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ハラスメント・トラウマの治療とリワーク(2022.08.16更新)

最近、「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」「セクシャルハラスメント」など、ハラスメントというコトバをよく耳にするようになりましたよね。

 

「改正労働施策総合推進法」(いわゆるパワハラ防止法)が2022年4月から全面施行され、職場において「パワーハラスメント」対策が義務化されました。

 

基本的にパワハラとは、①業務上の必要性がない、②人格否定、③見せしめ的対応、④属性や心身の状態(新人や精神疾患の有無など)を理解していない指導、⑤長時間の繰り返しの叱責、が該当するとされているようです。

https://ipt-clinic.com/?p=12359

同時に、管理監督者(上司や上長)による注意や指導も含め、口調の強さ、ミスの指摘や叱責も含め、なんでもかんでもパワハラとかモラハラと呼ぶことの弊害も指摘されています。

 

ここで臨床家が気をつけなければならないのは、ストレスであれ、トラウマであれ、これらを用いることにより、こころの問題の要因を、知らず知らずのうちに、外在化して考える傾向を強めてきたことである。つまりは環境のせいにする考えを助長してきたのだ。

その最たるものがハラスメントにまつわる問題である。

 (中略)

なぜこのような問題が生じるかといえば、外的刺激は客観的で恒常的なものだとする先入観にとらわれているからである。

小林. アタッチメントと発達の問題を「関係」と「情動(甘え)」から読み解く. そだちの科学(29); 30-35, 2017.

 

心理的負荷による精神障害の認定基準』には、上司と部下の間での直接的な対人関係の問題も挙げられています。(同僚や部下との関係も挙げられていますね)

 

7.業務に関連し、違法行為を強要された

20.退職を強要された

24.非正規であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取り扱いを受けた

29.上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

30.同僚等から、暴行または(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた

31.上司とのトラブルがあった

32.同僚とのトラブルがあった

33.部下とのトラブルがあった

37.セクシャルハラスメントを受けた

 

上記のリストのうち、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」「セクシャルハラスメントを受けた」などで平均的心理的負荷の強度がⅢ以上であれば、労災認定される割合が半数くらいになるようです。

 

「傷害、暴行、脅迫、侮辱」などは刑法上の問題になりますし、セクハラや不当な扱いなどは労働法上の問題になると同時に、メンタルヘルス不調による健康管理上の問題も引き起こされますよね。

 

さまざまなハラスメントによりメンタルヘルス不調を来し、訳もなく涙が出る、朝起きるのが辛い、会社に行けない、などを主訴にメンタルクリニックなど医療機関を受診すると、以下のような診断がつくことが第118回日本精神神経学会学術総会で報告されていました。

 

適応障害

外傷後ストレス障害(PTSD)

気分障害(うつ病・うつ状態)

発達障害(ADHD、ASD)

 

さまざまなハラスメントによりメンタルヘルス不調を来した状態は、心因性精神疾患と考えられます。(『生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)』参照)

このうち、「適応障害」については妥当な診断と考えられますよね。(『適応障害とは何だろうか?』参照)

 

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の診断については、慎重に考える必要がありそうです。

 

PTSDは、「加害(戦争、事故、犯罪など)→被害(心的外傷)」という図式を基本構造としている。災厄のもたらす一方的な加害による精神被害、それがPTSDである。

ところが親子関係不調・子育て不調は、育児という親子間の相互的・交流的な関わりのなかで起きる「関係」の不調であって、単純な「加害→被害」の図式にあてはまらない。

(中略)

双方向性・交流性をはらんだ現象で、だからこそ悪循環的に複雑なこじれへと発展しやすいのである。事態の継続性や複雑性だけが問題の複雑化を招くのではない。この違いをじゅうぶんに視野にいれた理解と支援が必要な気がする。

滝川. 心の傷と心的外傷. そだちの科学(29); 2-7, 2017.

 

上記は親子関係の説明ですが、成人の対人関係でも、たんにPTSDと診断するのではなく、双方向性(相互的)な互恵性(交流的)な「関係の不調」という視点を持つ必要があります。

 

「外傷後ストレス障害(PTSD)」と「うつ病・うつ状態」との鑑別については、『「適応障害」とまぎらわしい疾患』で解説しましたので、参照してみてくださいね。

 

叱責を受けやすいとされる「発達障害(ADHD、ASD)」などの「神経発達症」特性についても、慎重に考える必要があります。(『適応障害と発達障害特性』参照)

 

意味によって社会的・認識的に世界を捉え直すわざに遅れている発達障害の場合、そのぶん、感覚したまま直接ナマに世界を知覚したり、それをそっくり記憶したりする乳児期的なわざを後退させずに残している。
それがきわめて高い感覚性(感覚の過敏さや豊かさ)や、ときには正確無比な感覚的な記憶力(サバン症候群)をもたらす。

この知覚や記憶の様式は、心的外傷のそれと同じ構造である。
これも心的外傷が(註:発達障害に)通常以上に生じやすい理由と考えられる。

滝川. 心の傷と心的外傷. そだちの科学(29); 2-7, 2017.

 

そもそもハラスメントは、業務偏重や競争の激化などのストレス要因の増加、不公平感を生み出す雇用形態、あるいは、不適切な環境など、「環境要因(業務起因性)」を背景にして生じるとされます。

 

その中で、上司や同僚に、権力の誇示、精神論、完璧主義などの固定的価値観ヒュブリス症候群、あるいはコミュニケーションの世代間ギャップなどの要因があり、同時に、ハラスメントを受けた人のストレス耐性の低さや、社会的ルールあるいはマナーの欠如、依存・責任転嫁体質などの要因が重なった場合に生じます。

 

その際に、発達障害(ADHD、ASD)などの「神経発達症」特性は、リスク要因と考える必要があるのです。

 

さらに、ハラスメントや職場の人間関係の問題の安易に「医療化」し「疾病性」を強調しすぎたり、被害者を責めたり、加害者に共感して免責を与えることは慎むべきとされています。

しかし、問題の背後にある「神経発達症」特性を含む「疾病性」を見逃さずに、適切な支援や介入に役立てることが必要と言われています。

 

適切な支援や介入を考えた場合、ハラスメントによりメンタルヘルス不調を来した状態に対して、多くのメンタルクリニックでは抗不安薬や抗うつ薬を投与されることがほとんどです。

また、内因性うつ病をモデルにした画一的なリワークプログラムを導入したとしても、対人関係の問題に解決には結びついていませんよね。(『職場の人間関係とリワークの問題点』参照)

 

これらの抗うつ薬や抗不安薬による治療により一時的に気分は改善しても、実際の人間関係や「環境要因(業務起因性)」に対する調整が行われてないため、効果が持続しないだけでなく、場合によっては状態を悪化させたり、遷延化させる要因になることもあるのです。

 

純医学的に捉えれば、心的外傷とはのっぴきならぬ生存の危機に瀕したときの防衛反応が本態で、その反応が平時に誤作動的に起きる現象を指す。

その反応とつながった過去の災厄の体験が「外傷体験」、その記憶が「外傷記憶」である。反応の誤作動がさまざまな問題を派生する状態がPTSDで、「こころの傷」というような社会的・心理学的な現象というよりも、むしろ生物学的な現象という色彩が強い。

滝川. 心の傷と心的外傷. そだちの科学(29); 2-7, 2017.

 

薬物療法もリワークプログラムによる心理社会的療法も、治療は病態を同定し有効性を評価してから適用する必要があります。

 

背景にある「発達障害(神経発達症)」特性などの個人的要因や、「環境要因(業務起因性)」を把握せずに治療を開始すると、副作用や奇異反応のために身体機能や認知機能を低下させることがあります。

 

人間関係のトラウマから復職するまで』で解説したように、病気の治療ということではなく、薬物治療もリワークによる心理社会的治療も、その人を取り巻く「社会生活の治療」という個別の観点で行っていく必要があるのです。

 

院長

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