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複雑性PTSDと摂食障害の自己イメージの回復

[2023.07.31]

こころの健康クリニック芝大門を受診した患者さんから、「慢性のPTSDと複雑性PTSDはどう違うのですか?」と聞かれた事があります。

 

「複雑性PTSD」は、長期反復された愛着トラウマ(発達トラウマ)による後遺症です。

そのため「複雑性PTSD」では、神経基盤の調節不全(感情調節障害)、アタッチメント関連の調節機能不全(対人関係障害)、メタ認知障害(否定的自己概念)などの「自己組織化の障害」が形成されます。

この「自己組織化の障害」は、些細な刺激でミルフィーユのパイ生地のように崩れやすく、この時に噴き出してくるのが「解離性フラッシュバック(冷凍保存された“言葉にならない”ほどの辛さを伴う「感情+感覚+行動」の体験記憶)」です。(『複雑性PTSDの語りえないトラウマと解離』参照)

 

一方、「慢性PTSD」は、DSM-IV-TRでは3ヶ月以上の持続、DSM-5では6ヶ月以上とされています。

6ヶ月以上症状が続くという例外的事態が生じるのは、「解離によって非意図的な想起(再体験)が生じる一方で、意図的な想起が麻痺し(回避、麻痺)、そのための記憶の統合が妨げられ、断片化が維持される」ことによると考えられています。(『DSM-5を読み解く 4』中山書店)

 

「交代人格パート(トラウマ担当人格)」との和解と統合

複雑性PTSDのクライエントにとって次の課題は、自己イメージの回復ではないだろうか。ここには他者との関わりが必要なのではないかと感じる。

そもそも「人が信じられない」人が、「自分を信じられる」はずがなく、逆もまた然りである。

人との関係の回復の過程において、なぜかしばしば部分人格との和解が必要である。

その理由を考えてみると、クライエントがつらい記憶や直面が困難な行為をしばしば部分人格に担ってもらっていて、薄々その事実に気づいているからなのだと思う。

杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

 

上記の引用にある「部分人格」は、「交代人格パート(トラウマ担当人格)」あるいは「情動的な人格部分:EP」と、「主人格パート(生活担当人格)」あるいは「あたかも正常に見える人格部分:ANP」と、『複雑性PTSDの語りえないトラウマと解離』で解説したことがありますよね。

複雑性PTSDの語りえないトラウマと解離

 

解離と過食症の対人関係療法による治療との類似

じつは摂食障害でも似たような人格構造が形成されているようです。

「自分(生活担当人格)」と「摂食障害部分:ED(エド)」との関係は、対人関係療法でいう「役割期待の不一致(不和)」であり、現実の対人関係は「親密さの回避と対人関係の不足(対人関係の欠如)」であると『摂食障害(エド)との対人関係)』で説明したことがあります。

摂食障害(エド)との対人関係

 

こころの健康クリニック芝大門で行っている「神経性過食症(過食・嘔吐)」や「過食性障害(むちゃ食い症):の対人関係療法による治療では、まず、「摂食障害部分:ED(エド)」を悪者ではなく、一時的にしろ感情調節を助けてくれたことに感謝することがスタートになると説明していますよね(戦いを終わらせて和解する)

そして、過食という方法は使わずに、「摂食障害部分:ED(エド)」がもっている感情調節能力を「自分(生活担当人格)」が身につけるために内側から支えて欲しい、と統合していくことを目指します。

 

部分人格を切り離す、すなわち見捨てることによって、主人格は生き延びてきた。主人格にとって、部分人格という兄弟姉妹との関わりを取り戻すことは、自らの矜持を回復するうえで必要不可欠なのだと思う。そのうえでクライエントは他者との交流が可能になるのではないか。

そうして他者から信頼されている実感や、他者の役になっている実感があってはじめて、自己への、そして他者への信頼が取り戻せるのであろう。

社会的な適応が向上してはじめて、複雑性PTSDは治療が可能となる。この部分が不十分では、本当の意味での治療にならないのではないか

杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

解離症は生きていくために欠くことのできない術であるとされる。そして、摂食障害患者も摂食障害は生きていくため必須な杖だという。

結局は、背景にある言語化されない「生きづらさ」を正しく見出し、それが解決可能と返されないと、生きていくため術である解離や摂食障害を手放すことができない。

永田「摂食障害治療という舞台に舞う解離」こころの科学 221: 96-102, 2021.

 

摂食障害から回復する10の段階のうちの7段階目の「摂食障害行動はやめられるけど、摂食障害思考が頭から離れない」から、8段階目の「行動からも思考からも解放されているときが多いが、常にというわけではない」段階が、「摂食障害部分:ED(エド)」との戦いを終わらせ和解する過程に相当します。

 

そしてこの2つの段階を超えて、「摂食障害部分:ED(エド)」と「自分(生活担当人格)」を統合するために、現実の世界で「摂食障害にではなく人々に助けを求める」というプロセスへの取り組みが必要になってくるんですよ。

 

つまり、自己組織化の障害のうち感情調節障害の改善をベースに、否定的自己概念を改善していくことによって対人関係の障害から回復していくことが、「複雑性PTSD」「発達性トラウマ障害」のみならず、「神経性過食症」や「過食性障害」からの回復プロセスと重なるのです。

 

院長

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