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生きづらさと発達障害(神経発達症)特性(2022.05.16更新)

適応障害と発達障害特性』で、「発達障害(神経発達症)特性」が強い場合、双極性障害やうつ病などの「内因性精神疾患」や、適応障害やPTSDなどの「心因性精神疾患」をミミック(mimic)すると、「病像が非典型的なものとなって診断や治療が難しくなる」ことについて述べました。

 

うつ病や適応障害などで通院して、併存症として「発達障害特性」を指摘されたり、職場での問題行動から「発達障害特性」を疑われ、受診をすすめられたりする場合があります。

 

以前は「広汎性発達障害」と呼ばれていた状態は、DSM-5以降は「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼ばれるようになりました。

 

「発達障害(神経発達症)特性」は、生活上の問題になりにくいものから、生活や仕事上の問題になりやすい場合まで、連続的なグラデーションとして理解されています。スペクトラムというのがグラデーションのことです。

 

病気というほどではないが、空気が読めなかったり、対人スキルがあまりにもぎこちなかったり、協調性を欠いたり、いやに忘れ物やミスが多いなど、明らかに違和感を覚えさせる人たちがたしかに一定数存在していて、そうした傾向の持ち主はどうやらおとなの発達障害らしい……という知識が世間に浸透してきました。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

「発達障害(神経発達症)特性」の強い人は、その生きづらに合うような病名、たとえば「気分変調症」、あるいは「複雑性PTSD」や「愛着障害」など、を自分で疑い受診される場合もかなり多いのです。

このような人たちは、「一日中、気分がふさいで食欲もない」などの症状を訴えられることはまずありません。

 

ほとんどの人たちは、「気分変調症かもしれない」「愛着障害ではないか?」と自己診断を訴えられ、こころの健康クリニックの受診相談で、症状を詳しくうかがっても表現できない方が多いのです。

 

「○○病ではないか?」と疑って医療機関を受診した場合、違うと言われるとホッと胸をなで下ろして、「な〜んだ!何でもないことを気にしすぎだったのかもしれない!」と安心に繋がることが多いですよね。

しかしながら「発達障害(神経発達症)特性」を持っている人たちは、「○○病ではないとすると、では自分が感じているこの生きづらさは何なのか?」「なぜ○○病ではないのか?」と、自分で思い込んだ診断名に執着されることが多いのです。

 

自己診断に執着してしまうのは、思いこみの強さとと柔軟な思考の切り換えの苦手さ(注意が固着するとアンロックが苦手)に加え、白黒思考やセルフモニタリングの弱さ(自己組織化の障害)も関係しているようです。

 

ASD・ADHDにおける社会性やコミュニケーションの問題のため、対人関係でのトラブルが生じやすく、幼少期からのいじめなどトラウマティックなエピソードが語られたり、他者との適切な距離を保つことや衝動のコントロールの難しさのため、境界性パーソナリティ障害が疑われるようなエピソードが語られたりする。

また、環境の変化に対する動揺が大きく、双極性障害が疑われるような気分の波が生じたり、こだわりの強さから強迫症状がみられたり、また衝動コントロールの苦手さから浪費、むちゃ食い、アルコール乱用がみられたりする。

さらにストレスへの脆弱性や感覚過敏から、稀に精神病圏を疑うような被害妄想・被注察感や整容の保たれなさがみられることもある。

このようにASD・ADHDの特性を背景にその臨床状態が多様で複雑であることも診断に至りにくい要因と考えられる。

栗原, 大江, 渡邊. 成人うつ病患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 41-46. 2022

 

「発達障害(神経発達症)特性」がある場合、カテゴリー診断を当てはめようとすると、いろんな疾患に似て見えます。

 

気分のムラと「双極性障害」、やる気のなさと「うつ病」、アンヘドニアと「気分変調症」、感情調節不全と「不安障害」、変化に対する苦手さと「パニック障害」、こだわりの強さと「強迫性障害」、衝動コントロールの困難さと「神経性過食症」、対人関係の苦手さと「愛着障害」、被いじめ体験と「PTSD」、機能不全家庭環境と「複雑性PTSD」、そしてストレスへの適応不全と「適応障害」など、「発達障害(神経発達症)特性」は様々な疾患にミミックするのです。

 

ひきこもりやセルフネグレクト、パーソナリティ障害、依存症、強迫性障害、統合失調症等とされているケースの一部には、実は発達障害として理解したほうが適切な人々がいます。

また発達障害がもたらす「生きづらさ」のためにうつ病を呈したり、あるいは発達障害をベースに持った人がうつ病や双極性障害、その他の精神疾患を併発すると病像が非典型的なものとなって診断や治療が難しくなる−−と、そうした事情から、一次はマスコミに煽られて過剰診断気味だった発達障害は、それを見落とした際の弊害のほうがクローズアップされつつあるようです

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

さまざまな疾患の背景に「発達障害(神経発達症)特性」が透けて見えても、ほとんどの医療機関では告知されません。

 

「発達障害(神経発達症)特性」の診断のための検査には、自閉症スペクトラム指数(AQ)、広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PARS)、成人期ADHD自己記入式症状チェックリスト(ASRS)、コナーの成人期ADHD評価尺度(CAARS)などがあります。

 

それより重要なのは、当人が「発達障害の傾向を抱えている」と弱点を自覚したうえであくまで健常者として生活していくか、発達障害の傾向があるので周囲もそこを理解して配慮してほしいとカミングアウトし、さまざまな援助や支援を期待するか−−そこの判断です。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如/多動障害(ADHD)の認知傾向が検査しやすいことから、ウェスクラー式成人知能検査(WAIS)を実施することもよく行われます。

 

WAISは、精神科医療では幅広く使用されている知的能力のアセスメント法であり、横断的に患者を評価できる補助診断ツールといえる。

前述したようにASDの診断に際しても多く使用されるが、WAISの結果においてASDに特異的なパターンがあるわけではなく、下位項目ごとの評価点のばらつきが目立つのが特徴である。

過去には、自閉症では動作性知能指数(intelligence quotient: IQ)が言語性IQよりも有意に高く、アスペルガー症候群では言語性IQが動作性IQよりも有意に高いとする報告も見られたため、これが拡大解釈され、言語性IQと動作性IQの乖離を根拠とするASDの誤診例も散見される。

言語性IQと動作性IQのプロフィールのみでASDの診断としないことを意識する必要がある。

太田,飯田. 成人精神疾患の背景にある神経発達症をいかに見抜くか. 精神科治療学 37(1): 11-16. 2022

 

こころの健康クリニックでも、学生さんやさまざまな診断で休職中の「発達障害(神経発達症)特性」のある方には、WAIS-Ⅳを受けていただき、学校や会社に合理的配慮や対応をお願いすることもあります。

 

もし職場に発達障害と記した診断書を提出したとしたら、大きな会社の場合、おそらく出世コースからは外されるでしょう。それでも構わないから、対人関係で悩んだり当意即妙な対応を求められずに済む部署に移って働き続けたいと本人が思うなら発達障害であるとの診断書を出した方がいい。

いや、苦しくても出世を目指したいと本人が主張するなら、調子を崩したら受診するように言い含めたうえで診断書などは発行しないほうがいいかもしれない。

発達障害であると診断を下せば、障害者手帳も取れるし障害者枠での就労支援、生活保護受給などの道が開けるから、そのあたりも本人と相談してみる必要があります。

要するに、本人がどんな生き方を希望するか、そこを本人と協議した結果として、発達障害という診断名をうまく利用するかどうかを考えるのが重要なのです

発達障害は病気と言うよりも生活の不器用さでありますから、診断がどうしたというよりは、病名は道具であると割り切ったほうが現実的です。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

WAISのみでは「発達障害(神経発達症)特性」は診断できません。

そもそも「発達障害(神経発達症)特性」診断名というよりも特性の強弱であり、生きづらさに名前をつけたものですから、自分のもつ「発達障害(神経発達症)特性」をどう自己理解につなげるか、の方が重要なのです。

 

院長

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