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発達性トラウマ障害とは?

[2022.07.25]

「それは虐待ですよ」と言われたとき』で触れたことがありますが、心理士さんやカウンセラーさんに、「それは虐待ですよ」とか「複雑性PTSDですね」と言われた時は、鵜呑みにしないようにお願いしますね。

 

病名を告げる行為は診断に基づく医療行為ですから、心理士さんやカウンセラーさんがそれを行うと、医師法違反になります。

 

おそらく、心理士さんやカウンセラーさんは、複雑性PTSDや発達性トラウマ障害、あるいはトラウマ関連障害、などに準じて、心理に関する相談及び助言、あるいは、心理療育を行っていきましょうね、などと伝えられるだけで、診断に基づく病名告知をされたわけではないはずです。

「それは虐待ですよ」と言われたとき

PTSDや複雑性PTSDなどのトラウマ関連障害には、「出来事基準」と呼ばれる「診断基準A」があります。

以下に、DSM-IVとDSM-5の「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の診断基準を比較してみますね。

 

A.その人は、以下の2つがともに認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある。

(1) 実際にまたは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を、1度または数度、あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を、その人が体験し、目撃し、または直面した。

(2) その人の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである。
注:子供の場合はむしろ、まとまりのないまたは興奮した行動によって表現されることがある。

DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)

A.実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

(1) 心的外傷的出来事を直接体験する。

(2) 他人に起こった出来事を直に目撃する。

(3) 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。

(4) 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される経験をする(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)

 

すべての診断基準で「心的外傷(トラウマ)」とは、上記のように、命にかかわる状況や性的暴力に限定されています。

 

一方、ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk)らは、トラウマ関連障害が国際的診断基準に採用されるために、「DESNOS(他に特定されない極度ストレス障害)」、あるいは「発達性トラウマ障害」などの概念を提唱し、さまざまな試みを行いましたが、結局、残念なことに、どちらの概念もDSM(精神疾患の分類と診断の手引)、あるいはICD(国際疾病分類)には採用されませんでした。

 

ヴァン・デア・コークらが提唱した「発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder; DTD)」で提唱された「トラウマ的出来事」の診断基準を挙げてみます。

 

A.曝露:小児期および思春期の子どもが、継続的、あるいは反復的に有害な出来事を経験させられたり、目撃してきている。その経験は、小児期もしくは思春期早期に始まり、少なくも1年間以上継続している。

A1.人間関係における深刻で反復的な暴力のエピソードを直接体験する、もしくは目撃する。

A2.主要な養育者の再三の変更、主要な養育者からの再三の分離、あるいは、過酷で執拗な情緒的虐待への曝露の結果としての保護的養育の重大な阻害。

西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房、および、杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」とは若干異なり、「発達性トラウマ障害」は虐待やネグレクトにもとづく「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」、あるいは、逆境的小児期体験による愛着の問題を念頭に置いた出来事基準になっているようです。(『愛着障害と発達障害(神経発達症)特性』参照)

愛着障害の診断基準と発達障害(神経発達症)特性

「発達性トラウマ障害」では、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」のフラッシュバック、回避、覚醒亢進の三主徴との関係はどうなのでしょうか。

 

診断基準E(トラウマ後症状スペクトラム(註: 心的外傷後スペクトラム症状)は、PTSDの三つの症状カテゴリーのうち二つ以上について、各群に最低一項目に該当することとなっており、PTSD症状との関連に関するものである。

 

E.心的外傷後スペクトラム症状:PTSDの3つの症状群(PTSDの診断基準のB〜D)のうちで、2つ以上の症状群について、各群に最低1項目に該当する。

西澤.「アタッチメントと子ども虐待」in 小林. 遠藤.,『「甘え」とアタッチメント』遠見書房、および、杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

「発達性トラウマ障害」では、「再体験症状・悪夢・解離性フラッシュバック」、これらを引き起こす刺激に対する「持続的回避」、睡眠障害・攻撃性・集中困難・警戒心・驚愕反応など「覚醒度と反応性の著しい変化」、のうち2つ以上を満たすことになっています。

 

トラウマ性疾患の中核症状である「再体験症状・悪夢・解離性フラッシュバック」と、回避症状・覚醒亢進症状のどちらか、または、両方を満たすことが「発達性トラウマ障害」の特徴になりそうです。

一方、回避症状と覚醒亢進症状だけがあり、「再体験症状・悪夢・解離性フラッシュバック」を欠如する場合は、「確信型対人恐怖(関係妄想性を帯びた重症対人恐怖症)」と呼んだほうがよさそうです。

 

「発達性トラウマ障害」は、発達障害特性を基盤に有し、虐待やネグレクト、あるいは、逆境的小児期体験による愛着の問題を持つ、いわば不全型の「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と考えることができますから、「トラウマ後症状スペクトラム(註: 心的外傷後スペクトラム症状)」と表現されているのでしょうね。

 

「発達性トラウマ障害」では、たとえば、双極性障害やうつ状態などの気分障害、パニック障害や対人恐怖症などの不安障害、また摂食障害やカフェインやアルコールの依存症、あるいは解離性障害など、診断カテゴリーを横断する重複した診断名が付くだけでなく、ASD/ADHD特性が強く現れているという特徴があるからです。

 

トラウマ関連障害を専門的に治療していない医療機関では、抗うつ薬や抗不安薬が投与されているケースを多く見かけますが、状態は悪化する一方で多剤大量投与につながり、その状態でこころの健康クリニック芝大門に治療を申し込まれても、どうすることもできない場合が少なくないのです。

 

「発達性トラウマ障害」は小児に適応されますが、このブログでは成人の「DESNOS(他に特定されない極度ストレス障害)」も含め、「発達性トラウマ障害」として説明していきます。

幼少期の逆境体験があり、生きづらいと感じていらっしゃる方は、こころの健康クリニック芝大門の受診相談に連絡してくださいね。

 

院長

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