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「うつ病」と間違われやすい「適応障害」の診断(2020.11.18更新)

「うつ病」の診断で休職した社員のうち、47.1%(約半数弱)が5年以内に再発し再休職となっていた、と厚生労働省研究班の調査にあります。

 

また休職期間は、1回目の平均107日(約3ヶ月半)に対して、2回目は平均157日(約5ヶ月)と1.5倍も長くなっていたそうです。

 

この原因のひとつとして、休職中や復職時の対応が適切でなかったのではないか、と考えられています。

 

たとえば「うつ病」患者の復職判断に関する主治医へのアンケート調査では、以下のような結果が出ています。

  • 復職可能な状態かの判断が難しく迷うことが多い:53.1〜55.1%
  • 復職しても短期間で再休職することが多い:52.9〜57.8%
  • 不十分な回復状態だが本人や家族からの強い復職の希望があり対応に困る:32.5〜49.1%

 

実に半数以上の主治医が「うつ病」で休職した患者さんの復職の判断に迷い、復職可能と判断された患者さんの半数以上が再休職にいたることがありありと出ていますよね。

 

このような状況を受けて、会社や企業では主治医の「復職可能の診断書」に対する信用性が低下しています。

厚生労働省は、主治医の「復職可能の診断書」を鵜呑みにせず、会社や企業で職務に耐えられるだけの回復段階にあるのかどうかを確かめる復職支援プランを設定するよう、2009年に復職への指針が変更されました。心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き

 

ここであえて【「うつ病」の診断】としたのは、これまで『社会的うつ』で引用したように、「うつ病と診断されて休職したケースの実に86%がうつ病とは診断されない」という驚くべきデータがあるからです。

産業保健の現場でも「精神科から提出される診断書の内容や診断名に疑問を感じることが多い」という意見も出されています。

 

実際、【「うつ病」の診断】で、1年近く場合によっては傷病手当金の給付期限が切れる1年半近く休職されている方も多いと思います。

【「うつ病」の診断】が出されているケースの「86%がうつ病と診断されない」とすれば、社員さんたちは、一体どのような状態で休職に至ったのでしょうか?

 

DSM-5の「うつ病/大うつ病性障害」の鑑別診断には、「適応障害、抑うつ気分を伴う」「易怒的気分を伴う躁病エピソードまたは混合性エピソード」などが挙げてあります。

 

職場の問題と精神科疾患治療を希望して、あるいは職場復帰支援プログラム(リワーク)を希望して、こころの健康クリニックに転院してこられた【「うつ病」の診断】を受けている方のうち、「うつ病」と診断できたケースはなく、ほとんどの方が「適応障害(反応性抑うつ)」あるいは「神経症性抑うつ」でした。

 

ちなみに脱線しますが、このブログで人気の高い『性格と間違われやすい気分変調症(持続性抑うつ障害)の鑑別診断には、「精神病性障害(統合失調感情障害、統合失調症、妄想性障害)」「パーソナリティ障害」などが挙げられています。
確かに「気分変調症ではないか?」と強い思いこみを持って受診される方の中には、パーソナリティの問題よりも自閉症スペクトラム障害と診断せざるを得ないケースが多いことも事実です。

 

脱線ついでに、産業医として関わったこういうケースもありました。微熱と倦怠感、食欲不振を主訴にある精神科クリニックを受診した社員さんは、うつ状態と診断され、初診時にスルピリドとセニランが最大量で30日分投与されました。次回受診の説明もありませんでした。症状が改善しないため別の内科を受診したところ、新型コロナウイルス感染症と診断されたのです!!

あまりのずさんな診断と無責任な診療のあり方に、精神科医として情けなさとともに、怒りを覚えたことがあるのです。

 

話を戻すと、「適応障害」は、はっきりと確認できるストレス因への反応であり、「重大な生活の変化に対して、あるいはストレス性の生活上の出来事の結果に対して順応が生ずる時期に発生する」とされています。

 

「適応障害」は、以前は「反応性抑うつ」といわれ、「順応が生ずる時期」に順応できなかった場合は広く「適応障害」と呼ばれ、ストレス因が会社や仕事関連であれば「職場不適応」、学校であれば「不登校や登校拒否」として呼ばれていました。

 

「適応障害」についてDSM-5では、「ストレス因は単一の出来事(例:恋愛関係の終結)のことも、複数のストレス因(例:仕事上の著しい困難と結婚問題)のこともある。ストレス因は、反復する(例:仕事上の季節的な苦痛に伴うもの、性的関係への不満)ことも、持続する(例:生活障害をますます強くする慢性疼痛疾患、犯罪多発地域での居住)こともある。(中略)ストレス因の中には、特定の発達上の出来事(例:入学、実家を離れること、実家に戻ること、結婚、親になること、職業上の目標を達成できないこと、引退)に伴うものもある」と説明されています。

 

要するに「ストレス反応を引き起こした出来事あるいは生活の変化」に対する順応反応がうまく機能せず、1〜3ヶ月以内に、主観的な苦悩とともに情緒面の障害または行動面の症状が出現した場合を「適応障害(反応性抑うつ)」と呼びます。

 

「うつ病」と「適応障害」の鑑別について『「社会的うつ」という問題』で、「うつ病」は「さまざまなダメージに受け耐え続けてきた脳が、「最後の麦わら」によってダウンしてしまった臓器の障害」であり、適応障害は「飲み過ぎた後の二日酔いのような状態」と解説しました。

 

DSM-5では「適応障害」の診断は以下のように行うことになっています。

診断は、以下の諸項目感の関連の注意深い評価に基づく。

  1. 症状と形式、内容および重症度
  2. 病歴と人格
  3. ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機

 

上記の診断プロセスに従って考えると「適応障害」は、(a)で「うつ病」と鑑別、(b)で「パーソナリティ障害」や「神経症性抑うつ」あるいは「自閉症スペクトラム」と鑑別し、(c)で「心的外傷後ストレス障害および急性ストレス障害」と鑑別していくプロセスになるのです。

 

とくに、「(b)病歴と人格」で鑑別していく「パーソナリティ障害」については、ICD-10では「個人的素質あるいは脆弱性はF43.(註:重度ストレス反応[重度ストレスへの反応]および適応障害)におけるよりも、適応障害の発症と症状の形成に大きな役割を演じている」とされています。これは従来「神経症性抑うつ」と呼ばれていた状態です。

 

ストレス因への「順応」の仕方(コーピング)という視点を持たずに、「適応障害(反応性抑うつ)」を症状やストレッサーなどの引き金だけで診断しようすると、「神経認知機能の障害」や「社会認知機能の障害」が「適応障害」発症に伴うものか、あるいは元々個人的素質や脆弱性として備わっていたものか、鑑別ができません。そのために、容易に「うつ病」と誤診されてしまったり、あるいは、「抑うつ状態」と漠然とした状態名だけの診断になってしまうのです。

 

ですから「適応障害」の診断は、こころの健康クリニックで行っているように「元々どういう人だったのか」を知ることによってのみ、診断が可能になるということですよね。

 

院長

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