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習慣および衝動の障害としての過食症

[2014.07.22]

水島先生が『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』に

過食症の過食は、「ダイエットの反動としての過食」と「ストレス解消としての過食」が混在しています。

と書いておられます。

「ストレス解消としての過食」は
対人関係療法でも治療対象となるように
心的な要因の関与が明確なのですが、
これに対しても疑問が呈されることもあるようです。

摂食障害の語り〈回復〉の臨床社会学』に

過食症者は、多くの場合、普通の人が多少の無理をしたところで食べきれないほどの量の食べ物を一度に食べきる。
たしかに、やけ喰いなどという言葉があるように、心理的な不快感等を食べることで解消するということは、少なからぬ人によくある経験なのかもしれない。
けれども、過食の量をよくよく考えてみると、心理的な原因があったからといって、それまで人並みの食事をしていた人々の胃袋が、突然これほど大量の食べ物を受けつけるようになるとは、どうしても考えにくい。
摂食障害の語り〈回復〉の臨床社会学』中村英代・著 新曜社

とあるように「胃袋がこれだけの大量の食べ物を受けつけるのか?」
という疑問があるようですね。

「ストレス解消としての過食」では、
感情を心の中で抱えられない「気分不耐」があり
アルコールと同じような「麻痺作用としての過食」と「耐性」、
ダイエットへの「のめり込み(とらわれ)」からの
身体の低栄養状態によって大量の食物摂取が引き起こされます。

さらに、空腹や満腹という身体感覚の麻痺と、
さらに強迫性と衝動性のはざまで起きる「プチ解離」によって、
胃袋の限界を超えた過食とダイエットや過食への依存につながるのです。
(『衝動性と強迫性〜摂食障害との関係』『「むちゃ食い障害」のサブタイプ(亜型)』『むちゃ食い症候群(過食)と感情不耐』参照)

「気分不耐」やその誘因となったストレスについては
対人関係療法による治療の中で扱っていきますが、
人によっては、「やせ願望」をほとんど認めず、
むしろ強迫性と衝動性がメインのテーマで

ICD:習慣および衝動の障害
DSM:他のどこにも分類されない衝動制御の障害

としか診断できない方もいらっしゃることは
ほとんど知られていないようです。
(三田こころの健康クリニックでは「衝動過食」とか「習慣過食」と呼んでいます)

これは水島先生も書いていらっしゃるように

「ダイエットの反動としての過食」をなくすためには、きちんと食事をとって必要な栄養を摂取していく必要があります。

ということの障害なのです。
つまり、

対人関係のストレスが軽くなり、自分のコミュニケーションにどうにか自信がついてきて、まず精神的に楽なります。
その後、だんだんと食行動が正常化してきます。

というプロセスの中で「精神的に楽に」なったけれども
食行動が正常化しない場合
ということです。

摂食障害に関する情報に接して以来、〈メンタルの問題〉という意味づけが拒食や過食をめぐるIさんの体験を覆いつくしていたのだが、精神的に安定しても過食が治まらないという新しい現実は、「拒食や過食はメンタルの問題に由来する」という枠組みに収まりきらないものだった。
そして、〈メンタルの問題〉という理解と、〈ほっとしたんだけど過食が止まらない〉という体験との裂け目が、過食への意味づけを更新する契機となっている。
Iさんも、Lさん同様、その後絶食をやめて一定量の食事をすることで、過食も嘔吐もしなくなってきた。
LさんもIさんも、過食を、食事をきちんと摂ることで解消できる問題として意味づけ直した後に、食生活の改善を実行している。
両者の場合、過食という問題への意味づけの変化が、問題の解消に向けたターニングポイントになっているのだ。
摂食障害の語り〈回復〉の臨床社会学』中村英代・著 新曜社

ここに挙げてある「過食という問題の意味づけの変化」については
「食行動の適正化」というやり方で改善は可能ですよね。

三田こころの健康クリニックでは、摂食障害の診断時に
「やせ願望」「肥満恐怖」の強さもアセスメントしているので
対人関係療法などの精神療法を優先するか、
食生活の改善を優先するのかは判断出来るのです。

過食が一番起きにくい時間帯にタンパク質を摂ってもらうのは
「食行動の適正化」の第一歩ですし、これが
水島先生がおっしゃる「身体が先、心は後」ということですよね。

しかし一般の精神科外来でみられるような安易な摂食障害の診断や、
摂食障害=心の問題という先入観だけで治療を始めてしまうと
不適切なやり方を押しつけることになってしまいますので
やはり「その人に合った治療のやり方を考える」という
鑑別診断学が絶対に必要になりますよね。

院長

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