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発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの感情調節障害

[2022.08.01]

発達性トラウマ障害とは?』でみたように、「発達性トラウマ障害」の「診断基準Aは、トラウマ性の出来事への曝露体験(身体的虐待やDVの目撃体験など、家庭内における慢性的な暴力的な体験)に関するもの」でした。

 

そのため、虐待やネグレクトにもとづく「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」を視野に入れた、「主として、慢性的な虐待やネグレクトなどの不適切な養育が子どもに与える影響をとらえようとする概念」と考えることができそうです。(西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房)

発達性トラウマ障害とは?

 

「発達性トラウマ障害」は、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の中核症状である「再体験症状・悪夢・解離性フラッシュバック」と、回避症状・覚醒亢進症状のどちらか、または、両方を呈する、不全型の「トラウマ後症状スペクトラム(註:心的外傷後スペクトラム症状)」に相当すると考えられることを解説しました。

 

これらの症状カテゴリーを俯瞰するなら、DTD(発達性トラウマ障害)の主たる特徴は、生理および情動の調節障害を中心に、自己感、行動、および対人関係の調節を含む自己調節(self-control)の障害という概念に当たると考えられる。

トラウマ性障害に関する唯一の公式の診断基準であるPTSDでは、調節障害に関するものは三つの症状群のうち診断基準D(過覚醒症状)のみであるが、DTD(発達性トラウマ障害)では、その他の症状に比べて調節障害がより中心的な病理的特徴となっていると言えよう。

西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房

 

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の「過覚醒症状」は、DSM-IV-TRでは診断基準D(過覚醒症状)で示され、DSM-5診断基準Eで示されており、内容も若干の違いがありますが、以下のとおりです。

 

D.(外傷以前には存在していなかった)持続的な覚醒亢進症状で、以下の2つ(またはそれ以上)によって示される。

(1)入眠、または睡眠維持の困難

(2)いらだたしさまたは怒りの爆発

(3)集中困難

(4)過度の警戒心

(5)過剰な驚愕反応

DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)

 

E. 心的外傷的出来事と関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

⒈ 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り

⒉ 無謀なまたは自己破壊的な行動

⒊ 過度の警戒心

⒋ 過剰な驚愕反応

⒌ 集中困難

⒍ 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)

 

PTSDの三主徴とともに「自己組織化の障害」を特徴とする「複雑性PTSD」と、不全型の「トラウマ後症状スペクトラム(註:心的外傷後スペクトラム症状)」、「自己調節の障害」を主徴とする「発達性トラウマ障害」の「感情調節不全」について、その違いを見ていきましょう。

 

まず、ICD-11の「複雑性PTSD」の「感情調節不全」について。

 

情動の調節における深刻で蔓延している問題:例としては、軽度のストレス要因に対する感情的な反応の高まり、暴力的な爆発、無謀または自己破壊的な行動、ストレス下での解離症状、感情的な麻痺、特に喜びや前向きな感情を体験できないことが含まれます。

ICD-11 platform:複雑性PTSD  

 

「複雑性PTSD」の「感情調節不全」については、「動揺すると落ち着くのに時間がかかる」、あるいは、「心が麻痺したように感じたり、感情が停止したように感じたりする」という質問でスクリーニングを行いますよね。

 

では、「発達性トラウマ障害」での「感情調節障害」は、「複雑性PTSD」の「感情調節不全」と比べるとどうなのでしょうか。

 

診断基準Bは、睡眠や摂食などの生理的レベルの調節機能に関する障害と、感情や情緒の調節の障害(感情爆発、情緒的不安定さ、感情の安定化困難)、および、感情、情緒、身体感覚の認識や言語化の困難という特徴からなっている。

 

B. 感情調節および生理的調節の困難:覚醒調節に関する子どもの通常の発達的能力が阻害されており、以下の項目のうち少なくとも2つに該当する。

B1. 極端な感情状態(恐怖、怒り、恥辱など)を調節したり、耐えたりできない、あるいはそうした感情状態から回復できない。

B2. 身体的機能の調節の困難(睡眠、摂食、排泄に関する慢性的な問題、身体接触や音に対する過剰反応もしくは過小反応性、日常生活で一つの活動から別の活動に移るときの混乱など)。

B3. 感覚、情緒、身体状態への自覚の低下もしくは解離。

B4. 情緒や身体状態を表現する能力の問題。

西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房、および、杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

「発達性トラウマ障害」での「感情調節障害」は、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の「診断基準D(過覚醒症状)」よりも、感情・情緒・感覚・身体機能などの広汎な「調節障害」に加えて、「B4. 言語化の困難(アレキシサイミア)」や「B2. 変化への脆弱性」など、「発達障害(神経発達症)特性」を含んだ診断基準になっていますよね。

 

では被虐待児はどのような臨床像によって、われわれの前に現れているのであろうか。(中略)彼らは、発達障害としてわれわれの前に登場しているのである。」ということのようですね。杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

院長

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