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摂食障害症状がひどくなったとき

[2020.06.15]

まだまだ新型コロナウイルス感染には注意が必要ですが、緊急事態宣言も東京アラートも解除され、少しずつ新しい生活スタイルと模索している方も多いかもしれません。

外出自粛の影響で、「過食」「嘔吐」「下剤の使用」が増えたとの回答が全体の7割あった、と摂食障害協会のアンケート結果がNHKのニュースで伝えられていました。東京アラートも解除された時期だからこそ、摂食障害の治療が必要なのですよね。

 

摂食障害、とくに過食や過食嘔吐の治療で大切なのは、自分の心をよくふり返り、自分自身との関係を改善することです。自分との関係を改善することが、他者との関係を改善する土台になります。これをメンタライジング能力といいます。

メンタライジング能力とは、自分と他者の行動と心理状態を関連させて理解することです。

自分自身と他者についてのメンタライジングは、脳神経回路に共通する部分が多いことが知られているのです。

 

自分自身の心を通して「人の心の仕組みと動き方を知る」ことについて、こころの健康クリニックでの対人関係療法による治療の中では、「他者が自分と同じ行動をしていたら、その人の心の中では何が起きているのだろう?」と他者の視点から観察することを勧めています。

 

一方、メンタライジング能力の障害は、他者への影響を「他者の視点から」認識することができない現象として表れます。

他者の心の状態を理解することが難しいということは、とりもなおさず、自分自身の心の状態もよくわからない、ということなのです。
(『摂食障害と対人学習』『摂食障害と気分変調症の脳内劇場からの抜け出し方』参照)

 

さて、過食や過食嘔吐の再燃や増悪について、こころの健康クリニックの対人関係療法による治療では、少なくとも2回、症状が増悪したように見える時期があることを説明していますよね。

 

摂食障害行動に逆戻りしてしまうことは、避けられないこと、必ず起きることと言っていいでしょう。

このような症状の再燃は、回復への道のりでは普通にあることで、ある意味では必要なプロセスとも言えるかもしれません。

私は、失敗するたびにそこから何か一つは学ぼうと決めて、実際に少しずつ強くなってきました。

(中略)

症状のぶり返しがどれほど手に負えないものになっても、いつもの基本に立ち戻って、回復のために必要な対処をしていけば、いつでもすぐに摂食障害症状の再燃から抜け出すことができる。そう知っていると、心強いものです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害からの回復過程で、症状がひどくなることは必ず起きる必要なプロセス」だと頭ではわかっていても、実際に体験してみると、治療前の最悪だった時期に引き戻されてしまったかのように、挫折感と自己嫌悪感でいっぱいになってしまいますよね。

 

たった一日、エドのところにたった一日戻っただけで、私の生活はすでにめちゃくちゃで、コントロールできなくなっていました。

エドと一緒にいたら、二十四時間もたたないうちに、気が狂ったようになり、惨めで、将来への希望も失われたような気分になりました。

それに、症状が再燃するたびに、エドはますます極悪になってきています。

毎回、前にもましてひどい傷跡を残していくのです。

回復への道を進めば進むほど、症状が再燃したときの苦しさはどんどんひどくなるようです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんのように摂食障害症状の再燃が起きたときこそ「いつもの基本に立ち戻る」ことがとても大切なのですが、再燃した時にはモチベーションが下がって自暴自棄になってしまい、「実行期」から一転して「熟考期」の思考パターンが戻ってきてしまうのです。

 

長い間慣れ親しんできた摂食障害思考や行動を変えようとするときには、自信を失いやすいものです。

そうした瞬間の感情がとても強くて支配的になると、ただもうあきらめて、挑戦するのをやめたほうがよほど楽に思えてくるでしょう。挑戦することをやめれば、失敗や落胆から自分を守れるように思えるかもしれません。

しかし正直なところ、それでは一時的にしかうまくいかないのです。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

8つの秘訣』の著者の一人であるグエンさんも再燃について述べていらっしゃいます。

 

私の場合、回復する過程で特に難しかったことは、行動を良い方向へ変えられたとしても、それをなかなか維持できなかったことです。そのため、症状が再燃した時期が3回ありました。

結論から言うと、私は「摂食障害から回復する10の段階」の6番目「やめられる行動もいくつかあるけど、全てはどうしても無理」で引っかかって身動きが取れなくなっていました。

(中略)

そのきっかけは別に大層なことでも、珍しいことでもなく、日常的なものでした。

しかし、自分の中に感情を秘めたままなんとかして「自分の方法」で対処しようとする習性があったので、そうした小さなきっかけからでも、結局何度でも同じ行動を繰り返してしまうのでした。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

行動の仕方を変えていく」ことを続けていくためには、自分の行動パターンを知り「自分との関係を改善する」ことが必要不可欠だったとグエンさんは述べています。

 

キャロリン・コスティンさんは「摂食障害から回復しようとするときには、病そのものからくる感情に取り組むだけではなく、挑戦につきものの一般的な感情にも耐えなければなりません」と述べていらっしゃいます。

 

ジェニーさんは「肉でもありますが、回復への過程でのあまり楽しくない部分こそが、最終的に、あなたの人生を実に豊かで楽しいものにしてくれるのです」と、再燃のプロセスで向き合う課題こそが、摂食障害からの完全な回復に必要不可欠であると書かれています。

 

キャロリンさんは「グエンは、彼女が一番恐れていたものこそが、彼女にとって一番必要なものだったのだと学ぶことができたのでした」と、「衝動の波に乗る」の「何を避けようとしているのだろう」「私が本当に必要としているのは何だろう」について、自分の心に正直になることがどれほど重要かを教えてくれていますよね。

 

院長

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