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渇望としての過食衝動

[2019.04.15]
摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「秘訣4 気持ちを感じて、自分の考えに抵抗してみよう」の中で、「ときにはただ自分を気遣うだけでよいのです」に「気をそらす」「気持ちを落ち着かせる」方法として、「自分のための救急箱」をつくる課題がありますよね。   『過食症:食べても食べても食べたくて』の中でリンジーさん自身も「私はリストを作ってみました。(中略)過食に陥りそうになったときにできることのチェックリストも準備しました。かなり四苦八苦しましたが、だんだんと過食の衝動に勝てるようになりました」と、自身の体験をもとに「過食の代わりに行うこと」リストを作ることを勧められています。 これらの方法は認知行動療法では、「行動活性化」あるいは「コーピング」と呼ばれ、環境と楽しい活動とのポジティブな相互作用に焦点を当て、症状(抑うつ)などを減らしたり、信念(スキーマ:自動思考)を変容したりするための手段として使われています。   『8つの秘訣』と『過食症』をよく読むと、これらの行動リストはただ単に過食衝動を回避するだけ、あるいは一時的に良い気分になるという目的のための手段としてではないようです。 これらの行動リストは、「過食衝動が起きても過食をしないですむ」というゴールを目指すための行動(アクション)であり、その先には「過食嘔吐以上に自分にとって大切なものを見つける」という「価値」が横たわっていますよね。(←重要!) またこれらの「過食の代わりに行う行動リスト」や「自分のための救急箱」は、「セルフ・コンパッション」という価値に結び付く行動(アクション)を考えるという課題でもあるのです。(【治療記録9】人生の指針を言語化する』を参照してくださいね)  
自分がどのように食べているかに注目するようになり、食べる速度を落としました。 食事中にはときどきBGMとして、気持ちを穏やかにしてくれる音楽をかけ、健康的に食べることは自分自身に対する愛情深い行為であると、口には出さずに言い聞かせました。 とても長い間、私は自分自身にひどい仕打ちをしていたので、これは根本的にとても大切なことでした。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  三田こころの健康クリニックで行っている新しい対人関係療法に準拠した過食や過食嘔吐の治療では、「ライフ・ゴール(人生の目的)」を治療課題(問題領域)としていますよね。 「ライフ・ゴール(人生の目的)」の課題では、「自らの思考・感情・感覚・行動に気づいていること」「生きている限り誰しも感じる感情を苦悩に変えないこと」「自分への優しさ(セルフ・コンパッション)」など、「自己受容(どんな自分も認めることができる)」を高めることにとり組んでいきます。(従来の対人関係療法で過食や過食嘔吐が残ってしまった方も、このやり方で回復されています)   リンジーさんは、「どのように食べているかに注目(自らの思考・感情・感覚・行動に気づいていること)」し、「気持ちを穏やかにしてくれる音楽をかけ(誰しも感じる感情を苦悩に変えない)」「健康的に食べることは自分自身に対する愛情深い行為であると言い聞かせ(セルフ・コンパッション)」、まさに「自己受容(自分との関係を改善すること)」にとり組まれたわけです。 そして、「感情・思考・情動(身体感覚)のコントロール」という「行動の仕方を改善する」ことへのとり組みが一番むずかしかったようです。  
身体の中からの空腹の合図に気づくことにより、私は、自分の食べ物についての考えを、食べる「べきである」と思うものから、身体が実際に強く求めているものへと変えることにしました。身体の欲求を、私は長年無視していたのです。 私は新しい食べ物を試し始めました。 コントロール不能になることを非常に恐れていたので、これは私が挑戦したことのなかでも、最も難しいことの一つでした。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』の「第17章 糧」では、「ハート型のバスケット」が「空虚感」を感じているのか、「ひょうたん型の容器」が「空腹感」を感じているのか区別することができるようになることが課題として挙げられていますよね。(『【治療記録6】体の空腹か?心の空腹か?』も参照してみてくださいね)   『摂食障害の月経前症候群と月(身体)のリズム』で「身体への思いやり(マインディング・ザ・ボディ)」を紹介しました。
  •  満たされなさを感じている心理的な希求と身体の状態(空腹)を混同しないこと。
  • 自分を文字通りの身体(たとえば、太っていることと嫌な人間であること)と関連づけるのではなく、物理的現実であるとともに比喩的な表現(たとえば、力強さ)と理解すること。
  • 情動状態(気持ち)を身体感覚としてとらえること。
リンジーさんがとり組んだ「身体の中からの空腹の合図に気づくこと」はまさに、マインディング・ザ・ボディのやり方と似ていますよね。(『気持ちに気づくことが摂食障害からの回復の第一歩』も参照してくださいね)  
乱れた食行動からの回復への道のりには、自分の体と調和が取れている状態、つまり体の英知が尊重され、体への信頼が回復された状態に戻ることが必要不可欠です。そこにたどり着くには、まず、どうやったら体からのメッセージを受け取れるのかを学ぶ必要があります。 (中略) 意識して食べ、身体的な空腹感を敵視するのではなくて尊重する(「またお腹が空いているなんてあり得ない!」ではなく、「なんで今お腹が空いているのかな?」)ことを学ぶのは、克服のプロセスではとても大切なことです。 (中略) 食べ物を敵視しなくなれば、今度は食べ物を自分の心の状態を知るために使えるようになります。大好きな過食食材が私たちに語りかけ、何か言おうとしていることがわかるようになります。 日々の食べ物の選択が伝えているかもしれないことに耳を傾け、それを解読していくと、気づいていなかったことが明らかになるのです。ある食感がある感情と関係していたり、感情が抑え込まれていることと関係していたりします。 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
  空腹感や食べ物を「敵視」する「ジャッジメント(レッテル貼り)」が、逆に「食べ物に自分を支配させてしまう」ことに気づいたリンジーさんは、空腹感や食べ物のメッセージ(身体が実際に強く求めているもの)を明らかにすることで、「価値(ライフ・ゴール)」を見出すプロセスに歩みを進めていったのです。(『【治療記録4】体の声を聞く方法』『【治療記録5】感情を感じきる』も参照してみてくださいね)  
時間をかけて自分の内側を見つめ、私が本当に飢えていたものを発見すると、満足と満腹感を経験しました。 ときとして、私が渇望していたものは食べ物でさえなかったのです! 芸術の仕事をしたり、自分の中に生じている気持ちをきちんと表現したり、あるいは、ただ静かに坐っていたりすることが、ときには最も大切であり、私の心をより満たしてくれました。 ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店
  リンジーさんが、「時間をかけて自分の内側を見つめ」ることで「性急自動衝動性(状況判断なしにすぐに行動してしまう:過食衝動性)」と向き合い、「本当に飢えていたもの(必要としていたもの)を発見する」ことにとり組み、「報酬感受性(早く報酬を得られるならば少なくてもかまわない:摂食嗜癖行動の習慣性)」を低減していった様子がよくわかりますよね。   そして、『8つの秘訣』の「秘訣5 やはり食べ物の問題なのです」と同じような内容にとり組まれたことで、過食衝動が指し示していたものは「食べ物でさえなかった!」というすごく大切な気づき(価値)を発見されたのでした。   院長
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