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人間関係のトラウマから復職するまで

[2020.07.08]

アレキシサイミアと回避を支える理由づけの文脈』で、「神経認知機能障害(記憶・注意・遂⾏機能など脳の⾼次機能の障害)」と「社会認知機能障害(他者の意図や性質を理解するなど対⼈関係の基礎となる精神活動の障害)」を改善することが、リワークでのトレーニングや復職、そして再発防止と就労継続の重要な要因になる、と説明しました。

 

職場復帰と就労継続をうまく進めるには、①生活リズム(睡眠覚醒リズム)など生物学的な安定を土台に、②思考の反すうと思考への囚われなど個人内の心理学的課題の改善(神経認知機能の改善)、③対人関係・コミュニケーションなど対人関係能力の向上(社会認知機能の改善)が必要不可欠、ということですね。(『リワークプログラムでの対人過敏性の改善』参照)

 

こう考えてみるとわかりやすいかもしれません。

足を骨折して、ギプスを巻いて松葉杖をついた状態から、骨がつながってギプスが取れて、松葉杖を使わなくても自分の力で歩いたり走ったり出来るようになる治療的なリハビリが医療リワークです。

骨折は病気、ギプスは安静とか静養、松葉杖は服薬と考えることができますよね。

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、心の体力トレーニングと同時に、心の使い方を学んでいきます。

これまで無意識的・自動操縦的に行ってきた対処行動に対して、行動が長期的な価値や目的につながっているかどうかを振り返り、行動の仕方を自覚的に修正していくトレーニングをリワークプログラムで学んでいくのです。

 

これがうつ病だけでなく気分変調症や、不安障害、あるいは摂食障害の方にも適応することができる、こころの健康クリニックで行っているリワークの共通プログラムなのです。

 

こころの健康クリニックのリワークでは、主治医あるいは産業医や保健師などの産業保健スタッフに対して、定期的に職場復帰準備性の評価結果をお送りしています。

職場復帰が近くなってくると、産業保健スタッフだけでなく。会社の人事担当者や上司とも密に連絡を取ってもらうことになります。

 

職場における心の健康づくり』でのメンタルヘルスケアでは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の「4 つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。

このうち「ラインによるケア」は管理監督者、つまり上司との関係になります。

 

ところが、上司との関係の問題のために、休職にいたった人は少なくありませんよね。

そのような人たちは、復職に向けて進んでいく段階で、「対人関係の再演(リエナクトメント)」を体験しやすくなるのです。

 

暴力的な関係および社会システムの中に表れている脅迫的な力関係は、人をメンタライジング・モードから追い出し、前述のようなトラウマと関連した役割を実演する方向に追いやるということである。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と実践』北大路書房

 

このような視点は、うつ病とか適応障害とか、医学モデル(疾病性)で診ていたのでは理解できません。その人が休職にいたった対人関係の文脈を理解する必要があるのです。

 

対人関係の文脈を理解するときには、その人のメンタライジング能力と同時に、アタッチメント・システムの活性化を理解する必要があります。

 

治療者は行為を、感情や思考が対人関係の文脈の中で立ち現れてきた指標として用いる。

そうした関係性の文脈は、高いレベルの覚醒を生みだし、愛着システムの活性化を強め、あるいは恐怖症的回避傾向を強化し、メンタライゼーションの全般的崩壊を引き起こす。

それゆえ治療者は、問題となる行動に先立つ経験と格闘している患者のこころに焦点をあてる。

ベイトマン、フォナギー『メンタライゼーション実践ガイド』岩崎学術出版社

 

リワークと並行して行う個人面接の中で、「何が起きたのか」「そのときどう感じていたのか」「それを思い出している今、心の中には何が起きているのか」をふり返っていきますよね。

 

内省することで「メンタライジング」と「コンテインメント(心の中で情動を抱えておくこと)」のバランスを保ちつつ、迫害者、被害者、傍観者的目撃者、救済者という役割を取り上げながら、トラウマ的な過去の出来事に焦点を当てて、多様な視点から出来事をふり返っていきます。

 

確かに、Fonagy & Targetが述べるように、過去の外傷的関わりの記憶は、現在の愛着関係にみられる問題含みのパターンを明らかにする点では有益でありうる。

それでも、依然として重きをおくべき点は、他者との関係だけでなく自分自身との関係を改善することを通して、現在において効果的な機能を高めることである。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と実践』北大路書房

 

こころの健康クリニックの摂食障害の対人関係療法でも強調しているように、過去の出来事の整理よりも大切なことは、「自分自身との関係を改善すること」「他者との関係を改善すること」そのための「行動の仕方を変えること」なのです。

 

「相手は変えられない、ならば自分が変わればいい」というスタンスで、自分の心を守るスキルを身につけて、新たな対人関係の準備をしていくのです。

 

職場の上司に当たる人物が敏感性に欠けた人物であるときに、その組織の機能を低下させるという問題を孕む点で重要である。

アタッチメントの観点からすると、そして安心感のケアという観点からは、責任者という立場にあるということは、その職場における安心感を一手に担うということでもある。

問題に対応するための適切な指示ができること、そのための適切な指導ができること、に加え、問題に当たる支援者の苦労や恐れといった心的苦痛と情動の高まりを適切に知覚し、理解し、応答できること、それを問われるのが責任ある立場にいる人である。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

このブログをお読みの社員さんの中で、心の健康問題により休職した部下をお持ちの上司がいらっしゃったら、部下の復職を迎え入れるために、上記のアドバイスを含めた対応の仕方について、こころの健康クリニックに問い合わせてみてくださいね。

 

院長

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