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気分変調性障害(慢性うつ病性障害)の精神療法2

[2013.05.27]

これまでの論文では、認知行動療法は長期化・難治化した思春期のうつ病や、パーソナリティ障害に合併したうつ病、あるいは「慢性うつ病(気分変調性障害)」に対しては、とたんに切れ味が悪くなることが知られています。

認知行動療法もカスタマイズの必要性が言われているように、マニュアル通りに行われる認知行動療法は、幅広い問題を扱うようにはできていなくて、むしろ扱うべき問題を限定的にすることによって、短期間で効果的な治療効果(症状レベルでの改善)をあげる治療法ということみたいですよね。
(対人関係療法も同じようなスタンスです。)

 

エンズリー(Emslie)らは、

(通常の認知行動療法のように治療で扱う範囲が狭いやり方ではなく)必要となれば、こうした子どもたちに合併している不安障害や、アルコールやその他の薬物依存、家族内の葛藤などの問題をより広く治療的に扱えるようにしていくことが、子どものうつ病を治していく上で、そして再発を予防していく上で、重要になってくるかもしれない。

と述べています。

また力動的精神療法からも以下のようなコメントが出されています。

認知行動療法をその代表とする、特定の疾患に焦点を当てたフォーカスト・セラピーfocused therapyの勢いは、力動的精神療法の効果研究にも影響を与えている。
(中略)
フォーカスト・セラピーでは、従来の精神分析的精神療法と比して、特定の疾患に対する心理教育が施され、疾患に関連した無意識的力動の解明と解決に焦点があてられるため、比較的短期間で治療を終結する場合が少なくないが、併存する精神障害やパーソナリティ障害によっては長期化することもありうる。
(中略)
ある程度のマニュアルが提供されているフォーカスト・セラピーといえども、その治療過程では患者の無意識的葛藤が再演されるため、時に治療が停滞したり、行動化(act-out)を起こしたりすることもあるという意味では、患者、治療者ともに、安易に勧められる治療ではない。
つまり、患者にとっては治療適応と開始するタイミングなどがアセスメントされる必要があり、治療者にとっては力動的精神療法を実践するだけの訓練と力量が要求される。
平島奈津子『最近の精神科臨床現場における力動的精神療法』 精神療法 39(1), 9〜12, 2013

確かに「気分変調性障害(慢性うつ病性障害)」の治療は、患者さんだけでなく治療者にとっても根気の要る作業になります。

慢性うつ病の成人を治療すること—すなわち、治療抵抗性の認知情動および行動面の鍵(これが疾患そのものなのだが)を取り外すこと—は、10ポンド(約4.5kg)の大ハンマーで大理石の壁を破ろうとすることに似ている。
壁の同じ場所を繰り返し繰り返し叩いていると、最初はほとんど効果がないが、やがて気がつかないうちにかすかな割れ目が生じる。
続けて叩いていると、割れ目は次第に大きくなり、ついには壁が破れて粉々に崩壊する。
『慢性うつ病の精神療法』ジェームズ・マカロゥ

このような困難に向き合う患者さんに寄り添う治療者の姿勢についての注意点についてもマカロゥは触れています。

○治療者が「治してくれる」と患者に期待されている、という全般的な感覚
○患者を「治してやる」と支配的主導的役割を担うか、または、患者に自分のやり方が間違っていることを教えてやろうという強い衝動
○患者が自分の行動を変えるのを手助けしようとしても、無駄で手も足も出ないという感覚
○こんなに超然とした患者を治療しようとすることについての心配

このような治療者の逆転移について「治療抵抗性」という言い方がなされます。

 

何年か前になるが、アキスカル(Akiskal)らは、慢性うつ病は薬物療法にも精神療法にもうまく反応しないと臨床家の間で広く信じられていることについて、言及している。
同じようにケラー(Keller)は慢性うつ病のことを「治療抵抗性」と述べている。
『慢性うつ病の精神療法』ジェームズ・マカロゥ

 

この点について『うつ病新時代』や『さまよえる自己』の著者の内海健先生が、スルドイ論考をなさっていました。

医学もまた油断すると勝者の理屈で患者を語る。
たとえば「治療抵抗性うつ病」(treatment-resistant depression)という概念がある。これは「作用機序の異なる2種類以上の抗うつ薬を十分量、十分期間用いても、十分に回復しない大うつ病」と定義されている。
批判するときりがないので、次の二点だけを指摘するにとどめる。

一つには、この定義は「うつ病は薬で治すもの」という考えを前提にしている。
つまり薬は善であり、薬が効かないのはそれに対する抵抗であり、敗者であるということである。
もう一つは、医療の側の問題が問われていない。
診断はもちろんのこと、患者への関わり方を含めて、瑕疵(かし)はなかったということが前提とされている。
内海健「ストーリイを読む—生活歴・現病歴をどのように理解するか—」精神療法マニュアルp.15〜20, 2012

 

「気分変調性障害」に対する対人関係療法(IPT-D)の原則は、薬物反応性の気分変調性障害の患者で、社会的・職業的機能が改善してはいても、いまだに道に迷った感じがしていたり、ソーシャル・スキルが欠けていたりする人に役に立つとされています。

まさに、治療者が抱いている「治療抵抗性」という考えは、「治療は成功しないだろう」という自己成就の予言を作り出すことになるということですよね。

 

さて「気分変調性障害」に対する対人関係療法(IPT-D)では、患者が今ほど気分が悪くなかった時期を探すというブリーフ・セラピーでいう「例外探し」を行います。
しかし、慢性的な絶望とやる気の喪失のために、正常気分の記憶がないことの方が多く、「慢性うつ病性障害」の治療は困難になりがちです。

つまり治療者の姿勢や逆転移など「医療側(治療者)の問題」が、「気分変調性障害」の治療を困難にしている要因の一つであり、大うつ病エピソードの患者を治療するより「気分変調性障害」の患者を治療する方がより治療者の自信を必要とすると言われています。

 

ということは、治療適応と開始するタイミングなどをアセスメントできて、治療者に治療の自信とスキルがあれば、「慢性うつ病性障害(気分変調性障害)」の治療を成功させることが可能だということですよね。

 

院長

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