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複雑性PTSDの発達段階ごとの特徴

[2024.03.18]

「複雑性PTSD」は、【出来事基準(単回性または持続性・反復性)】に相当するトラウマ体験によって、【PTSD症状:再体験、回避、脅威の知覚】と【自己組織化障害(DSO)症状;感情調節障害、否定的自己概念、対人関係障害】とともに、さまざまな領域の著しい【機能障害】を呈し、基準の項目をすべて満たしているもの、と定義されています。

 

複雑性PTSDの診断基準〜外傷的出来事とPTSD症状』では、ICD-11での「複雑性PTSD」の概略と【出来事基準(トラウマティック・イベント;外傷的出来事体験)】、そして【PTSD症状】について解説しました。

とくに、一度に数ヵ月から数年間続く【トラウマティック・イベント;外傷的出来事体験】にさらされた経験があっても「複雑性PTSD」を発症しない人が多い、ことに注意が必要です。

 

複雑性PTSDの診断基準〜自己組織化障害と機能障害』では、【自己組織化障害(DSO)症状(感情調節障害、否定的自己概念、対人関係障害)】と、【機能障害】について説明しました。

 

今回は、「複雑性PTSD」の特徴や経過、とくに発達段階との関連について説明します。

 

複雑性PTSDの経過

複雑性PTSDの症状の発症は、生涯にわたって起こりうるが、典型的には、慢性的に繰り返される心的外傷となる出来事や被害への暴露が、一度に数ヵ月から数年間続いた後に起こる。
複雑性PTSDの症状は、一般にPTSDに比べてより重篤で持続的である。
特に発達初期に繰り返しトラウマにさらされると、PTSDよりもむしろ複雑性PTSDを発症するリスクが高くなる。

ICD-11 複雑性PTSD

 

発達初期に、心的外傷となる出来事や被害への暴露が、一度に数ヵ月から数年間、慢性的に繰り返されると「複雑性PTSD」を発症するリスクが高くなることから、「複雑性PTSD」の発症時期は、幼児期、学童期、思春期・青年期、成人期初期、と考えて良さそうです。

 

複雑性PTSDの発達段階ごとの特徴

複雑性PTSDを持つ子どもや青年は、同年齢の子どもや青年よりも認知的な困難(例えば、注意力、計画性、整理整頓の問題)を示す可能性が高く、その結果、学業や職業上の機能に支障をきたす可能性がある。

複雑性PTSDの子どもや青年は、抑うつ障害、摂食障害、睡眠・覚醒障害、注意欠如多動症(ADHD)、反抗挑戦性障害(ODD)、素行障害(CD)、反社会性パーソナリティ障害(ASPD)、分離不安障害と一致した症状を訴えることが多い。

症状の発現と外傷体験との関係は、鑑別診断を確立するのに有用である。同時に極度のストレス体験や外傷体験をした後に、他の精神障害が発症することもある。症状が複雑性PTSDで十分に説明できず、各障害の診断要件がすべて満たされている場合にのみ、追加の併発診断を行うべきである。

ICD-11 複雑性PTSD

 

「複雑性PTSD」でも「発達性トラウマ障害」と同じように、注意欠如多動症(ADHD)⇒反抗挑戦性障害(ODD)⇒素行障害(CD)⇒反社会性パーソナリティ障害(ASPD)にいたる「DBDマーチ(破壊的行動障害マーチ)」がみられることがあると記載されています。

 

さらに「複雑性PTSD」では、抑うつ障害、摂食障害、睡眠覚醒障害、分離不安障害などの症状を呈することもあります。

 

幼児期
両親や養育者がトラウマの原因(性的虐待など)である場合、子どもや青年はしばしば無秩序な愛着スタイルを発達させ、これらの個人に対する予測不可能な行動(例えば、困窮、拒絶、攻撃性を交互に繰り返す)として現れることがある。
5歳未満の子どもの場合、虐待に関連したアタッチメント障害(愛着障害)には、反応性アタッチメント障害や脱抑制型対人交流障害も含まれることがあり、これらは複雑性PTSDと併発することがある。

学童期
小児では、情緒調節の広範な問題や人間関係を持続させることの持続的な困難が、退行、無謀な行動、自己または他者に対する攻撃的行動、仲間との関係の困難として現れることがある。
さらに、感情調節の問題は、解離、感情体験や感情表現の抑制、肯定的な感情を含む感情を誘発しうる状況や経験の回避として現れることがある。

思春期・青年期
青年期には、薬物使用、危険な行動(例えば、危険な性行為、危険な運転、自殺を伴わない自傷行為)、攻撃的行動が、情動調節障害や対人関係の困難の問題の表れとして特に顕著に現れることがある。

成人期
年齢を重ねるにつれて複雑性心的外傷後ストレス障害は、不安の生理学的症状(例えば、驚愕反応の亢進、自律神経過敏)と同様に、思考、感情、記憶、人に対する不安回避が支配的である。
複雑性PTSDの罹患者は、心的外傷体験が人生に与えた影響に関連した強い後悔を経験することがある。

ICD-11 複雑性PTSD

 

上記の「アタッチメント障害(愛着障害)」は、「生後5年以内(5歳未満)で発症し、小児でのみ診断できる」と定義されています。

一方DSM-5-TRでは、「アタッチメント障害(愛着障害)」は、孤児院に収容されるなど重度のネグレクトを受けた(アタッチメント対象が欠如した)子どもでも、発症は10%未満であることが触れられています。(『大人の愛着障害と愛着スペクトラム』参照)

 

さらに、反応性アタッチメント障害が持続することで、青年期早期(思春期)の社会機能上の問題と関連する可能性があることから、社会生活を送っている成人の「アタッチメント障害(愛着障害)」はほぼ存在しない、と考えられます。(『大人の愛着障害と不安定型愛着』参照)

 

さらに「複雑性PTSD」では、「認知機能(認識)の障害(知的障害)」「自己制御(情動調節)の障害(ADHD)」「関係性の障害(ASD)」など、発達障害の特性を有することも特徴のようです。

 

一方、成人期中期以降の「複雑性PTSD」では、PTSD症状の重症度は低下するとされています。

「PTSD」も同様で、中年期以降は回避や過覚醒症状は持続するものの、再体験症状は顕著に減弱することが診断基準で示されています。

 

解離性フラッシュバックを伴う再体験症状は徐々に減弱して、「思い出して嫌な気持ちになる」「思い出すと辛くなる」など、回想的記憶想起にともなう不安症状が前景に出てくるようです。これが回避症状につながるようです。

中年期以降の再体験症状の減弱によって、「複雑性PTSD」の診断基準を満たさなくなります。

 

つまり、「ストレス因(心的外傷体験)とその結果にひどくとらわれており、過剰な心配や苦痛な思考、その意味についての反芻的思考がみられる。そうした症状はストレス因(心的外傷体験)の想起刺激によって悪化し、結果として回避が生じる」という、「適応反応症(適応障害)」の診断を満たす病態に移行すると考えられています。
(ストレス因の遷延がなく6ヵ月を超えて遷延した「類適応障害」)

 

もし「「複雑性PTSD」や「発達性トラウマ障害」かもしれない」と考えている方がいらっしゃいましたら、もう一度、診断基準を読み直してみてくださいね。

 

院長

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