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過食衝動と飢餓過食

[2022.11.25]

今年になって、神経性過食症あるいは過食性障害(むちゃ食い症)など、過食の治療を希望してこころの健康クリニック芝大門に転院してこられた患者さんの中に、抗てんかん薬であるトピラマートの処方を受けていらっしゃる方が目立ちました。

2003年にむちゃ食い症に伴う肥満の治療、あるいは神経性過食症に対する二重盲検試験で、トピラマートの投与で過食の頻度が減ったとの報告があったからだと思います。

 

トピラマートは、他の抗てんかん薬で十分な効果が得られなかった場合の併用療法薬として承認されていますので、ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬であるクロナゼパムと併用して、過食衝動に処方されているようです。

しかし、クロナゼパムもトピラマートもGABA受容体機能増強作用がありますから、ボーッとして抑制が利かなくなるだけで、過食が治まった、過食が治った、という話はまったく聞きません。

だからこそ、過食の治療を希望して、こころの健康クリニック芝大門に転院してこられるんですけどね。

 

問題は、患者さんが訴える過食が、果たして過食症やむちゃ食い症の過食症状なのかどうか、ということです。

 

拒食症あるいは回避・制限性食物摂取障害などにより、食物摂取量が減った飢餓状態が続くと、低栄養状態に伴う認知機能の低下と強迫性の増強から、食への執着と異常な食行動である「飢餓症候群」と呼ばれる状態が引き起こされます。

 

「飢餓症候群」から過食に転じる時期は「身体が目を覚ます」と言われ、食に振り回され日常・家庭生活に影響が出てきます。

 

多くの人はこの時期に医療機関を受診されるのでしょうが、摂食障害の精神病理や摂食障害の治療をご存じない先生方は、抗うつ薬や上記のトピラマートを安易に処方されるのでしょう。

 

トピラマートは認知機能を低下させますから、20年前の論文のような効果は認めないですし、ましてや抗うつ薬は、うつ病にともなう食欲不振を改善する効果がありますから食欲は増えてしまいます。

 

個人的な見解では、薬物療法が必要な過食は「多衝動型過食症」のみで、過食や嘔吐以外の衝動も合併している場合にのみ有効と考えています。
(『複雑性PTSD/発達性トラウマ障害と多衝動型過食症』『過食と嘔吐の衝動性』参照)

 

「多衝動型過食症」に対して薬物療法を行う場合は、ある薬剤を眠気や思考抑制が起きないように、通常の10分の1ほどの微量で使うのがコツです。

これは過食衝動を抑えることが目的ではなく、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』にある「衝動の波に乗る」ことができるだけの認知機能と、意識の明晰さを保つことができるようになるために、ごく少量の投薬しか行わないのです。

 

もっとも重要なことは、飢餓状態に対する代償性の過食(飢餓過食)なのか、過食症の症状としての過食なのか、を丁寧に鑑別診断することが必要不可欠です。

 

8つの秘訣』を併用した対人関係療法のガイダンスを受けて「飢餓過食」の状態にあった人は、治療の中で「恐がらずに何でも食べる」を実行し飢餓を改善すると、それだけで何年も治療を受けて改善しなかった過食の頻度が激減したり、あるいは、過食が起きなくなった人もいらっしゃいます。

 

もちろん、飢餓過食を含む乱れた食行動に悩む多くの人は、「恐がらずに何でも食べる」は最初から取り組むのは難しいと考えてしまします。

摂食障害思考に支配された飢餓過食の患者さんは、「過食さえ止まればいいんです。過食が止められたら普通に食べられます」とおっしゃるのですが、飢餓過食を止めるには3食食べるしかありません。

 

中には摂食障害思考の強迫観念のために「熟考期」から「準備期」「実行期」に移行できず、それを治療のせいにしてクチコミに書かれる方もいらっしゃいました。この方は重度の対人恐怖があり、引きこもり状態が続いていたので、変化を起こすということが非常に難しかったのでしょう。

過食や過食嘔吐から回復したいと思っていらっしゃる方は、『回避/抑うつ型の摂食障害とその治療』を読んで、もう一度、「症状があることで安定化してしまっている生活を変化させたいと思えるかどうか」を自分に問いかけてくださいね。

回避/抑うつ型の摂食障害とその治療

「気がついたら治っている」との謳い文句のカウンセリングを受けていた方も、こころの健康クリニック芝大門に転院されて、『8つの秘訣』の「秘訣4 気持ちを感じて、自分の考えに抵抗してみよう」と「秘訣5 やはり食べ物の問題なのです」に取り組んで、回復の道を歩いていらっしゃいます。

 

過食症やむちゃ食い症の治療では、嘔吐でなかったことにせずに、どのような感情を麻痺させようとしているのか、その感情はどのような思考や記憶から引き起こされたのか、について、「衝動の波に乗る」心の使い方とともに、摂食障害思考との向き合い方を変えていく必要があるのです。

 

過食症やむちゃ食い症で通院中の方で、抗てんかん薬や抗うつ薬の処方を受けている方、あるいは摂食障害のカウンセリングを受けていらっしゃる方で、効果が感じられないと思われる方は、こころの健康クリニック芝大門に治療を申し込んでくださいね。

 

院長

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