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摂食障害(エド)との対人関係

[2019.07.08]

三田こころの健康クリニックは2019年6月に港区の芝大門に移転し、こころの健康クリニック芝大門としてリニューアルして1ヵ月が過ぎました。

三田こころの健康クリニックの時代から引き続き、摂食障害(過食や過食嘔吐)の対人関係療法による治療をメインに行っています。

その他、うつ病・うつ状態などの気分障害や不安障害のメンタルヘルス一般外来での治療の他、気分変調症や、適応障害・アタッチメント関連障害などのストレス関連障害の治療も始めましたので、HPをご覧くださいね。

さて、今日から院長ブログ『聴心記』を再開します。

 

過食症:食べても食べても食べたくて』のリンジーさんが、『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』のレビューを書いていらっしゃいます。

ジェニーの機転と立派な誠実さは、摂食障害と離婚しようとしている人たちへ、インスピレーションを与えます……入手しやすい親切な必読書です!」。

 

また『摂食障害から回復するための8つの秘訣』のキャロリン・コスティンさんも、『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』の10周年記念エディションにレビューを寄せていらっしゃいました。

 

『Ed Without Life(「私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した」の原題)』は、摂食障害分野の極めて重要な貢献として際立っています。ジェニーの自身の回復の詳細な説明、そして同じように旅をしている他の人を助けるための探求は、障害を乗り越えて、摂食障害で悩む患者さんたちと愛する人たちとの直接対話によって、世界中の人々を勇気づけています。ジェニーと『Ed Without Life(「私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した」の原題)』は、決して希望をあきらめてはいけないという伝説的な実例となっています」。

 

ジェニーさんの治療者の一人であった心理療法家のトム・ルートレッジさんは、序文の中でエド(摂食障害Eating Disorderの頭文字を取ってED)に洗脳され、操作された日々を終わらせるために、ジェニーさんの体験を参考にしてほしいという意味のことを書いていらっしゃいます。

 

みなさんがこの本を手に取り、読み終えたときには、摂食障害から回復する方法とともに、自分で回復の道を歩み続けていく責任ということにも気づかされるでしょう。そう、あなた次第で、次にどうなるかが決まるのです。

ぜひみなさんには、自分自身の摂食障害と向き合い、今まで直面してきた中でも一番困難な課題に挑戦していくのだという意識をもち、必要な支援を受けられるように行動を起こしていただきたいと思います。(誰も一人でこの困難な回復を目指すことはできないでしょう。)

ぜひジェニーさんやその他の多くの人々が実践したこと、つまり自分自身が摂食障害に罹患していることを受け入れ、同時に摂食障害に自分の人生を定義されることはないのだということに気づいてほしいと思います。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは、長いことエド(摂食障害)との虐待関係の中で過ごしてきました。

エド(摂食障害)は、ジェニーさんとの長い関係の中で支配の力を強めていきました。
ジェニーさんの考えを否定し、「痩せればすべてが解決する」と優越感・特別感を刺激したささやきでジェニーさんをそそのかし、ジェニーさんの自己イメージを歪め、ジェニーさんが自分の身体を傷つけるように仕向けてきたのです。

エドの策略の中で、ジェニーさんが特に悪戦苦闘したのが完璧主義という強迫的な思考パターンだったようです。

 

とても大切な点ですが、これはときに規則を破るということを意味する場合もあります。
私は、根からのまじめ人間で、規則があれば従うタイプでしたので、回復の道を進むときにはこの部分では特に悪戦苦闘しました。
(中略)
しかし、今では、なかには破ってしかるべき規則もあるのだということがわかるようになりました。たとえば、食べ物についての規則や非現実的な美を求める強固な規則などのことです。
私の考えとは裏腹に、この種の規則は私を安全に守ってくれるものではなく、人生をますます惨めにするものだったのです。
(中略)
『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』を読んでいただくとおわかりになると思いますが、私が自ら従わないようにした規則の中でも一番影響力のあったものは、心の中で聞こえ続けていた、「常に完璧でなければならない」というものでした。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは、摂食障害から完全に回復することは、食べ物に関する破壊的な行動から解放され自分の身体と健康的な関係を持つことだけでは足りないと述べます。

「常に完璧でなければならない」という考えが薄れ、自分の人生に喜びと安らぎを見つけること(人生の価値や目的:対人関係療法でいうライフ・ゴール)が真の回復を意味しているのです。

 

ジェニーさんは治療の中で、摂食障害を状態ではなく対人関係として扱うことを学びました。摂食障害(エド)を自分自身とは別のユニークな人格としてとらえることによって、ジェニーさんはエドと訣別したのです。

 

私は、摂食障害を自分自身とは別の独自の存在、独特の考えや人格をもった存在としてとらえるという治療的アプローチを、心理療法士であるトム・ルートレッジ先生から学びました。
そしてやっと私の摂食障害、エドから自由になれたのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

実は2015年にこの本を読んだときに、私は飛び上がらんばかりに狂喜乱舞したのですよ!

うつ病の治療をベースにした対人関係療法による過食症治療では、症状の回復が遅れるだけでなく、再燃から再発そして治療から脱落されるケースを多く経験しました。それで何とかならないか、とあれこれ模索していました。また性格と間違われやすい慢性うつ病性障害(気分変調症)の治療に対しても、対人関係療法をどのように適用したら効果が上がりやすいのかを、ずっと模索していたのです。

 

折しも2013年に出版された『内なるデーモンを育む』で、これまで学んだことのあるプロセスワークやチベット仏教の技法をどうアレンジすれば臨床に使えるのかを考えていた時期でした。

同時期にホロヴィッツの「自己—関係観察」の論文と、マーフィーらの「新しい対人関係療法(IPT-ED)」の論文を読んだのも影響して、過食嘔吐や慢性うつ病性障害(気分変調症)からの回復には「自分との関係」「行動変容」「他者との関係」の3つが必要なことがおぼろげながら見えてきていました。

 

2015年にアタッチメント(愛着)の動的成熟モデルをクリッテンデン先生から学び、2019年にアンナ・フロイト・センターのベイトマン先生、フォナギー先生からメンタライゼーションに基づく治療(MBT)の基礎トレーニングを受け、これらが対人関係療法の弱点を補強してくれることを実感したのです。

 

そして『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』や『摂食障害から回復するための8つの秘訣』、『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』『過食症:食べても食べても食べたくて』などの回復過程を考えていくうちに、自分の中の摂食障害(エド)との関係は「役割期待の不一致(不和)」であり、現実の対人関係は「親密さの回避と対人関係の不足(対人関係の欠如)」であると対人関係療法的に説明することができる!ことに思い至ったのです。

 

このような紆余曲折をたどって、アタッチメントの動的成熟モデルメンタライゼーションに基づく治療を組み込んだ「強化された対人関係療法」によって、過食や過食嘔吐、慢性うつ病性障害(気分変調症)に対して実効ある治療ができるようになったんですよ。

 

院長

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