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「発達性トラウマ障害」の行動調節障害(2022.08.22更新)

これまで数回にわたって「発達性トラウマ障害」と、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」および「複雑性PTSD」の関連をみてきました。

 

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」および「複雑性PTSD」の出来事基準は、「命にかかわる状況」や「性的暴力」に限定されているのに対して、「発達性トラウマ障害」は「主として、慢性的な虐待やネグレクトなどの不適切な養育が子どもに与える影響をとらえようとする概念」と考えることができそうです。西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房

 

「発達性トラウマ障害」には、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」や「複雑性PTSD」とは異なる、「注意を含む行動の調節障害に関する項目」という特徴があります。

 

診断基準Cは、注意を含む行動の調節障害に関する項目からなっている。この項目に関しては、ADHDの症状と類似したものが含まれており、両者の関連を検討する必要があるように思われる。

Cには四つの下位項目が設定されているが、そのうち、C3(自己慰撫のための不適切な行動)とC4(習慣性・反応性の自傷行為)は、臨床的には不快な感情や感覚への対処行動として生じることが多いと考えられ、診断基準Bの感情や感覚の調節障害との関連で生じる可能性があると言える。

 

C.注意および行動の調節障害:注意の持続、学習、ストレスへの対処に関する子どもの通常の発達的能力が阻害されており、以下の項目のうち少なくとも3つに該当する。

C1.脅威に対して過剰にとらわれている、あるいは、脅威を認識する能力に関する問題がある。安全や危険を示すサインの誤認を含む。

C2.自己防衛能力の低下。危険をおかす行動やスリルを求める行動を含む。

C3.自己の鎮静化を図るという意図で不適応的な行為がある(たとえば、ロッキングなどの身体のリズミカルな動きや強迫的なマスターベーションなど)。

C4.習慣性(意図的もしくは自動的)、あるいは反応性の自傷行為。

C5.目標志向の行動を開始できない、もしくは持続できない。

西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房、および、杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

上記の引用で、「ADHDの症状と類似したもの」と記載されていますが、この「注意を含む行動の調節障害」は一見、双極性障害にも似て見えます。

これらの症状こそ、「ASD/ADHD」という「愛着の障害によってもたらされる発達障害の臨床像」なのです。

 

ASD/ADHDは注意の障害がその中心である。この注意の障害の中核は、注意の転導性ではなく、臨床的な視点からみる限り注意のロック機能(sustained attention)の障害と考えられる。

注意の固定が困難で、さらに固定をした時に今度はそれを外すのが難しいという病理がその中心にある。この両者は同時に起きてくるが、前者が優位のものをADHD、後者が優位のものをASDと呼んでいるに過ぎない。

両者とも二つのことが一緒にできないことが最も基本的な臨床上の困難になってくる。ASD/ADHDのパースペクティブの障害も、実はこの二つのことが一緒にできないことから生じる。一つのことがらに注意が向けられていると、時間的、空間的な他の情報が入らなくなってしまうのである。

杉山. 発達障害の「併存症」. そだちの科学(35); 13-20. 2020.

 

いわゆる、「注意の切り替え」や「マルチタスク(同時に二つのことを行うこと)の苦手さ」、「時間的な見通しの苦手さ」や「空間的な認識の障害」など、「ASD/ADHD」のワーキングメモリー機能の問題として説明されています。

また、「衝動性の問題も、行動のみに注意が振り向けられ、他の情動処理が止まった状態になると考えられる」とされています。(杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

「発達性トラウマ障害」の「注意を含む行動の調節障害」について、「認識」「自己制御」「対人関係」という3つの発達軸で読みとくことができます。

少し長いですが、引用してみますね。

 

精神発達を構造的にみれば、関係性の発達(X)、認識の発達(Y)、自己制御の発達(Z)の三つの軸からなっている。

「生物学的な個体」としてこの社会に生み落とされた子どもが、人と関係する力を培い(X)、世界を意味(概念)によって認識し(Y)、注意や欲求を状況や規範に応じて自己制御する力を伸ばし(Z)、それによって「社会的な個人」へと育つプロセスが精神発達なのである。

発達障害が基本的に「自閉症スペクトラム(関係の障害)」「知的障害(認識の障害)」「ADHD(自己制御の障害)」のかたちをとるのは、偶然ではなく、発達がこの三軸構造をなしていることの反映であろう。

(中略)

重要なのは、これらの三軸は互いに支えあっていることである。

たとえばXとYの関連を取り上げれば、人間の「認識」とは社会的な意味を通して世界を捉えることだから、すでにその捉えを獲得した成人との関係(交流)の発達抜きには認識の発達は進まない。

他方、人間同士の「関係」はさまざまな意味や約束から成り立つため、それを理解する認識的な力の発達ぬきには関係の発達は進まない。

このように関係の発達(X)と認識の発達(Y)とは相互に媒介しあって進むのである。

(中略)

この事実は、知的障害では、認知発達のおくれは当然として、それによって関係に発達に何らかのおくれや偏りが二次障害・・・・として生じざるを得ないことを意味する。

すなわち、自閉症スペクトラムのもつ症状的特徴が多かれ少なかれ混ざり込むことを意味し、これが「純度100%」の知的障害が見つからぬ理由である。

同様に関係発達のおくれは、何らかの知的な発達のおくれや偏りを二次障害・・・・として生まざるを得ない。

純度100%の「自閉症 autism proper」もありえず、それゆえ現在では「自閉症スペクトラム」という純度不鮮明で広すぎるほど広い診断概念がもちいられるようになったと言えようか。

(中略)

同じ理屈で知的障害や自閉症スペクトラムはADHD的な症状も何らかの程度で二次障害として派生させる。とりわけ自閉症スペクトラムとADHDの重なりは大きい。注意や欲求を制御する力は社会的な関係を介して初めて発達するものだからである。

翻って注意や欲求の制御のおくれは、知的な学習や対人関係形成に二次的な困難をしばしばもたらす。

以上のごとく、精神発達の構造上、発達障害はどの発達障害であれ、必ず他の発達障害の症状を何らかのかたちで二次的に混在させている。

滝川. 一次障害と二次障害をどう考えるか. そだちの科学(35); 2-6. 2020.

 

このように、「認識」「自己制御」「対人関係」という3つの発達の軸でヴァン・デア・コークらが提唱した「発達性トラウマ障害」の診断基準を読むと、不全型の「複雑性PTSDの特徴」として以下の3つの軸が入れ子構造のように浮かび上がってきます。

 

① ASDに類似した特徴:「愛着形成の障害」や「対人関係の障害」

② 認知機能障害にもとづく特徴:「否定的自己概念」

③ ADHDに類似した特徴:「感情調節不全」と「行為の障害」

 

上記の「ASDに似た対人関係の障害」「認知機能障害にもとづく否定的自己概念」「ADHDに似た感情調節不全」は、複雑性PTSDを特徴づける「自己組織化の障害(DSO症状)」と他なりません。

 

「発達性トラウマ障害」は、ASD/ADHDに似た「認識の発達」「自己制御の発達」「対人関係の発達」という「自己組織化の障害」と不全型のPTSD症状を伴った状態と考えることができそうです。

 

これまでの議論をまとめると、その一部は愛着障害によってもたらされる発達障害の臨床像であり、一部は複雑性トラウマによってもたらされる複雑性PTSDの臨床像である。

(中略)臨床像は何でもありであり、診断カテゴリーをまたぐ。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

上記、杉山先生がおっしゃりたいことは、「発達性トラウマ障害」では「グレーゾーン診断が非常に多くなる」ということなのかもしれません。

 

院長

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