メニュー

アタッチメントの傷つきを癒すということ

[2021.08.18]

こころの健康クリニックで「愛着外傷の影響による発達性トラウマ障害」と診断した患者さんたちには、グレーゾーンを越えるASD特性を認めています。

この特性は「複雑性PTSDと発達障害」と診断した患者さんたちと同様でした。

 

一方、「愛着外傷の影響による発達性トラウマ障害」と診断した患者さんたちは、複雑性PTSDの「自己組織化障害(DSO)」は満たすものの、PTSDの症状が明瞭ではないのが特徴でした。

 

さらに、「愛着外傷の影響による発達性トラウマ障害」の患者さんたちは、過食嘔吐や、パニック発作あるいは不安発作に伴う動悸、希死念慮や自殺企図などを主訴に医療機関を受診し、双極性障害、うつ病、パニック障害、摂食障害、解離性障害、境界性パーソナリティ障害などと診断されていました。

 

ヴァン・デア・コークの「発達性トラウマ障害」あるいは「DESNOS(特定不能の極度ストレス障害)」の診断基準(案)に記載されているように、「愛着外傷の影響による発達性トラウマ障害」では症状が多彩で、いくつもの診断カテゴリーをまたぐ診断がついてしまうのです。

 

実際の例を挙げて説明しなければわかりにくいなぁと考えあぐねていたところ、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』という本を見つけました。

 

「第1章 妻・咲セリという症例」「第2章 夫・咲生和臣の視点」「第3章 【夫婦対談】自己否定からくる心の病を共に生きて」「第4章 夫へのQ&A」などの目次を見てもらうとおわかりのように、この本は、当事者である咲セリさんと、その夫でありサポーターである咲生和臣さんの心の内が赤裸々に綴られた本です。

 

早速、「はじめに」を読んでみましょう。

 

子どもの頃、家庭内で精神的虐待を受けたことで、自分を世界一のできそこないだと思い続けました。

外見を気にして摂食障害に陥ったり、自傷や自殺未遂を繰り返したり、性に依存し、場当たり的なセックスを繰り返したり……。

気がつけば、私には、心の病気の名前がいくつもつきました。

強迫性障害。

不安障害。

双極性障害。

そして、境界性パーソナリティ障害。

メンタルクリニックをめぐっても、「手に負えない」といわれたこともありました。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

上記で引用した本の著者である咲セリさんは、最終的には、境界性パーソナリティ障害と診断されています。

 

しかし、ヴァン・デア・コークや福井子どものこころ研究所の杉山先生が書かれているように、愛着トラウマ、発達性トラウマが存在する場合、DSMやICDにもとづく診断名は意味をなさないのです。

 

境界性人格障害の人が「絶対的信頼」と「絶対的不信」の間を揺れ動くのは、相手を白か黒でしか判断できないといった事情があるからだ。また、自己愛性人格障害の人が誇大な自己像を描くのは、傷つきやすい未熟な自己を保護するためである。

(中略)

愛着障害(心的外傷)があることで、人は、依存、自傷、摂食障害、ひきこもりなど種々の症状を呈するようになる。どの症状も孤独な自己治療といった共通項があるからだ。他害、暴力、暴言、反社会的行動など行動化においても同様である。

(中略)

「気持ちがいい」と感じるのは己の身体だが、「気持ちがいい?」と問うのは己の心である。
己の心が己の身体を通じて己の問う姿勢は、自然治癒力や免疫力を賦活させ、愛着障害を治す力を持っている。

愛甲. 愛着障害はどうしたら治せるのか?. そだちの科学 33, 77-82.日本評論社. 2019

 

「アタッチメントの障害」と「心的外傷」により、「絶対的信頼」「絶対的安心・安全」が欠如することで、本来でなら身につけているはずの他者を介した情動や衝動の制御を身にけることができず、「孤独な自己治療」という自分や他者を傷つける行動が症状になってしまうのです。

 

それを癒す方法が、自分が自分の状態をジオラマのように見わたす機能、「メンタライジング能力」です。

 

ですが、今ならわかります。

私は、ただ、愛されたかっただけだったのだと。

否定され続けた自分を、肯定してあげたかったのだと。

それがこじれて、病気になってしまっただけだったのです。

(中略)

・何が問題だったのか

・どうすれば克服できるのか

・その後、何を気をつけているか

を伝え、周りの人には、私を20年近く支えてくれた夫が、

・何が支えるうえでの苦しみとなったのか

・どうすれば克服の手助けができるのか

・自分自身のケアをどうするか

を本音で語れればと思います。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ネルヴァ書房

 

養育者が子どもの心の状態に共鳴し、それを内省(メンタライジング)して消化し、これはあなたの感情よとマークをつけて返すことで、子どもは共感され心身の状態に名前がつけられること、そしてそれを内在化することでコントロールできること、および行動主体の感覚を学んでいきます。

これが、アタッチメントにもとづくメンタライジングのプロセスです。

 

これから時々、上記の本を引用しながら、アタッチメントの傷つきを癒すとはどういうことかを一緒に見ていきましょう。

 

ちなみにこの本の著者である咲セリさんは『「ひとりぼっち」のあなたへ』というブログも書かれています。(現在は休止中のようです)

もしかしたら自分もそうかも?と思われる方は、ぜひ、参考にしてみてくださいね。

 

院長

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME