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精神科主治医とリワークの選び方

[2023.08.21]

今年に入ってから、大企業の総括産業医の先生を含め、専属産業医の先生方とお話をさせていただく機会が何度かありました。

 

産業医の先生方とは、社員さんのメンタルヘルス対策から、「適応障害」の安易な診断と薬物療法偏重主義などの精神科臨床の問題点、産業医が必要と考えるリワークプログラムの内容まで、いろいろな話をさせていただき、精神科臨床医あるいは精神科産業医としても得るものが多くありました。

その一部をここでシェアさせていただきたいと思います。

 

精神科主治医・メンタルクリニックの選び方

「メンタルクリニックへの受診勧奨をすると、ほとんどの社員が自宅近くのクリニックを選ぶ」と言われています。

その心理を考えてみると、会社の近くのクリニックだと、顔見知りに会うかもしれないという心配があるため、と考えられます。

 

一方、会社近くのクリニックであれば、昼休みや終業後の通院の利便性に加えて、上司を交えた面談機会を設けることが容易であり、社員さんのメンタルヘルス対策にプラスになることが多いようです。

総括産業医の先生も、「ぜひ、職場近くのメンタルクリニックに通っていただきたい」とおっしゃっていました。

 

適応障害の診断と治療の問題点

産業医の先生方と話していて必ず話題に出るのが、「適応障害」の安易な診断と、現場(職場環境)を考慮しない短絡的な休職指示、そして、「適応障害」ではエビデンスが得られていない抗うつ薬と抗不安薬の処方、など精神科臨床の診断と治療の問題でした。

 

多くのメンタルクリニックでは、初診から抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬と睡眠薬など、多剤処方をされる場合が多く、不適切な治療によって改善するどころか、逆に「事例性(勤怠・安全・パフォーマンス・業務態度などの問題)」が顕著になる場合も多いという話も聞かせていただきました。

 

私自身も精神科産業医として、メンタルクリニックに通院されている社員さんと産業医面談をしていても、開いた口が塞がらないような処方や、治療ではなく抗不安薬による依存症を作っているのではないか?と疑うようなケースを目にする機会も多くあります。

そのため、「会社近くのメンタルクリニックを紹介したいが、実際に通院した社員さんの処方内容や改善状況をみてからでないと安心して紹介できない」とおっしゃる産業医の先生もいらっしゃいました。

 

そのような意見をお聞きしていて、先日の産業医講習会で、認知行動療法の第一人者である大野先生が話された「主治医の選び方」を思い出しました。

 

精神科主治医(メンタルクリニック)の選び方

○相性

○単剤

○わかりやすい説明

大野裕. 職場のメンタルヘルス. 東京医師会・東京医科歯科大学医師会産業医講習会. 2023

 

ごくシンプルなリストですけど、メンタル疾患の治療に関しては、すごく重要なことですよね。

 

仕事関連の心的苦痛を主訴にメンタルクリニックを受診した社員さんについて、まず行うことは、業務の内容、業務量や人間関係などの職場環境を知ることです。

 

そこで必要なことは、症状だけでDSMやICDにもとづいて「適応障害」であると操作的に診断することではなく、職場環境の中でどのように心的苦痛が生じたのか、何がストレッサーになっているのか、などの記述的診断を考えることが不可欠なのです。

 

その上で、どのようなストレス反応が出ているかを見極め、ストレス反応の低減のためにストレッサーを取り除く努力、まず行うことは「作業関連性」の改善、つまり環境調整が必要不可欠であり、職場環境を知らないままでの診断や治療は無責任と言わざるを得ません。

 

そのプロセスの中で精神科主治医と職場産業医の連携、あるいは上司との同席面接が必要になる場合があるため、職場近くのメンタルクリニックへの受診が推奨されるのです。

 

職場の人間関係とハラスメントの問題

「作業関連性」、特に職場の人間関係に起因して、うつ状態や「適応障害」などの「疾病性」が生じている場合には、まず行うことは、配置転換などの作業環境調整ですよね。

 

性格や認知構造に問題のある上司や同僚がいる場合、本人に脆弱性がなくてもストレス関連障害や、場合によっては急性ストレス障害などを引き起こすこともあります。

産業医として会社訪問をしていても、ある上司の下では休職者や退職者が多いなど、同じ部署内にメンタル不調を引き起こした人が何人かいる、との話を聞くことが時々あります。

 

そもそも職場の人間関係などの「作業関連性」によってメンタル不調が引き起こされている場合は、ちょっと考えるとわかると思いますが、メンタルクリニックに通院して抗うつ薬や抗不安薬を服用したとしても、症状が改善することは望めない、つまり根本的な解決にはならないのです。

逆に、「早めにメンタルクリニックを受診するとかえって罹病期間が伸びる」といわれるのも、精神科医が職場に対して環境調整を行わないからです。

 

こころの健康クリニック芝大門に転院してこられた患者さんの中にも、主治医が会社との連絡を嫌がったため、会社と主治医の板挟みになって困ってしまった、という患者さんもいらっしゃいました。

 

リワークプログラムの選び方

障害者職業センターで行われているリワークと称するプログラム(職リハリワーク)は、生活リズムの構築、健康管理、集中力や持続力の向上、ストレスコントロールなど、就労移行支援と職業訓練が一緒になったような内容になっているようです。

また、事業場の復職プラン(リハビリ出勤や試し出勤)をリワークと称する場合もあります。

 

一方、医療機関で行われている医療リワーク(職場復帰支援プログラム)は、心理社会的な治療であることが、職リハリワークや復職プランと大きく違うところです。

医療リワークでは、毎日の様子を観察することで、こまめな薬物療法の調節、つまり認知機能低下を引き起こす可能性のある抗うつ薬などの減薬が可能になります。

 

しかし中には、主治医面談がほとんど行われない医療リワークも多いようで、こころの健康クリニック芝大門のように毎週1回、必ず主治医面談を行い、服薬の調整や復職課題の達成度合いをチェックする個別指導を重視した医療リワークは少ない様です。

 

また、医療リワークは、元々、メランコリー型の古典的うつ病をモデルに作られているため、「作業関連性」に起因する適応不全や、発達障害特性を有する人の職場不適応などの「適応障害」の職場復帰支援には向かない内容も含まれています。

 

医療リワークの問題

まず、リワークの時間と期間の問題です。

多くの医療リワークでは、模擬会社として8時間前後のプログラムで行っていることがほとんどなのですが、このやり方では主体性(自律性)が伸びず、決まった期間(4〜8ヶ月)リワークに通いさえすれば、復職の免状がもらえると錯覚してしまいます。頻回の主治医面談が行われないことも、主体性(自律性)の低下に拍車をかけてしましますよね。

 

それだけでなく、休職中で傷病手当を受給している状況では、8時間のリワークと半日のリワークでは経済的負担が大きく異なります。8時間のリワーク4〜8ヶ月と、3〜4ヶ月間の半日のリワークの効果が同じであるのであれば、復職までの対費用効果はあきらかですよね。(『関係性療法にもとづくリワークプログラムの効果』参照)

 

プログラムの内容にも問題があります。

オフィスワークと称したパソコンでの文字入力作業は、障害者職業センターの職業訓練で行う内容であり、病態も職種も多様な人が集まる医療リワークでの治療プログラムとしては向いていません。

 

また多様なリワーク参加者の中でのグループワークは、凝集性(参加者同士の一体感)ができにくく、さらに心理的安全性が確保されていないことから、リワーク内での対人関係の問題を起因として、医原性の適応不全を引き起こしてしまうケースも多くみています。

 

リワークの立地も上述の「精神科主治医・メンタルクリニックの選び方」で書いたように、職場の近くであれば通勤訓練を兼ねることができますから、復職プランの一環としての通勤訓練が不要になり、リハビリ勤務(試し勤務)から開始することができます。

 

リワークの選び方は以下のことがポイントになるでしょう。

リワークを考えている休職者の方は参考にしてくださいね。

 

リワークプログラムの選び方

◇職場に近く通勤訓練を兼ねることができ、復職後の通院もしやすいこと

◇認知機能に影響を与える抗うつ薬の調節(主に減薬)を行うことができること

◇半日のプログラムで自主性(自律性)を高めることができること

◇オフィスワークやグループディスカッションではなく、個別指導が充実していること

◇認知行動療法以外の心理社会的治療も行っていること

◇主治医が産業医業務を行っており、労働関連法規にも通じていること

 

メンタル不調のためにメンタルクリニックへの通院を考えていらっしゃる方や、職場復帰に向けてこれからリワークを始めようと考えていらっしゃる方の一助になれば幸いです。

 

また、このブログをお読みの公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士の中で、リワーク専任スタッフとして、こころの健康クリニック芝大門で一緒に働いてくださる方を募集しています。

詳細はこちら→「リワーク専任スタッフ(正社員)募集

 

院長

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