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摂食障害思考と自己批判

[2020.05.11]

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)による緊急事態宣言の延長、長引く自粛生活と経済的な不安の影響で、不安や動悸などの身体症状、抑うつ症状、不眠など、さまざまなメンタル不調が報告されています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連のメンタルヘルス関連情報をまとめたページもあります。

 

緊急事態宣言に伴う自粛生活が、摂食障害の患者さんにどのような影響を及ぼしているのか、先日、日本摂食障害協会ではアンケートが行われましたよね。

 

北九州医療刑務所の瀧井先生は、医学的な理解と常識を超えた周辺的な摂食障害が増えていると指摘されています。

 

たしかに、ソーシャルスキルやコーピングスキル不足も相まって、生きにくさを抱えた人たちが現実と向き合うことを回避する手段、自分をなだめる手段としての食行動異常が増えているようです。

摂食障害の人も健康な人もライフイベントの数には違いがないものの、摂食障害の人は日常的な出来事をストレスと認識しやすくストレス反応も起きやすいこともわかっています。

 

つまり、出来事に対する解釈(思考)に反応した不安やネガティブな感情などの感情に気づくことができず、心の中で抱えられないため、現実は何も変わらないのに「摂食障害症状を使って解消しようとすること」と、「解消行動に対する自責感・罪責感」が食行動異常の維持因子につながっているようです。

 

摂食障害をよくご存じない先生方は、「解消行動に対する自責感・罪責感」を「うつ病・うつ状態」と診断して抗うつ薬を投与されます。

しかし、過食や過食嘔吐の結果である抑うつ状態は、抗うつ薬で改善しないばかりか、抗うつ薬による食欲増進作用によって、過食や過食嘔吐が悪化してしまうことも多くみられます。

過食や過食嘔吐の治療として抗うつ薬を投与されている人は注意してくださいね。

 

なんば永田クリニックの永田先生は、全般性社交不安障害が背景にあると考察されています。

ジェニーさんも「平凡恐怖」を感じていたように、実際には、全般性の社交不安障害とはやや異なる、自己中心性や「過敏型の自己愛」などの特性が背景にあることが多いようです。
(『摂食障害からの回復と感情と一緒にいること』『摂食障害からの本当の回復プロセス』参照)

 

自尊心の裏側にある過大評価が摂食障害を維持している』で触れたように、「自己愛」と名づけられていますが、摂食障害の患者さんたちは、心の中にある「ヨソモノ的自己」のために自分を愛すること、自分を大切にすることができません。

それだけでなく「ヨソモノ的自己」がいつも自分に対して厳しい評価を突きつけて非難し否定するため、自己嫌悪でいっぱいになっている状態です。

 

対人関係の面では、他者が「ヨソモノ的自己」と同じように自分を評価しているように感じますから、他者と距離を取り、他者からの評価を避けようとします。

これが「遠ざかり境界性自己障害」の状態ですよね。
(『摂食障害の背景にある自分と他者へのネグレクト』『クセになった過食と対人恐怖的回避型アタッチメント』『摂食障害と対人学習』なども参照してくださいね)

「遠ざかり境界性自己障害」について、崔先生は『日本において「アダルトチルドレン」が指す人々の特徴に極めて合致している』とされています。(崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』星和書店)

 

この「ヨソモノ的自己」の思考を、ジェニーさんは「摂食障害思考(エド)」と認識しています。

 

摂食障害は、自分を批判し続けることが特徴と言えます。

あなたの頭の中にも、いつも否定的なメッセージが渦巻いているのではないでしょうか。

否定的な思考のトップテンを書き出してみましょう。

古いカセットテープがあるのでしたら、ジェニーが「トップテン」のところで行った練習をしてみるのもいいかもしれません。

(中略)

少し骨の折れる作業になるかもしれませんが、努力するだけの価値は十分にあるでしょう。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

対人関係療法による過食症やむちゃ食い症の治療では、他者との関係だけでなく自分自身との関係を改善することを通して、現在において効果的な機能を高めることを目指していきますよね。

 

そのため、過食症やむちゃ食い症の治療でまず取り組んでいくことは、自分の心の中で起きている「摂食障害思考(エド;ヨソモノ的自己)」と自分自身の対立(不和)に気づくことです。

そして「摂食障害思考(エド;ヨソモノ的自己)」との闘いを終わらせ、自分との関係を改善することに取り組んでいくのです。

 

エドとの会話を実際に書き出してみると、自分をもっとよく理解できるようになるし、エドにさらに強く立ち向かっていけるようにもなる、とジェニーは感じています。

(中略)

エドとの会話を何度も書き出しているうちに、ジェニーは、エドを困惑させる方法がだんだんわかってきました。

ただし、それがゴールではありません。この練習の習いは、エドから離れやすくすることです。

あなたとエドの意見が一致しているかどうかとは関係なく、こうしてエドから離れて立つことを練習するのはとても大切なことです。

エドがあなたに言ってくることと、あなたがそれにどう反応するかを、書き出してみましょう。

ジェニーのように、エドとの会話をサポートチームの誰かに見てもらうと、とても助けになるかもしれません。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害から回復するための8つの秘訣』でも取り組んでいく「摂食障害の部分と健康な部分を対話させよう」は難しく感じる人が多いようです。

 

8つの秘訣』で勧められていて、ジェニーさんも取り組んだようにノートに書き出すと、どれが「摂食障害思考(エド)」の考え方がわからなくなってしまうこともありますよね。

結局、「摂食障害思考(エド)」の言いなりになってしまったり、本当に過食をやめたいんだろうかと自分のモチベーションに疑問を感じたり、どうでもいいや面倒くさいと投げやりな気持ちになってしまうことも多いですよね。

 

まず取り組んでいくことは、「自分の反応や気持ちをはっきりつかみ、コントロールし、表現することを学ぶ」ことなのです。(ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社)

こころの健康クリニック芝大門では、対人関係療法の導入の際にまずセルフ・モニタリングに取り組み、セルフ・モニタリングによって、「考え(~と思う)」「感情(~と感じる)」「欲求(~したい)」「願望(~であってほしい)」「信念(~と信じる)」など、心理状態を理解するメンタライジング・アプローチを使って、対人関係療法で取り組んでいく「自分の反応や気持ちをはっきりつかむ」ことを進めていますよね。

 

そして「衝動の波に乗る」を使って、自分の感情を指標に行動の仕方を変えてくことができるようになってくると、『自分の悩みを隠すために食べ物を利用しなくてすむようになってくる』のです。(ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社)

 

院長

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