明らかに)」と辛らつな言葉で非難されていますよね。

 

実際、「適応障害」の診断で休職し、抗うつ薬2種類(賦活化症候群で有名なパロキセチンとセルトラリン)、抗不安薬を2種類(依存や脱抑制をきたすことで有名なエチゾラムとクロチアゼパム)、睡眠薬2種類(寝ぼけ過食を起こしやすいゾルピデムと錯乱を起こすことがあるフルニトラゼパム)を処方された患者さんは、希死念慮、自傷行為、自殺企図など大変な状況になったので、自己判断で通院を中止した患者さんもいらっしゃいます。

このような一般的なメンタルクリニックのいい加減な処方を見ていると、私も春日先生と同じように感じてしまいます。適応障害や抑うつ状態の診断で抗うつ薬が処方されている方は要注意!ですね。

 

(4)の「神経症性抑うつ」について、面白いことを書かれていました。

そもそも精神的な不調や生きづらさは、昔から、その時代に応じてはやったキーワードと関連づけて本人も周囲も(安易に)理解を図ろうとする傾向にありました

たとえばヒステリー、ノイローゼ、神経衰弱、さらにはAC(アダルトチルドレン)、解離、トラウマ等々ですね。そのような一連のキーワードのひとつとして「うつ病」という言葉が現在世間に流通している(次の流行は「発達障害」のようです)

(中略)

《「うつ」が抗うつ薬で改善するのだったら、今の自分は薬によって救われるかもしれないと思う人が予想以上にたくさんいた》−−ということなのでした。そして「うつ病」というキーワードないしは「落としどころ」を知ってしまったがゆえに、「気分がふさいだら、うつ病」「つらかったりやる気が起きなかったら、うつ病」「自分らしく生きられなかったら、うつ病」などと考えるようになった。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

現代のキーワードの一つには「発達障害」もありますし、「トラウマ」や「解離」、あるいは「愛着障害」や「HSP」、「カサンドラ症候群」なども挙げられるかもしれません。

これらのキーワードに共通するのは、対人関係の中で「生きづらさ」が起きていることのようです。

 

「社会的うつ」と主治医の治療方針』で書いたように、うつ病ではないかと疑ってこころの健康クリニック芝大門を受診される方はほとんどいらっしゃいません。

むしろ、「対人関係が構築できないから愛着障害ではないか?」「生きづらいから気分変調症ではないか?」、あるいは「夫との関係が悪いからカサンドラ症候群かもしれない」と思い込んで受診される方が多いのです。しかし残念なことに、ご本人が考えられている通りの診断になることはまずありません。

そもそも「HSP」や「カサンドラ症候群」は医学的な診断名ではありませんし、また一般の人が考えている「愛着障害」も診断基準に照らすとまったく異なります。

 

たとえば愛着障害であれば、施設に入るような重度の社会的剥奪を受けた子どものうち10%程度にしか起きないとされています。また気分変調症であれば有病率は0.5%であり、気分変調症のみで治療を受けようと思う人はほとんどいないとされています。

またカサンドラ症候群については、相手にアスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム障害(ASD)あるいは非障害性の自閉症スペクトラム(AS)の要素があるなら、自分の中にもそのような相手と惹かれ合うタイプの異なる同じ要素(自分では認めたくないASDやASの要素)があることに気づくことから始める必要があります。

 

通常は「気分が沈んで訳もなく涙が出る」とか「他者と喋ろうとすると緊張して言葉が出てこない」など、症状を訴えて受診されることが多いのです。「気分変調症ではないか」「社交不安かもしれない」と疾患名を疑って受診される方は皆無なのです。

 

「○○ではないか?」と疾患名あるいは医学的に定義されていない状態名を疑う方は、「違うかもしれませんよ」あるいは、「診断名で言うと△△の可能性が大きいかもしれませんね」と説明されて、安心できるかどうかを、ご自分に問いかけてみるといいかもしれません。

「違ったのか、あぁよかった」と思えない人、「じゃあ、診断は何なのだろう?」「なぜ○○ではないんだろう?」と、どうしてもラベリングが気になってしまう人は、何らかの疾病利得があるのかどうか、あるいはASDに伴う思いこみやアイデンティティの問題がある可能性を疑った方がいいかもしれませんね。

 

また他の医療機関でそう診断されたとおっしゃる方も多いのですが、その場合は診断した先生にご相談ください。こちらで診断したわけではないので、他の医療機関での診断名に対しては、こちらでは責任を負いかねます。

この問題については、いつか触れることがあるかもしれません。

 

院長

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