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過食症のもう一つの回避傾向と向き合う

[2016.08.29]

摂食障害の強迫と衝動の治療』では、「新奇性追求(冒険好き)」「報酬依存(人情家)」が低く「損害回避(心配性)」「固執」が高い「強迫性タイプ」の病態と治療方針について書きました。

今回は「人からの評価に敏感」になりやすい「新奇性追求(冒険好き)」が低く、「損害回避(心配性)」「報酬依存(人情家)」「固執」が高い「回避性タイプ」についてです。

 

このタイプは『なぜふつうに食べられないのか』にあるように、食行動異常が対人関係の役割を果たすことが多く、過食は自分でできるし、時間を埋めてくれるし、誰にも知られずにいられる心地よい時間になります。

さらに過食は批判や拒絶から身を隠して、屈辱を感じるかもしれない対人関係から離れることができると同時に、理想化された空想の世界に退避する手段になってしまいます。

 

このように、対人関係を希求しながらも評価されるかもしれない、拒絶されるかもしれないという不安から対人関係を避けてしまうというアンビバレントな気持ちがあり、その寂しさを紛らわすために、あるいは、何もすることがない手持ちぶさたを紛らわすために食べ物を使うことが多いので、短時間に大量の食物を摂取する過食(むちゃ食い)よりもダラダラ食いや大食のことが多いのも特徴です。

「気分変調性障害(持続性抑うつ障害)」の合併が多いのですが、中核群よりも「無力型気分変調症」に合致する人が多い印象があります。

 

そのため、このタイプの人の対人関係療法による治療では、「自分への価値を下げるような想像上の評価を恐れる(脳内劇場)」をテーマにして、他者を信用できなくなったり、他者を恐く感じた出来事をライフチャートの形で振り返ることも多く、『8つの秘訣』にある

白黒思考、自己関連づけ、他者を責める、心の読みすぎ、といった一般に見られる認知の歪みは、どれもが摂食障害に荷担すると知っておくことが大切です。
歪んだ思考が嫌な気持ちを引き起こすと、それに対処するために摂食障害行動も引き起こされがちですので、思考のバランスを上手に取れるようになることは、回復にとっても人生にとってもとても大切です。

という回避的な対人関係パターンに焦点を当て

○ 相手に対する情報が足りない部分は想像で補わざるを得なくなる。
○ そのような想像は必ず最も避けたい結果を予測する思考となる。
○ 感情とは、自分の思考に身体が反応して引き起こされるものである。

という心理教育から始め、人の心の仕組みと動き方を知ることで、対人関係に対する誤った認識や態度を変えていくように少しずつ手助けしていきますよね。

 

そもそも回避傾向がある人は対人関係療法に向いていないと言われています。
このタイプは治療関係の構築に時間がかかるのも特徴です。
治療関係が確立できても、期間限定の治療の間に社会の中で他者と関わりを始めてみる「実行期」に移行できないことも多いのです。
変化の段階でたとえると、旅行のプラニングをするところまでで、荷造りをして旅行に出かける踏ん切りがつかない、という感じです。

個人的な印象なのですが、このタイプの人たちが怖れているのは、他人との関係や社会的なかかわりではなく、自分自身と向き合うことなのかもしれないと感じています。

あらゆる時間をネットやゲームや過食などの気散じで埋めつくそうとするのは、一緒に生きてきたはずなのにけっして会いたいと思わなかった見ず知らずの赤の他人のような気詰まりな自分自身と沈黙の中で二人きりになるのを避けたいからではないか、と感じるのです。

 

変わりたいと思うと同時に変わりたくない気持ちが生まれ、変わらない虚構の世界で生きることでかりそめの幸せを味わい、それは現実とまったく関わりのない欺瞞であることを感じつつも、生きることそのものを忘れようと躍起になることで、逆に生きることの苦悩そのものを呼び寄せてしまうため、ますます今の状態にしがみつくのではないかと考えています。
(『過食症の自己欺瞞に向き合う』参照)

 

ですから、このタイプの患者さんの治療の際には、生きていくうえで、どんなにごまかそうとも変化は起きるので、不安や恐怖に対処したり、それらを除去するのを手助けするのではなく、思考や感情に対してそのまま感じてみる体験を培い、虚構へのしがみつきを手放していくことを少しずつ学びながら、変化に向き合うしなやかで自由な態度の体験を手助けすること、が必要と考えています。

院長

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