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トラウマとアニバーサリー(記念日)反応

[2023.07.24]

古くから季節とうつ病発症時期との関連が指摘されていました。

秋冬にうつとなり、春夏には回復する一群を、ローゼンタールらは「季節性感情障害」と名づけました。

 

「季節性感情障害」は、①高緯度地域の20歳代の女性に多い、②感情障害の遺伝負因がある、③過眠、糖質の過食、体重増加など非定型的なうつ病の身体症状を伴う、④軽躁状態を呈することが多い、⑤高照度光療法に反応する、など、生体リズムの異常が推定されています。(濱田『精神症候学』弘文堂、中根・山内『ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店)

 

「季節性感情障害」とは異なるのですが、こころの健康クリニック芝大門の職場復帰支援プログラム(リワーク)を卒業され復職された方達の中に、毎年同じ時期に不調を来す人たちがいらっしゃいます。

休職に至った経過を体が覚えていて再現されているような感じで、「アニバーサリー(記念日)反応」として、この時期は再発防止を重点的に行っていますよね。

 

「複雑性PTSD」「発達性トラウマ障害」などのトラウマ関連障害でも、「アニバーサリー(記念日)反応」がみられることが知られています。

 

フラッシュバックとアニバーサリー(記念日)反応

われわれが記念日反応と呼んでいる現象にも注意を払う必要がある。

極めて過酷なトラウマ体験に対し、同じ季節が巡ってきただけで、極端な臨床的な悪化が引き起こされる。

杉山『テキストブックTSプロトコール』日本評論社

季節的に不調になる、いわゆる記念日症候群の著しい悪化を通して、ようやく閉じ込めていた記憶が開かれ、この時期に訪れる悪化が深いフラッシュバックによって生じていたことが明らかになった。

杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

 

「アニバーサリー(記念日)反応」への対処は、複雑性PTSDの治療過程の「記憶に存在せず、身体が覚えている反応(記念日症候群など)の軽減」という3番目の課題です。

 

上記の引用では、「深いフラッシュバック」と記載してあります。

成人期の「複雑性PTSD」「発達性トラウマ障害」などのトラウマ関連障害の治療経過でみられる再体験症状・侵入症状は、“なぜだか理由は分からないが溢れてくる怒り、恐怖、あるいは悲しさ”などの「感情の再体験」と、“「自分は何をやっても駄目だ」などの考えが繰り返し浮かぶ”「認知・思考的再体験」が多いようです。

 

ここでプラス・マイナス両方の契機になるのが記念日症候群の存在である。

複雑性PTSDのクライエントにおいて、記憶には存在しないが、その季節になると原因不明の悪化がみられることは稀ではない。

確認をすると、確かにこの時期にいろいろなことがあったことは認められるものの、それが何なのかというと、いくつものトラウマ的なエピソードが錯綜していて不明確であることが多い。

杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

 

フラッシュバックは「辛かった体験を思い出す」とか「嫌な場面を思い出す」などの記憶想起や反芻とは異なり、「どこにいても、いつであっても、ドアが開けられるとそのトラウマ場面のなかに立ちすくんでいる」ような強烈な再体験です。

 

しかし上記の深いフラッシュバックでは、「季節」というトリガー(引き金)によってその時に冷凍保存された「感情+感覚+行動」の蓋が開くのです。

場面記憶がはっきりしないことから、当人は何が起きているのかわからず、「調子が悪い」「辛い」としか表現できないのです。

 

アニバーサリー(記念日)反応と自己組織化障害

不快な感情に対しての「自己治癒的依存症」が悪化したり(感情調節の障害)、あるいは「否定的自己概念」の増悪から抑うつ状態を呈したり、「対人関係の障害」に伴う対人関係からの退却(引きこもり傾向)が強くなるなど、「自己組織化障害」が悪化することもあります。(『フラッシュバックと乱れた食行動』参照)

 

フラッシュバックに対する治療が進み、鮮明な侵入的記憶や悪夢の形で、強い恐怖や身体の異常感覚、あるいは激しい情動の高まりを伴って、トラウマ場面が今起きているように感じる再体験症状や、過剰な脅威・過度の警戒・予期せぬ音に対する驚愕反応などの過覚醒症状が治まってきた時点での「記憶に存在せず、身体が覚えている反応(記念日症候群など)の軽減」は、解離パートへの治療が必要になってきます。

 

しかし、「解離性パートへ働きかけることが適切でない時期もあり、このことも治療計画の中で考慮しなければならない」とされています。

 

  1. すべてのパートがトラウマ時間を生きていて圧倒されているとき――つまり患者のシステム全体が混乱しているとき
  2. 患者が日常生活上でストレス過多の期間に全エネルギーを注ぐ必要があるとき
  3. 患者が他の(日常生活上の、身体的な、または精神的な)問題で圧倒されており、パートへの働きかけを耐性範囲内にとどめる能力がないとき

(Kathy Steele et al. 2016)

 

解離性パートへ働きかけることが適切でない時期や理由は他にもありますが、生活リズムが安定して、侵入症状あるいは再体験症状やなどのフラッシュバックや、驚愕反応などの過覚醒症状がある程度治まってきた時点で、ようやく解離パーツへの治療が可能になってくるのです。

 

こころの健康クリニック芝大門に転院して来られた患者さんの中には、何年もの間、漢方薬や抗うつ薬、あるいはトラウマ関連障害には禁忌の抗不安薬!を漫然と投与されるだけで、「良くなったという実感がもてなかった」とおっしゃる患者さんも多いのです。

 

「複雑性PTSD」と診断されて抗うつ薬の投与を6年以上受けていて改善せず、こころの健康クリニック芝大門に転院して4ヶ月。その間に解離パーツへの治療も終わり、「人生が激変した」と話されていたある患者さんが、こう付け加えられました。

やっぱりトラウマの治療は、専門のところに通わないと良くなりませんね」と。

 

このようなことを書くと、こころの健康クリニック芝大門では「元気な人しか受け入れていないのではないか」との妄想を持たれる方もいらっしゃるのです。

 

「複雑性PTSD」はPTSDの三徴、自己組織化の障害に加えて、「複雑性PTSDのクライエントは、幼児期からすでに不遇な人生を過ごしている人たちが多く、全体的な社会的適応は大変に不良である」と言われるように、重度で持続的な社会生活や仕事の能力、人生の節目への影響など「機能障害」を伴うとされています。(杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

重度で持続的な機能障害を伴う「元気な複雑性PTSD」とはどういうことなのでしょう?

 

こころの健康クリニック芝大門では、ガイドラインでも「使用は控えるべき」とされている抗不安薬などの禁忌薬剤や、向精神薬の多剤大量処方、あるいは抗てんかん薬の処方を受けられていない限り、どのようなトラウマ関連障害でも受け入れています。ただし、減薬や薬剤の変更については「処方責任」のある主治医にご相談ください。

 

「複雑性PTSD」や「発達性トラウマ障害」と診断されて治療を受けているけれども、良くならないと感じていらっしゃる方は、一度、こころの健康クリニック芝大門に相談してみてくださいね。

 

院長

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