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発達障害特性と双極性障害

[2023.05.29]

2006年に出版された内海先生の名著『うつ病新時代-双極Ⅱ型障害という病』では、「混合状態」という異質なうつ病相、病前性格としての「同調性」という視座が目からウロコで、食い入るように(過集中して?!)読み進めた記憶があります。

 

現在は2013年に『双極Ⅱ型障害という病-改訂版うつ病新時代』として新装改訂版が手に入ります。興味がある方はぜひ。

 

上記で少しだけ触れた双極Ⅱ型障害の病前性格の特徴とされる「同調性」については、『おとなの自閉スペクトラム』では「共感性」と説明してあります。《鷲塚. ASと双極Ⅱ型障害. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版》

 

同調性と共感性

SNSで対人トラブルが頻発していた受動型の自閉スペクトラム(AS)特性をもった患者さんに、「同調性」「共感性」について双極性障害との違いを説明していたとき患者さんが、「私はいつも他の人の気持ちを考えようとしています。それで相手に合わせようとして疲れてしまうんです」とおっしゃいました。

 

「同調性」や「共感性」は、シンクロすることで意識的に合わせようとすることとは別なのですが、まさにこのことがAS特性と双極性障害の違いなのかな、と考えたことがありました。

 

ちなみにASをベースにした双極性障害では、躁病相でも滑らかな共感性を欠き、妙なこだわりが一層目立つ。

定型発達の躁病相では、一方的な面はあるにしても、調子を合わせている限りでは気持ちが通じるが、ASの場合は自己中心性や固執性がますます高まり、自分の思い通りにならないと興奮しがちとなる。

鷲塚. ASと双極Ⅱ型障害. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

上記の患者さんの場合、SNSを通じた対人関係の問題が頻発し、相手をシャットアウトしたりされたりを繰り返していらっしゃいました。

 

また病状の悪化につながるストレス因を治療者は慎重に評価する必要がある。

そもそもAS併存者は、職場や学校で「普通にふるまおうとする」こと自体に疲れてしまい、そのためにうつ病相が遷延したり、新たな二次障害につながる恐れすらある。

AS特性の患者の、このような過剰適応には注意しておく必要がある。

鷲塚. ASと双極Ⅱ型障害. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

SNSでのトラブルを契機に、家族との感情的な衝突も続くようになり、混乱して不機嫌な時期が続いていたかと思えば、早朝から趣味の写真撮影に出かけて、疲れ果てて数日寝込む(過眠が続く)ことが繰り返されていました。

 

また症候学的には、軽躁状態において、典型的BDは高揚気分や誇大感を自覚できている時期が必ずあり、なおかつそれが生活の多くの場面で認められるのに対し、AS±BD例は易刺激性、易怒性の期間が長く、あたかも混合状態を長期間呈しているかのように見えることがある。

気分爽快に見える場面は興味関心のある事柄に限定されることが多く、生活全般で気分が高揚したり過活動になることが少ない。

鷲塚. ASと双極Ⅱ型障害. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

この解説を読むと、ASDの場合、「社会的状況の読み取りの弱さは、場にふさわしくない行動や一方的な発話をもたらしやすく、これらは躁状態の抑制欠如や多弁と酷似する」ことが混合状態と見なされる一因になっていること、限局された興味・趣味への過集中が躁状態と誤認されやすいことがよくわかりますよね。

 

双極性障害に似てみえる発達障害特性への対応

別の患者さんは、前医で双極性障害と診断されて精神障害者保健福祉手帳を取得し障害者雇用で十分な配慮を受けながら働いていらっしゃいました。なかなか治らないためこころの健康クリニック芝大門に転院してこられたのでした。

双極Ⅱ型障害と自閉スペクトラム特性』でも解説したような詳細な鑑別診断を行い、双極性障害ではなく自閉スペクトラム特性であると診断を変更しました。

 

その患者さんが、あるとき「気を遣いすぎて疲れたので少し休みたい」と話されました。(『休職診断書をめぐるトラブル〜仕事を休みたい』参照)

有休申請を勧めたところ、「有休を申請するためには、主治医の診断書をもらってくるか、産業医面談を受けて許可が必要、と言われた」とおっしゃいます。

会社独自のルールなのかもしれないと考え、「就業規則を確認してみてくださいね」と伝えました。

 

AS併存のBDの場合、就労の問題も通常のBDとは異なる対応が必要である。AS特性ゆえに職場で過剰適応を強いられる場合など、本人に負荷の少ない働き方を職場と検討できるとよい。

ただし、ここで注意したいのは、職場側の受け止め方として、BDとASは異なるイメージを持たれる可能性があることである。

治療可能な疾患と考えられるBDやうつ病に対して、ASDは生来のもので治療薬もないことから、「職場としては手の打ちようがない」と安易に受けとめられ、職場で実施可能な配慮を模索するのではなく、本人をどのように退職させるかということに議論の力点が置かれることすらある。

この辺りはBD単独例以上に慎重な配慮が必要となろう。

鷲塚. ASと双極Ⅱ型障害. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

この患者さんは、その後、会社と話し合いをする中で、上記の引用にもあるように、「発達障害特性であれば会社としてはこれ以上の配慮は難しい」と言われ、退職勧奨を受けて結局退職されてしまいました。

 

それにしても残念なできごとでした。

 

院長

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