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双極性障害と診断されていた女性の減薬治療

[2019.11.07]

「双極性障害」や「双極II型障害」と診断され、通院されている女性も多いと思います。

私自身も双極II型と診断した女性は何人かいらっしゃいます。私自身が双極II型にもっているイメージと、他の医療機関で診断されている双極II型には、ずいぶんとギャップがあるようです。

 

「対人関係-社会リズム療法」を希望して転院されてきた女性のうち、双極II型と診断できたのは2例のみで、他のほとんどのケースが「不安障害」でした。

中には「自閉症スペクトラム(ASD)」で「場面緘黙」のある女性が、ネット依存のための昼夜逆転を双極性障害と診断(!)されていたケースもありました。

 

「不安障害」を「双極II型障害」と診断されているケースを何例も経験したので、個人が特定できないようにいくつかのケースをミックスして書いてみます。

 

現在34歳のAさん(仮名)は、7年前の10月に、気持ちが沈む、わけもなく涙が出る、食欲がわかない、胸が苦しくなるなどの症状が続いたため、近くのメンタルクリニックを受診しました。

当時は仕事が忙しく、残業も月に80時間前後で、時には断れずに深夜残業を余儀なくされることもあったそうです。

また受診する3週間前に、同僚だった婚約者から、理由も知らされずに突然に別れ話が出て、婚約が破談となりました。

その哀しみを仕事で紛らわしていたような面もあったと振り返ってくれましたが、慢性的な寝不足と疲労感で、気持ちが鬱々とした日々が続いていたそうです。

 

メンタルクリニックでは「うつ病」「適応障害」と診断され、投薬治療が開始されました。


サインバルタ(30) 2錠
メイラックス(2)  2錠
デパス(1)            3錠

 

元婚約者である同僚と同じ職場で働くのが苦痛であるため、転職活動をするようになりました。

しかし転職活動はうまくいかず、気分も改善しないため、リストカットを繰り返していたある日、「このまま生きていても仕方がない」と、残っていたデパスを10錠ほど過量服薬し大学病院に搬送されました。

 

大学病院では、哀しみを紛らわしていた残業や深夜残業をハイテンションと診断され、「双極II型障害」と診断が変更になり、6年ほど通院しました。
その間、「外に出るのが不安」と訴えるたびに薬が増えていったそうです。

 

炭酸リチウム(200)            3錠
テグレトール(200)            2錠
デパケンR(200)               4錠
エビリファイOD(12)          2錠
アキネトン(1)                  2錠
メイラックス(2)               2錠
ルネスタ(3)                    1錠

 

この頃には逆に、薬が増えるたびに不安が強くなったそうです。

何度か就職しましたが、外に出られない、あるいは電車に乗れない不安のために、転職と退職を繰り返し、結局、仕事を続ける事が出来ずに辞めてしまい、ほとんど寝たきりで引きこもりのような状態になってしまいました。

 

治療経過が長いにもかかわらず自覚的な症状の改善が乏しいこと、「対人関係ー社会リズム療法」による治療と減薬を本人が希望されたことから、こころの健康クリニックに紹介受診となりました。

 

構造化面接による診断では、これまでに、高揚気分、誇大性、睡眠欲求の減少(短時間の睡眠でも熟眠感が得られる)、多弁、観念奔逸、注意散漫、活動の増加など、「(軽)躁状態」を示唆する所見は見られませんでした。

投与されていたエビリファイの副作用として、焦燥感を伴う行為心迫、静座不能(アカシジア)、思考抑制、予期不安を伴う全般性不安を認めました。

 

「混合性不安抑うつ障害」と診断し減薬治療を開始することにしました。

まず、女性に対して将来的なリスクが大きいテグレトールと、妊娠が可能な年齢の女性には原則として使用しないことが推奨されているサイレント・キラーと揶揄されるデパケンから少しずつ減薬していくことにしました。

 

3ヶ月目の処方です。

リーマス(200)                1錠
エビリファイOD(3)          2錠
レクサプロ(10)               1錠
レンドルミン(0.25)          1錠
ルネスタ(1)                   2錠

 

レクサプロの追加で、外に出られなかった不安は徐々に減少し、この頃には、近所を散歩したりジョギングしたりすることができるようになってきました。

しかし、電車に乗るとパニック発作が起きる予期不安は続いていました。

 

パニック発作に対する予期不安は、「広場恐怖症(閉所恐怖)」に似ていましたが、身体が記憶した恐怖発作と判断しました。

突然破談になった元婚約者との関係を振り返ってもらいながら、ボディースキャンを組み合わせた漸進的筋弛緩法と、不安階層表を用いた曝露療法を繰り返して指導しました。

 

また電車に乗る前にカフェイン飲料を飲むと、不安がやわらぐという対処法を見出されました。

注意の分割と切り替えを指導し、カフェイン飲料を飲まなくても、音楽を聴いたり、スマホでニュースを集中して読んだりしていると、地下鉄にも平気で乗っていられるようになりました。

 

初診から10ヶ月目の処方です。

レンドルミン(0.25)        1錠
レクサプロ(10)              0. 5錠

 

予期不安に対するこころの使い方(セルフモニタリングと対処)ができるようになってきたので、レクサプロを中止しました。

睡眠薬も眠れない時だけの頓服としましたが、ほとんど飲んでいないということでしたので、最終的には薬はゼロになりました。

いつの間にか、電車に乗るときの不安が気になることはなくなり、当時のことを振り返って、「何がそんなに不安だったのでしょうね?」と笑っていらっしゃいました。

 

月経不順やニキビ、体重増加などは見られませんでしたから、バルプロ酸による多嚢胞性卵巣症候群の心配はなさそうです。子宮癌検診を受けるチャンスがあったら、合わせて診てもらってくださいと伝えています。

 

彼女はときどき状況報告をかねて受診してくださっていて、就職してキャリアウーマンとして働きながら、交際相手との将来を考えていらっしゃるとのことでした。

 

このようなケースが、似たような状態で通院されている方の役に立てば幸いです。

 

院長

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