メニュー

ADHDの食行動異常とクレプトマニア

[2013.09.09]

如実知自心』の「摂食障害と問題行動(万引き)」で、「窃盗癖は衝動性障害として始まり、嗜癖問題として進行する」という赤城高原ホスピタルの竹村先生の論文を引用し、「衝動性や嗜癖としての性格を持つ摂食障害」は「嘔吐や過食などの衝動性から始まり、自己刺激としての嘔吐や過食という嗜癖性が持続」するということを書きました。

実際、三田こころの健康クリニックで経験した「万引き」体験者は、過食症に伴うことが多いのですが、拒食症(むちゃ食い/排出型)の患者さんもいらっしゃいました。

AN患者の中でも、万引き・盗食行為を起こした患者では、より重い精神病理を認めた。
特に、 MMPIの「軽躁病」、 「敵意の過統制」の尺度はAN患者の万引き・盗食行為の危険因子と考えられた。
摂食障害に伴う食べ物への執着に、「軽躁病」, 「敵意の過統制」に伴う衝動性が加わって、万引き・盗食行為が引き起こされると考えられた。
澤本良子・他「万引きまたは盗食歴を有する神経性食欲不振症患者の心理特性 : 入院患者での検討」 『心身医学』 43(11),765-773, 2003

※軽躁病:双極II型障害の「軽躁」ではなく、思考や行動が過剰になりやすい傾向という論文もあることから「衝動性」がキーワードになりそうですし、『摂食障害といわゆる「発達障害」』でも触れているように「盗食」はADHDの食行動の異常と関連があります。

 

国立国際医療研究センター国府台病院の齊藤万比古先生は、ADHDの「DBD(破壊的行動障害)マーチ」という概念を提唱しておられます。
(参照:AD/HDは境界性パーソナリティ障害のリスクファクターなのかもしれない

DBDマーチは、ADHDから反抗挑戦性障害(ODD)、行為障害(CD)を経て、反社会性パーソナリティ障害(ASPD)に至るという外在化障害が一人歩きしていますが、もう一つ、内在化の障害として、ADHDから受動攻撃的反抗や不安障害・気分障害が形成されて、パーソナリティ障害に至るというプロセスもあるのです。

そのような観点で考えると、竹村先生がおっしゃる「窃盗癖は衝動性障害として始まり、嗜癖問題として進行する」は、クレプトマニアはDBDマーチにオーバーラップした行為障害とみることが可能ですよね。

 

現・浜松医科大学の杉山先生は、反抗挑戦性障害(ODD)から行為障害(CD)のプロセスは「虐待による反応性愛着障害」も関与しているとおっしゃっています。

ちなみに。
2013年9月14日(土)夜11時〜「ETV特集」で『トラウマからの解放』が放送されます。

薬が効きづらいうつ病や、摂食障害などの複雑な心の病、自傷行為・薬物依存などの問題行動の背景に、幼い頃に受けた虐待や性被害の心の傷・トラウマが深く関わっている場合が多いことが、最新の研究から明らかとなっています。
トラウマは戦争や災害、事件・事故などの惨事に限らず、日常生活の中の身近な問題でも長期に渡りさらされることで、心や身体にさまざまな不調をもたらす原因となります。そうした中で、最近、トラウマを解消する治療法が登場し、治療の現場で効果を発揮しています。トラウマの記憶そのものを治療することで、多くの人が心の病や体の不調の原因となっていたつらい記憶から解放される時代となってきています。
番組では、トラウマ治療を行う日本とアメリカのカウンセリングルームに密着。心の傷・トラウマをどのように癒していくのか、最前線の治療現場からの報告です。
【再放送】2013年9月21日(土)午前0時45分

 

また「受動攻撃性」について考えてみると、自己に対する評価の低さや不安定感、実行機能障害(理論的思考と結果の予測が困難)があり、不安や抑うつ気分が内在化し、アンビバレントな罪悪感・怒り・評価への過敏性が行為障害としての「むちゃ食い(過食)」につながると考えられます。

このようにみてくると「多衝動性過食症」やADHDに伴う行為障害としての「むちゃ食い(過食)」は、クレプトマニアと同様に、衝動性障害として始まり、嗜癖問題として進行するようです。

 

この場合の「むちゃ食い(過食)」は「食事」が増えるのではなく、お菓子や炭水化物などの「甘いもの過食」であり、実際に患者さんは「砂糖中毒かもしれない」とおっしゃいます。

摂食障害の準備・誘発・維持因子2」でも触れたように、このような衝動統制の障害に伴う「むちゃ食い障害(BED)」は、先延ばし、衝動性、不安傾向、認知的フュージョン、低い苦悩耐性など、もともとの患者背景(ADHD)の特性を考慮した精神病理の診立てが必要で、通常の「認知行動療法」や「対人関係療法」の導入前に、呼吸再訓練や斬新的筋弛緩法などの「情動制御の訓練」が必要になります。
(あるいはマインドフルネスの訓練を導入することもあります)

さらに対人関係療法を適用する場合も、「過食症」に対する対人関係療法で焦点を当てる「役割期待の不一致」や「対人関係の欠如(評価への過敏性)」ではなく、別の問題領域を設定する必要がある場合も多いのです。

 

三田こころの健康クリニックを受診される患者さんは、大部分が長い治療歴のある方が多いのですが、一人としてADHDの診断を受けたことのある人はいませんでした。

「過食の内容やその前後のことを聞かれた事はなかった」「幼少期のことについて聞かれたのは初めて」とおっしゃいますので、摂食障害の準備因子(患者背景)、誘発因子(きっかけ)、維持因子(症状を持続している要因)についてきちんと説明(フォーミュレーション)をしてくれる治療者でないと真の治療には結びつかないのですよね。

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME