やせ・低体重について(Ver1. 0)
はじめに
摂食障害の大きなテーマ「やせ」「低体重」について、現時点での私の考えを少しまとめてみたいと思います。
ここでは基本的には18歳以上の方を想定しているため、体格に関する評価は体格指数=BMIで行います。
BMIはすでに有名な指標ですが、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値です。
当院では、クリニックの限界、適切に治療をすることが難しいため、BMI16未満の方はお断りさせて頂いておりました。
開院から1年経過し、クリニックの運営にも慣れてきたため、あらかじめ状況をメールでご相談頂いて、当院ができる範囲を理解、納得して頂いてからお引き受けする形としていきたいと思っております。
神経性やせ症の重症度は、何と言ってもやせの程度で決まります。
BMIの18.5未満は「低体重」に分類されます。
BMIは22が標準とされ、BMI18.5の方は 18.5÷22≒0.84ですので、標準体重のだいたい85%にあたります。
特にBMIが15より小さいやせの状態が、「最重度」の神経性やせ症とされています。
BMI15というのは、治療の場所、治療方針を決める重要な数値です。
(身長150cmの方なら33.8kg、身長160cmの方なら38.4kgがBMI15に相当します。)
BMIが15より低い場合は身体管理のできる医療機関で
ガイドライン(1)によると、BMIが15より低い場合は、「身体管理のできる診療機関での外来治療が望ましい」とされており、採血で頻繁に電解質が検査できるような医療機関での治療が必要になります。
当院は、採血が単独でできず、現時点では重症なやせの状態に対して「身体管理のできる医療機関」と言える状態ではありません。
BMIを15以上ではなく、16以上とさせていただいていた理由
1つは、診察室で測定する場合、着衣であること、食後や水分摂取後のため、実際の体重より大きい数値になるからです。
もう一つには、今まさに体重が減っている方の場合、予約をしているうちにもBMIが下がってしまうことがあるからです。
特に、低体重、かつそれが精神的な原因による場合、治療を受け入れていると公表している病院が大変少ないため、治療先に予約をするにもさらに時間がかかる(中には2、3ヶ月以上)ことが予想されるからです。
これらの理由から、基準のBMI15に対して余裕をもってBMI16としておりました。
ただし、この点については、摂食障害の専門外来というからには・・ともう少し当院のクリニックの対応範囲を広げたいと以前から考えており、今回の判断に至りました。
BMIが15より小さくなったときの、身体の変化、および問題について
特にBMIが13より小さくなると、低血糖症による意識障害(低血糖性昏睡)や低血圧、徐脈に伴う失神、転倒のリスクが出現します。
また、症状がなく電解質(特に低カリウム血症、低リン血症)により危険な不整脈や心不全により突然死のリスクもあります。
また、身体に重要なカリウム、リン、マグネシウム、ビタミンB1の貯蓄がなくなっています。
このタイミングでカロリーを急激に摂取することで、全身の細胞で消費量が増え、一気に欠乏状態になることより、全身が危険な状態になることをリフィーディング症候群(再栄養症候群)といいます。(2)
これはBMI15以下のやせになると出現しやすくなることが知られていることから、BMI13程度まで低下してしまうと、外来のみで「食べてください」と指導がしにくいのです。
少しずつ計画的に、着実に栄養摂取量を増やし、血液検査をこまめに行う必要があります。そのため、クリニックでの治療が難しいのです。
他にも上げればキリがないくらい、低体重による症状がありますが、BMI15が重要な理由は以上の通りです。
やせればやせるほど、精神的にわるい影響が起こるので、心理的ケアより身体的ケアが優先になってしまう
栄養の摂取量不足によって、考えは頑なになってしまいます。
行動も強迫的に、自分ルールを作り、こだわってしまうようになります。
食べ物のことばかり考えてしまうようになり、集中力が低下します。気分も落ち込み気味となり、すぐにイライラしてしまうようになります。
結果的に本人の本来的な社交性が失なわれ、自己中心的になってしまいます。(3)
背景にある悩みのこと、傷ついた体験・トラウマなどがある場合に心理的なケアが必要なのですが、その心理的なケアを受けるためには、まず低体重を改善する必要があるのです。
BMI13から下は入院治療が特に考慮されます
基本的に、入院が適応になるかどうかは、そのとき診察してくださる医師の判断になります。
全身状態(血圧、脈拍)や筋力低下の様子、採血結果、低血糖の有無や、社会的な状況も関係します。入院に関する治療方針について確定的な決まりはありません。
御本人は入院すると、すなわち体重が増える治療であるため、基本的には受けたくありません。しかし御本人の判断能力は低栄養のために低下しています。
結果として入院するかしないかのぎりぎりの選択・判断を医療者、家族、本人がしなければならないことになります。
超重症の低体重になってしまってからの治療には非常に時間、そして治療の金銭的負担もかかります。
そして、もっと大事なものを失ってしまう可能性があります。
どうか、そうなる前に、治療を受けること、体重を少なくとも低下しないようにすることを考えてみて欲しいと思います。
参考文献
(1)井上幸紀他, 精神科領域における摂食障害の連携指針, 「摂食障害の治療支援ネットワークの指針と簡易治療プログラムの開発」研究班
(2)石戸淳一他, 神経性やせ症, へるす出版救急医学2023年10月号
(3)C.G.Fairburn著 永田利彦監訳, 過食は治る, 金剛出版,2021年