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気分変調症と自閉スペクトラム特性

[2024.01.08]

「自分は人間としてどこか欠けている」「自分は何をやってもうまくいかない」「何かを言って波風を立てるくらいなら、黙って我慢したほうがずっとました」「人生がうまくいかないのは、今まで自分がちゃんと生きてこなかったからだ」などの感じ方は気分変調症という「慢性のうつ病」かもしれません、との本の帯を読んで、「気分変調症かもしれない?」と受診される方が増えた時期があります。

 

しかし、DSM-5やICD-10などの診断基準の「持続性抑うつ障害(気分変調症)」と、上記の感じ方には、若干のズレがあるのです。

 

「準感情病性気分変調症」と「無力型気分変調症」

そもそも「気分変調症」は、それまで「抑うつ気質」「抑うつ人格」「神経症性うつ病」「性格因性うつ病」「小うつ病」などさまざまな名称で呼ばれていた病態のうち、「神経症性うつ病」の研究結果からDSM-Ⅲではじめて「気分変調症」という用語が導入されました。

 

Akiskal(註:アキスカル)らは、気分変調性障害を遅延型、早発型の二群に分けている。

さらに早発型を、抗うつ薬に反応するsubaffective dysthymia(軽症感情病性気分変調症(註:準感情病性気分変調症))と、反応しないcharacter-spectrum disorder(性格スペクトラム障害)に分類した。

三木. 神経症性抑うつないし気分変調症. 精神科治療学 27(増刊号): 101-108. 2012

 

アキスカルらによると、「準感情病性気分変調症」では、快楽消失、罪責感、あるいは過眠を主とする抑制症状などが見られることが、気分(感情)障害との類似点であるとして、以下の特徴を記載しています。

 

以上の所見を総括すると、感情調節剤に反応を示す早期発症の気分変調症(註:準感情病性気分変調症)は、軽症かつ生涯にわたって出現する感情障害とみなすのが最善であることが示唆される。

(中略)

3環系抗うつ剤の投与によって短期間の軽躁状態へと転じるといった、ごく軽度の双極性傾向を示すこともある。

(中略)

準感情病性の群に属するような患者は、広義の「慢性うつ病」患者の10-15%を占めている。

S・W・バートン, H・S・アキスカル. 気分変調症―軽症慢性うつ病の新しい概念. 金剛出版

 

のちに、アキスカルのグループのニクレスク(Niclescu)らは、「準感情病性気分変調症」の特徴を「鈍い反応性と失敗に敏感であり、衝動性は高くないが偏った考え方を持つ」とし、「無力型気分変調症」と名称を変更しました。(三木. 神経症性抑うつないし気分変調症. 精神科治療学 27(増刊号): 101-108. 2012)

 

「抑うつ気質」と「抑うつ性パーソナリティ障害」

さらにアキスカルらは、DSM-Ⅱまで用いられていた「抑うつ人格」ではなく、根底にある感情障害の生物学的要素との密接な結びつきを強調するために「抑うつ気質」という用語を用いて、「準感情病性気分変調症」や「無力型気分変調症」を同定するための基準を定めています。

 

  • 内向的、受動的、あるいは無気力
  • 憂うつ、ユーモアがない、あるいは楽しむことができない
  • 心配しがち、考え込みがち、あるいは厭世的
  • 不適切なこと、失敗、否定的な出来事に心を奪われる
  • 自己批判的、自己を非難する、あるいは罪責感を持ちやすい
  • 懐疑的、過度に批判的、あるいは不満が多い

S・W・バートン, H・S・アキスカル. 気分変調症―軽症慢性うつ病の新しい概念. 金剛出版

 

アキスカルらのこの試案は、DSM-IV-TRの研究用診断基準に「抑うつ性パーソナリティ障害(depressive personality disorder)」として記載されました。

 

A.抑うつ的な認知および行動の広範な障害で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
以下のうち少なくとも5項目(またはそれ以上)によって示される。

  • 通常の気分は、憂うつ、悲観、快活さのなさ、喜びのなさ、不幸感が優勢である。
  • 不適切さ、無価値感、および低い自尊心についての核心が自己概念の中心を占める。
  • 自分に対して批判的で自責的で、自分で自分をけなしている。
  • くよくよ考え込み心配してしまう。
  • 他に人に対して拒絶的、批判的、非難がましい。
  • 悲観的である。
  • 罪悪感または自責感を感じやすい。

B.大うつ病エピソードの期間中にのみ起こるものではなく、気分変調性障害ではうまく説明されない。

 

しかし、「準感情病性気分変調症」や「無力型気分変調症」は、「気分変調性障害との区別は困難なことも多いが、認知的、対人関係、および精神内界的なパーソナリティ傾向を強調していることで、気分変調性障害との診断基準とは異なる」とされ、DSM-5の診断基準には収載されませんでした。(三木. 神経症性抑うつないし気分変調症. 精神科治療学 27(増刊号): 101-108. 2012)

 

このような「準感情病性気分変調症」や「無力型気分変調症」の感じ方が、冒頭に引用した本の帯に書いてある感じ方なのです。

 

「無力型気分変調症」と「自閉スペクトラム特性」

冒頭に引用した感じ方は、「準感情病性気分変調症」や「無力型気分変調症」のもつ「認知的、対人関係、および精神内界的なパーソナリティ傾向」そのものであり、さらにそれは、とりもなおさず「自閉スペクトラム特性」と酷似しているのです。

 

それだけでなく「不適切なこと、失敗、否定的な出来事に心を奪われる」という項目は、「ストレス因とその結果にひどくとらわれており、過剰な心配や苦痛な思考、その意味についての反芻的思考がみられる。そうした症状はストレス因の想起刺激によって悪化し、結果として回避が生じる」ICD-11の「適応反応症(適応障害)」とも共通する項目でもあります。

 

つまり、「自閉スペクトラム特性」にともなう「認知的、対人関係、および精神内界的なパーソナリティ傾向」は「準感情病性気分変調症」や「無力型気分変調症」と表現され、「気分変調性障害ではうまく説明されない」ため、慢性的な適応不全状態と考えられます。

 

「準感情病性気分変調症」や「無力型気分変調症」タイプの「気分変調症」は、生活スキルや対人関係を含む社会スキルを身につけて、認知機能の改善に取り組む治療が必要になるということですよね。

 

院長

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