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「発達障害(神経発達症)特性」のうつ状態の特徴(2022.05.23更新)

さまざまな主訴で精神科の医療機関やメンタルクリニックを受診すると、気持ちの変化であれば「うつ病・うつ状態」、仕事関連であれば「適応障害」と診断されることがほとんどのようです。

 

こころの健康クリニック芝大門でよく見かけるのは、過食嘔吐を主訴に受診したのに「うつ病」と診断されて抗うつ薬が処方された、仕事が増えて辛くなってパニックが起きたことを主訴に受診すると、「適応障害」と診断されて抗うつ薬と抗不安薬が処方された、などです。

 

一般的に成人精神疾患患者の臨床場面においては、抑うつや不安、精神病症状、不眠など、まずは患者の愁訴への対応が主となるが、先行するストレッサーといった社会環境要因やパーソナリティなど、その発現状況を多角的に分析し理解を深めることが治療ストラテジーの選択や適正化においては重要となる。

特に背景に神経発達症があれば、それを見抜き、必要な対応を施さねば、有効な治療には至り難い。

松永. 特集にあたって. 精神科治療学 37(1): 3-4. 2022

 

近年、「大人の発達障害」や「大人のADHD」などの言葉、あるいは解説書を目にする機会が多くなりました。

 

「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」や「注意欠如多動症(ADHD)」の間には、「認知行動障害、生物学的病態などの共通性に加え、密接な遺伝学的関連の存在が推測されており、臨床像の重複や併存は高率で、これらが素地となって発症する成人の精神疾患では多様化・複雑化が想定される」とされています。(前掲論文)

 

「発達障害(神経発達症)特性」、つまり「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」や「注意欠如多動症(ADHD)」は高率に重複することを知っておくと、「生きづらさ」の背景が適切に理解しやすいと言われています。(本田『発達障害』SB新書・参照)

https://www.sbcr.jp/product/4797398328/

ASDの70〜80%程度に他の精神疾患が併存するといわれ、成人期ASDにおいて気分障害が53%、不安障害が50%、強迫性障害が24%、物質使用障害が16%、精神病性障害が12%に併存していたとする報告もある。

(中略)

一方、成人期ADHDも併存疾患が多く、不安障害が47.1%、気分障害が38.3%、衝動制御障害が19.6%、物質使用障害が15.2%という報告や、ADHDが重症であれば併存疾患を有する割合が増えるという報告もある。

太田,飯田. 成人精神疾患の背景にある神経発達症をいかに見抜くか. 精神科治療学 37(1): 11-16. 2022

 

「発達障害(神経発達症)特性」があると、高率に「不安」を引き起こします。

一方、成人の不安障害患者では、「発達障害(神経発達症)特性」に伴う不安は先行しているため、うつ病や物質使用障害など二次的な併存とは明確に区別される、とされています。

 

ASD症状やADHD症状が幼少期にはそれほど目立たず、成人期に周囲との関係性や社会的な役割の変化によって目立ちはじめるなどの理由もあり、成人期に診断することが困難となってしまう。

(中略)

患者本人にとっては、小児期から存在していたASD症状やADHD症状は、困ってきたかどうかは別にして、子どもの頃からあった“もの”であり、普通にある“もの”として体験しているため、自ら症状として訴えることが困難であるという側面もある。
臨床場面では「今回受診するに至った不安とは関係ないと思った」や、「上司から注意されてうつになったけど、ケアレスミスが多いのは自分の性格だと思っていた」などとASDやADHDと診断された後に語られることもある。

太田,飯田. 成人精神疾患の背景にある神経発達症をいかに見抜くか. 精神科治療学 37(1): 11-16. 2022

 

上記の引用にもあるように、「発達障害(神経発達症)特性」の特徴から生じた症状を「自ら症状として訴えることが困難」である理由の一つに、セルフモニタリングの弱さも関係しているようです。

 

「発達障害(神経発達症)特性」の併存疾患としての不安や抑うつはポピュラーに見られるもので、むしろ「発達障害(神経発達症)特性」を見抜けなかった場合の弊害の方が大きいとされています。

 

「発達障害(神経発達症)特性」を見抜けなかった場合、とくに投薬治療において弊害が大きいようです。

 

発達障害基盤の精神科併存症に対して、一般の成人量の処方を行うと、副作用のみ著しく出現し薬理効果は認められない、ということが少なくない。これはおそらく、彼らの多くが過敏性を抱えるからだと考えてきた。

(中略)子どもとその親の双方から薬が強すぎるという苦情をしばしば聞くうちに、少量処方を行うことがむしろ一般的になっていった。(中略)少量処方の方が副作用も少なく、またより有効に働くのである。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

上記の杉山先生の見解を踏まえて、こころの健康クリニック芝大門では「発達障害(神経発達症)特性」をお持ちの方に対しては、少量処方でかつ、「発達障害(神経発達症)特性」を持った人に気分変動を引き起こしやすい抗うつ薬や抗不安薬の処方は行わなくなりました。

 

さて、「発達障害(神経発達症)特性」のうち、「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」の「抑うつ状態」の特徴として、以下が指摘されています。

 

抑うつ状態で受診した成人初診患者の11〜16%はASDを有しており、これは6〜9人に1人の頻度に相当する。

ASD併存例では、ASD非併存例と比べて、初診時年齢が低く、未婚で身体疾患はないが、若くしてすでに不登校、被いじめ体験、精神病様体験、自殺関連行動および対人トラブルといった負の既往を抱えていることが多い。

これらの中で、①対人トラブル、②被いじめ体験、③精神病様症状、④若年受診(32歳未満)の4つがASDの判別に有用であり、93%のASDが1つ以上の因子を有する一方で、いずれの因子も持たない症例では98%の確率でASDの除外診断が可能であった。

ASDの抑うつ状態では、発達特性を持たないうつ病と比べて、不機嫌、気分異変、転導性、衝動性、易刺激性、攻撃性、危険行動などの混合病像を伴いやすく、ASDがうつ病像の精神病理を修飾する可能性が考えられる。

近藤. 背景に神経発達症があれば,いかなる治療的工夫が必要となるか. 精神科治療学 37(1): 23-28. 2022

 

「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」特性から、若年での初診は「気分変調症ではないか?」、被いじめ体験は「複雑性PTSDではないか?」、対人関係の困難は「愛着障害かもしれない」など、生きづらさに合う自己診断を求める傾向にあるようです。

 

構造化された診断面接を行い、DSM-5、ICD-10やICD-11の診断基準を示しながら、「気分変調症や複雑性PTSD、愛着障害の診断基準とは違うみたいですよ」と説明しても、「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」特性のある方は、診断になかなか納得してくださいません。

ときには、自分で思い込んでいた診断名を否定されたように感じてか、変化への脆弱性があるからなのか、人によっては、「診断の仕方が間違っている!」「話にならない!!」と、見当違いな怒りを顕わにされる場合もあるのです!

そう言われても、診断基準を変えるわけにいかないので、困ってしまいます。

 

このような対人トラブルは、「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」特性である「思いこみの強さ」と関連しているようです。「思いこんでいる診断名を告知されることで、何らかの疾病利得があるのではないか?」、と感じることもしばしばあります。

 

加えて「思いこみの強さ」は、「文脈を読むのが苦手」という特徴と重なると自分の都合のいいように解釈(自己正当化)して事実と異なることを主張したり、「セルフモニタリングの弱さ」とあいまって他責性・他罰性として表現されることもあります。

 

あるいは、服薬量を増やし服薬のタイミングを指導したにもかかわらず、「いきなり薬をゼロにされた」と妄想レベルで思いこみ、被害的になったりする人もいらっしゃるのです。

双極性障害と診断されていた女性の減薬治療』や『生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)』で書いているように、こころの健康クリニック芝大門では、薬は全て漸減・漸増が基本で、漸増の際には体が薬に馴れるまで約3ヶ月、漸減するときは1種類の薬をゼロにするまで、4〜6ヶ月かけています。

 

そういう背景もあってか、「発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)」特性に伴う抑うつ状態では「抑うつ混合状態」を呈しやすく、「抗うつ薬よりもむしろ気分安定薬や非定型抗精神病薬の投与を選択」する必要があるとされています。(前掲論文)

 

ASDに伴う抑うつ状態の特徴である「不機嫌、気分異変、転導性、衝動性、易刺激性、攻撃性、危険行動」を「双極性障害」と診断されているケースも、多く見かけます。

 

ASD特性に伴う抑うつ状態の特徴は、「双極性障害」とちがって状況反応性に起きることが多く、さらに、元々の対人関係過敏(評価への過敏性)が強くなり、過眠や鉛様の麻痺、炭水化物飢餓(大食)など「非定型の病像」を伴うことも特徴のようです。

このような場合には、抗うつ薬よりもむしろ気分安定薬や非定型抗精神病薬の投与を選択する必要があるわけです。

 

こころの健康クリニック芝大門で行っているように、表面に現れた症状から疾患名を考えること以外に、元々どんな人だったのか?と「発達障害(神経発達症)特性」に目を向ける必要があるということですよね。

 

院長

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