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過食症や愛着の問題から回復するための対人関係療法

[2017.06.05]

過食症・むちゃ食い症の治療に対人関係療法が効果があるのは、対人関係のストレスを緩和する力をつけて、過食(むちゃ食い)で麻痺させる必要がなくなるため、と言われています。

サラリーマンに対するアンケートでは、「同僚・後輩との人間関係」「上司との人間関係」「給与が低い」がストレスのトップ3であり、働く女性では「夫の態度」「ハラスメント」「生活・仕事での対人関係」など、対人関係がストレスになるとされているように、自分と異なる他人との関係は私たちにストレス反応を引き起こしやすく、対人関係はストレッサーと感じられてしまうことが多いのです。

 

自分らしさを探究したり自分のユニークな声を表現する代わりに、自分がどうあるべきか、どう見えるべきか、何をすべきか、そして自分が何を欲するべきかを他人に決めさせてしまうのです。自らの内なる声を聞くことができないため、はっきりとではなくとも、常に耐えがたい疎外感を味わっています。

そして、自身とのつながりを切望したり、自分らしくいられないことが耐えきれないと感じていたりするため、食べ物のことを考えて心をいっぱいにし、まるでトランス状態にあるかのように、本当に欲しいものに気づかないまま、自分の生き方を食い尽くしてしまうのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害の回復と「評価への過敏性」の2つの次元』や『愛着方略と役割期待の不一致の解消』などで解説したように、対人関係療法では「評価への過敏性」が摂食障害や愛着の治療焦点になることが多いのです。

素敵な物語』では、①依存的な方法で他者とのつながりを持つ、②他者との関係を終わらせるのが困難、③助けを求めるしつこい呼びかけで他者を疲れ果てさせる、などの関係依存的な傾向について説明されています。

このような関係依存的な傾向は、「不安/アンビバレント型」の愛着スタイルをもつ人でよくみられるパターンなので、対人関係療法を導入する際には、愛着スタイルと発達課題のアセスメントが必要不可欠なのですよ。

 

自分の内なる声を見つけるためには、自分と向き合う時間と自分を慈しむことの大切さに気づく必要があります。
他人との関係から離れて時間をとり、自分の考えや気持ちと静かに時間を過ごせるようになると、心が必要としている糧を得られるようになります。また、自分の感情、価値観、そしてリズムを見つけることができます。自分の歌の美しさを聴くこともできるのです。
消耗させられるのではなく、糧を得られるような人間関係を築くには、自分の声を失わずに他人の声を聴けるようにならなければなりません。自分自身との関係と、他人との関係のバランスを保てるようになる必要があるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

素敵な物語』で書かれている、「自分自身と向き合い慈しむこと」、そして「自分の歌(内なる心の声)を聴くこと」という大切なポイントは、対人関係療法でも強調する「自分自身をよくふり返る(心の状態の変化についての気づき)」ということですし、もうひとつのブログ「如実知自心」で書いている『セルフ・コンパッション』ですよね。

そしてもう一つ、女性であれば月経やセクシュアリティなど、自分の身体との向き合い方も理解していく必要があります。

 

食べ物で自分を麻痺させるのではなく、自分の気持ちに注意してはっきりつかめるようになる、つまり自分自身との関係を改善し、他人との関係を改善できれば、ネガティブな気持ちをコントロールするために食べ物を利用しなくてすむようになるでしょう。
自分の気持ちがうまく扱え、他人との関係もうまくいくようになるほど、過食は減っていくでしょう。

ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社

 

対人関係のストレスを解消し、対人関係から力を得て過食症やむちゃ食い症を治していくためには、「不安/アンビバレント型」の愛着スタイルをもつ人は一旦、対人関係から距離をおき、自分自身をふり返り、自分の気持ちをはっきりつかめるようになること、つまり、「自分自身との関係」を改善することから取り組む必要があるということなのですよね。
(「回避/愛着軽視型」では、「気分変調症」の治療と同じように過度の自律性を抑制し「対人学習」を勧めていきます)

素敵な物語』をよく読むと、「評価への過敏性」の裏側には、「自分とのつながりへの切望」や「自分らしくいられないこと」など、「自分自身との対人関係の問題」が潜んでいることがわかりますよね。

 

あまりにも自分自身から離れているように感じているため、自分に与えることのできない注目や愛情やサポートを他人との関係から得ようとして、その人間関係に必死にしがみつこうとします。自分が欲しい栄養を与えてくれるその関係に依存するにつれ、関係自体を過度に保護するのです。関係を壊してしまうかもしれない、と用心深くなる彼女たちは、対立が起こるとすぐに自分の考えや価値観を捨ててしまいます。自分たちの歌を、人間関係を壊してしまうもの、つまり、心から追い出さなければならない雑音のように見てしまうのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

他者との関係から注目や愛情やサポートを得ようとすることは、「不安/アンビバレント型」の愛着スタイルをもつ人にとっては人間関係にさらにしがみつくことになり、しがみつくことで逆に、自分自身をその関係性から追い出してしまうことにつながってしまいます。

 

当然のことながら、自分に対する感じ方を変えるうえですべてを他者に頼ることには問題がある。
(中略)
自己に対する見方を変えるために他者に頼る必要はない。自分に愛情を込めた世話と理解を提供するとき、私たちは思いやりと受容が価値あるものだと感じるようになる。自己に対して共感と支援を提供する場合、私たちは救いの手がすぐそばにあると信じるようになる。自己に対する思いやりの腕で自分を包み込むとき、私たちは安全と安心を感じるのである。

ネフ『セルフ・コンパッション』金剛出版

 

セルフ・コンパッション』の考え方は、対人関係に影響を与える「愛着(アタッチメント)の問題」からの回復にも同じように適用が可能なので、三田こころの健康クリニック新宿では、対人関係療法をメインの治療としているんですよ。

 

院長

 

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