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職場のメンタルヘルス不調と対人関係療法リワーク

[2023.06.12]

2023年5月27日・28日に千葉で開催された日本うつ病リワーク協会の年次大会で、【対人関係療法(復職のための対人関係療法)】というシンポジウムが開催されました。

 

院長である私の都合がつかなかったため、こころの健康クリニック芝大門でリワークを担当している臨床心理士の峯村が、『リワークにおける対人関係療法の応用』の演題で講演しました。

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークに参加された人の内訳は、「うつ病・うつ状態」「気分変調症」などの「気分障害」は34%で、ストレス因から3ヵ月以内に発症し6ヵ月を超えて遷延しない「適応障害」は7%と、職場のメンタルヘルス不調として一般に知られている病態は少ないのが特徴です。

 

一方、こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、ストレス因の遷延がなく6ヶ月を超えて遷延した「類適応障害」や、「発達障害特性(ほとんどは自閉スペクトラム特性)」を有する人の割合が43%と、対人関係療法がそのままの形では適応できない困難がありました。

 

対人関係療法の適応範囲を広げるために、「人の心の仕組みと動き方を知る」「メンタライジング・アプローチ」と、「自分との関係を改善する」「行動の仕方を変えていく」「他人との関係を改善する」「[自己-関係]観察」などの概念や技法を対人関係療法に援用し、他に類を見ない「対人関係療法リワーク」を行っています。

 

こころの健康クリニック芝大門で行っている「対人関係療法リワーク」では、職場復帰に向けて、職場の人間関係に対するコーピング(対処)スキルとともに、ストレス反応に対するセルフケアスキルの習得を最大の目標としており、その実践内容を発表してもらいました。

 

うつ病・うつ状態・適応障害

さて、上記にも挙げた「うつ病・うつ状態」と「適応障害」は、職場のメンタルヘルス不調の主たる要因とされていますよね。

 

以前、「うつ病」などといえば、声をひそめて口にしたものだが、今や下手をすると、失恋して落ち込んだだけで「うつ」にされてしまうご時勢だ。しかし、ここで理解して頂きたい。「うつ」とは、ある1種類の病気ではなく、原因や状態も様々な「症候群(状態)」なのである。

(中略)

狭い意味での「うつ」とは、何のストレスがなくても思い詰めたり塞ぎこんで、いわゆる気持ちが鬱々とした状態になってしまう病態で、専門的には「内因性うつ病」と言われる。これは主に中高年の病気だ。内因性とは、「原因がわからない」という意味で、原因はわかっていないのだが病態については研究が進んでいる。

(中略)

一方で、現代社会で問題になっているような、人間関係や環境などに起因する強いストレスから「うつ状態」になるものは、「適応障害」と診断されることが多い。たとえば、仕事上のストレスから「うつ状態」になり、会社を休むことになる患者は、会社という環境にうまく適応できないとして「適応障害」と診断される場合が多い。

小栗『人格解離』アールズ出版M/i>

 

上記の引用に「内因性」という言葉が出てきました。

以前はメンタルヘルス(精神)疾患は、「内因性」「外因(身体因)性」「心因性」として理解されていました。

 

内因性は、病気が内側からひとりでに起こってくる。すなわち自生的にみえ、外因でも心因でもなさそうな場合に用いる」とされています。(濱田『精神症候学』弘文堂)

「内因性」精神疾患の代表が、「統合失調症」や「躁うつ病(双極性障害)」「うつ病」などの気分障害です。

 

しかし「外因(身体因)」、たとえば、脳梗塞後遺症やてんかん、あるいは最近注目されている新型コロナウイルス罹患後症状(後遺症)の睡眠障害、認知障害、記憶力・集中力低下などの「器質精神病」、また、甲状腺疾患や内分泌代謝疾患による「症状精神病」、あるいは、薬物やアルコール、カフェインなどの精神作用物質による「中毒精神病」、つまり身体の器質的変化によっても「うつ状態」を呈することがあるのです。

 

「外因(身体因)」や「内因」とは別に、葛藤や不安などの心理的な要因で生じる、かつては「神経症」と呼ばれていた「心因性」疾患(たとえば適応障害など)も「うつ状態」を呈しますよね。

 

適応障害と神経症(心因性メンタルヘルス不調)

上記の引用では、「適応障害」は「会社という環境にうまく適応できない」状態、とされていますが、もう少し詳しくみてみましょう。

 

適応は、生体が環境と調和した関係を保つことで、刻々と変わる環境の要請に応じ、かつ自らの要求も充足できること。順応というと、より生物学的になり、環境に対応して生体自身の変化する柔軟性をさすが、適応には生体側の努力、環境への積極的な働きかけというニュアンスが含まれる。

(中略)

意識・無意識的に適応を求める傾向を適応機制と呼び、外へ向かって発散する攻撃的、内へこもる逃避的、防衛機制を用いる防衛的の三種の機制が区別される。

適応がうまくいかないと不適応となり、一時の単純なものから持続性の葛藤まで多様である。社会適応の失敗は社会不適応で、DSM、ICDでは適応障害の項が設けられている。

(中略)

精神は身体を介して社会と接するので、社会因による精神障害は行動面、身体面に表現されやすい。心身症は社会的ストレス因から生じた身体疾患ともいえる。

濱田『精神症候学』弘文堂

 

上記の引用では、「適応機制」がわかりにくいですよね。

セリエのストレス学説概論によると、「人間はストレス状況に出会うと適応しようと努力し(戦闘反応)、手強いと神経症で妥協し、かなわぬと空想や精神病(逃避反応)に逃げ込む」(前掲書)とされていることと対応していますよね。

 

攻撃的(戦闘反応)、逃避的(逃避反応)、防衛的(神経症)などの適応機制によっても、ストレス因への適応がうまく機能せず、ストレス反応が強く出た状態(過剰ストレス症候群)を「適応障害」と呼びます。

 

つまり、「適応障害」とは、「会社という環境にうまく適応できない状態」というニュアンスとは若干異なり、「生体側の努力、環境への積極的な働きかけ」という適応機制がうまく機能しなかった状態でと考えた方が良さそうですね。

 

ちなみに、『身体にあらわれる心のストレス』で解説した「心身症」や、俗にいう「自律神経失調症」は、上記引用にもあるように「心身症は社会的ストレス因から生じた身体疾患」、つまり「機能的身体疾患」ですから、こころの健康クリニック芝大門では治療は行っていないので、注意してくださいね。

身体にあらわれる心のストレス

 

院長

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