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生物心理社会モデルからみた適応障害の治療とリワーク(2022.08.29更新)

こころの健康クリニック芝大門のメンタルヘルス外来、あるいはリワークプログラムに転院して来られた患者さんの中には、他の医療機関で「適応障害」と診断された方が多くいらっしゃいます。

 

長時間労働や過重労働、あるいは上司や同僚との関係の問題などのストレス因(ストレッサー)をきっかけに、さまざまな感情や気分の変化、あるいは身体の不調などの不快なストレス反応(不適応反応)をきたした状態が「適応障害」と診断されます。

あるいは、それほど大きなストレス因はないにも関わらず、ストレス反応だけが強く出ている「神経発達症(発達障害)特性」を持った人も、「適応障害」と診断されます。

 

前医で「適応障害」や「うつ状態」と診断された人たちの治療内容を見てみると、面白いことがわかります。

 

①休養のみを指示されている場合

②抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬、睡眠薬など、薬物療法が行われている場合

 

「適応障害」の診断基準では、「ストレス因がなくなれば速やか(DSM-5、ICD-10ともに6ヵ月以内)に軽快する」とされており、①の場合の多くは1〜2ヶ月程度で抑うつ・不安症状、行為面の障害などの「不適応反応」は消失しているようです。

 

一方、②の場合は、『適応障害とは何だろうか?』でも書いたように、6ヶ月以上、場合によっては1年を超えて休職されていることもあるのです。

https://ipt-clinic.com/?p=14549

 

ど真ん中の従来型うつ病で、治療や療養が適切になされていれば、その多くは1年以内には改善するようです。しかし実際には、年単位で延々と通院しているケースが非常に多い

症状はよくなっているが、再発を防ぐために長期間の抗うつ薬投与となっている場合は結構あり、理想的には薬剤の「漸減→オフ」なのですが、それを試みるとどうしても再発するケースがでてしまい、また当人(あるいは家族)も再発を恐れて減薬や服薬終了を嫌がり、結果的になかなか治療終結に至らない症例はめずらしくない。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

 

「適応障害」とまぎらわしい疾患』でも書いたように、「うつ状態」や「抑うつ状態」と診断されている人には、②の薬物療法が行われていることが多く、それでもなかなか治りきらずに遷延する傾向があるようです。

https://ipt-clinic.com/?p=14561

 

上で「面白いことがわかります」と書いたのは、「適応障害」や「(抑)うつ状態」と診断された人には、精神療法などの心理社会的治療、あるいは、環境調整が一切なされていないのです。

 

すごく単純化して言えば、「うつ病・うつ状態」は薬物療法、「適応障害」は環境調整というように、カテゴリーで分けてしまう考えがあり、精神科主治医は環境調整は会社の仕事だからと丸投げして関与しないという問題があるからかもしれません。

 

ある論文で「生物・心理・社会モデル」の優れた考え方が紹介されていました。

少し長くなりますが、引用しますね。

 

本人と環境との兼ね合いで心がつらくなり日常生活に支障をきたしたものを適応障害というが、そのなかでも本人の心理的要因の比重が大きいもの(図の「適応障害a」)と、社会的要因の比重が大きいもの(図の「適応障害b」)の介入には環境調整が大きな役割を果たす。

 

これらの介入が早期に行われないと次第に脳への負担が大きくなり、生物学的な問題に発展してしまう。
「適応障害a」であれば、Z軸の方向に増悪すると「うつ病c」となり、「適応障害b」であれば「うつ病d」となる。

ただ、このモデルでは①の面が適応障害であることには理解を得られるが、Z軸の方向にどれだけ変位すればうつ病という診断になるかは不明瞭である。
臨床においては、うつ病と適応障害をカテゴリーに分けず、スペクトラムで評価することになるだろう。一方で、診断書はカテゴリー診断名を記載することになるので、このことが現場の混乱を生んでいると思う。

(中略)

Aさんを生物・心理・社会モデルで見るとどうなるだろうか。

生物学的には、不眠や食欲不振、精神運動制止などが出現していることから、生物学的治療、つまり薬物療法が必要になる。

心理学的には、責任感の強さから仕事や介護を一人でかかえ込んでいたが、次第に仕事や介護は回らなくなり、焦燥感が高まるなどして、心理的負担が増大している。よって、これらへの心理療法が必要となる。

社会的(環境的)には、母親の介護や職場での雰囲気の悪さ、仕事の積み残しなどが負担となっているため、Aさんの状況を妻や職場に理解してもらい、環境調整への協力を得ることが必要になる。

徳山. うつ・適応障害をめぐって. こころの臨床 225(9): 26-30. 2022

 

本人の生まれつきの気質や特性と後天学習による性格からなるパーソナリティと、環境要因とのマッチングが不適合を起こした状態が「適応障害」です。

その状態が長く続き、脳への負担が大きくなった(一線を越えた)状態が「うつ病・うつ状態」と考えることができます。

 

「適応障害」であれば、精神療法などの心理社会的治療と環境調整が必須なのですが、多くの医療機関ではそれが行われていないのです。

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークで行っている治療方針は、まず、精神身体症状など生物学的要因に対しては薬物療法で回復をはかり、薬物療法は漸減・中止を原則にしています。(図のZ軸の回復)

 

そして、心理的負担に対しては、セルフモニタリングを土台に認知行動療法やアクセプタンス&コミットメント・セラピーなどで反芻思考を止め、感情とのつきあい方や行動の仕方など、メタ認知を育みセルフケアの仕方を学び、神経認知機能の回復を目指します。

それとともに、メンタライジング・アプローチにより社会認知を回復させ、出来事や対人関係に対する対処スキル(コーピング・スキル)を身に付けて、適応能力を改善していきます。(図のY軸の改善)

 

同時に、『リワーク主治医と会社産業医の連携による復職への効果』でも書いたように、精神科リワーク主治医から産業医に対して、リワークでの回復状態(復職準備性評価)を送付し、本人の特性や再発防止のために必要な環境調整を依頼しています。(図のX軸の改善)

https://ipt-clinic.com/?p=13609

 

このように、こころの健康クリニック芝大門の「職場復帰支援プログラム(リワーク)」では、生物・心理・社会モデルに沿って治療を行っていることが、古典的なうつ病モデルに立脚した「うつ病リワーク」との最大の違いなのです。

 

院長

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