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摂食障害行動からも摂食障害思考からも解放されるために

[2021.06.28]

むちゃ食いや過食、あるいは過食嘔吐などの摂食障害行動から回復するための対人関係療法では、「自分自身との関係を改善すること」「行動の仕方を変えていくこと」を土台にして、「他者との関係を改善すること」に取り組んでいきます。

 

対人関係療法による治療の3つの取り組みは、摂食障害だけでなく気分変調症や、複雑性トラウマなど愛着の問題を抱えた人たちにも有効です。

 

この根底にあるのはメンタライジング、つまり「自分や他者の心的状態に思いを馳せること、および、自分を含む人の行為という表面的な(目で見える)事象を、その人の心という内的な(目でみえない)観点から理解すること」です。(池田. メンタライゼーション. 臨床心理学 20(9): 321-325, 2020)

 

慢性うつ病性障害(気分変調症)でも、摂食障害と似た思考パターンをとりやすい特徴がありますよね。

 

治療抵抗性慢性うつ病の特徴の1つは非常に低い自尊心であり、否定的な自己評価への明らかな偏りによってもたらされる。
この偏りについて考える1つの方法は、つかの間の否定的思考に対して、私たちのこころがどのような地位を与えているかという観点であろう。

これらを「ただの考え」と認識することは、その意味するところから私たちを保護することに役立つであろう。

しかしながら心的等価モードでは、その同じつかの間の否定的自己評価が物理的事実の力をもって体験される。

すなわち慢性的な抑うつ患者は他者に比べてより否定的な自己表象をもっているわけではなく、むしろ(私たちすべてがもっているような)普通の否定的自己評価を心的等価モードで体験するため、その考えが現実の力をもっていると感じるのかもしれない。

ベイトマン&フォナギー『メンタライゼーション実践ガイド』岩崎学術出版社

 

思考を現実と思い込んでしまう「心的等価モード」という特徴は、気分変調症だけでなく、複雑性トラウマなど愛着の問題を抱えた人でも同じ傾向があるようです。

 

幼児期の虐待と成人期の非道処遇との関係は、二者関係における特定の鋳型の再活性化として理解されることが多い。

私たちの見方では、幼児期の虐待が成人期の非道処遇につながる明らかな危険性は、受け身的に反復することではなく、幼児期に不適切な養育を受けた人が、酷く耐え難い精神状態をエナクトしやすい人を伴侶として選ぶというその指向性にある。

ベイトマン&フォナギー『メンタライゼーション実践ガイド』岩崎学術出版社

 

欧米での報告と異なり、日本では摂食障害の人の幼少期に虐待的な事実があったという報告は少ないようです。

しかし、虐待まではいたらなくても、本人の自閉症スペクトラム的要因や養育者の感情対応スキルの稚拙さにより、不安定な愛着の中で育った人が多い印象があります。

 

ジェニーさんは幼少期に虐待を受けたわけではありませんが、「酷く耐え難い精神状態をエナクトしやすい人を伴侶として選ぶ」傾向にあったようです。

 

エドの「サポートチーム」は丸ごと持っていってかまいません。つまり、極端な共依存者たち、操作的だった昔付き合った男性たち、回復にまったく関心がない中毒者たちです。

エドは、私が本当に助けを必要としていたときに、この人たちと話すようにと勧めてきました。私が誰かに認めてもらいたかったときに、いつでも一番的外れな人たちに連絡を取るようにと促してきたのです。

彼らのことなんて、エドが連れて行けばいいのです。私には必要ありません。今だって、あんな人たち、私には必要なかったのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

「行動からも思考からも解放されているときが多いが、常にというわけではない」8段階目もまた、摂食障害症状の再発・再燃(ぶり返し)が起きやすい時期です。

 

ジェニーさんは、「本当に助けを必要としていたとき、エドは回復にまったく関心がない中毒者たち、一番的外れな人たちと話すようにと勧めてきた」「彼らのことなんて、エドが連れて行けばいい。今だって、あんな人たち、私には必要なかった」と、強い言葉で否定していますよね。

そんなジェニーさんに対して、キャロリン・コスティンさんは「エドのせいにしないこと」とアドバイスし、「行動を選んだのはあなたですよ」と選択する行動主体を取り戻すことを勧めていますよね。

 

虐待の既往がなくても、摂食障害思考(エド)のささやきを現実と思い込むこと、つまり、「思考は単に思考であって、「あなた」や「現実」ではないという認識」をもてないことが、思考の作り出す歪んだ現実に閉じ込められてしまう一因になります。(メンタライゼーション実践ガイド)

 

内的現実と外的現実は等しい状態にあるという信念が、「酷く耐え難い精神状態をエナクトしやすい人を伴侶として選ぶ」傾向を生み出します。

それによって「歪んだ対人関係はメンタライゼーションを蝕み、またメンタライゼーションの失敗に蝕まれ」てしまう悪循環が生まれてしまうのです。(メンタライゼーション実践ガイド)

 

このような「対人関係上の機能不全を修正することは、患者のメンタライジングの回復を支援することによって達成できる」とされています。(メンタライゼーション実践ガイド)

 

こころについての自分の現在の体験を、精神療法家によって提示されたもうひとつの見方と統合することが、変化プロセスの基盤であるに違いない。

自己と他者の精神状態から行動を理解する能力(メンタライズ能力)は、この結合を達成するために不可欠である。

ベイトマン&フォナギー『メンタライゼーション実践ガイド』岩崎学術出版社

 

治療の初期から取り組んできたセルフモニタリングによって、対人関係の中で自分・他者の行動から心理状態を理解し(メンタライズ能力)、対人関係性の中で起きていることを明瞭に理解することができるようになっていくことが、「思考は単に思考であって、「あなた」や「現実」ではないという認識」を生み出します。

 

依然として重きをおくべき点は、他者との関係だけでなく自分自身との関係を改善することを通して、現在において効果的な機能を高めることである

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

摂食障害から回復する10の段階のうち、8段階目「行動からも思考からも解放されているときが多いが、常にというわけではない」で取り組んでいくことは、関係性の中で「他者との関係だけでなく、自分自身との関係を改善する」ことになります。

 

それと同時に「幼少期からのライフ・ストーリーの振り返り」により、「焦点が置かれるのは、こころのプロセスであり、こころのプロセスが生じているときにそれを内省し反映リフレクトする患者の能力を促進すること(メンタライゼーション実践ガイド)に取り組むことで、8段階目を越えて「行動や思考から解放されている」9段階目に進んでいくのです。

 

このような摂食障害からの回復の考え方は、摂食障害という病気から回復するということではなく、摂食障害と向きあうことを通じて成長していくという考え方なのです。

 

院長

※NHKニュースで、コロナ禍の影響で摂食障害の悪化が報道されています。

摂食障害 コロナ禍で症状悪化の報告

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