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摂食障害の自己批判から「希望のことば」へ

[2021.03.01]

摂食障害から回復したいと思っている人たちは、「過食がなくなればいい」と考え、過食を我慢するだけでなく、過食のスイッチになってしまう通常の食事さえも食べないようにしてしまいますよね。

 

一口でも口にすると飢餓大食が起きたりするので、絶食と大食を繰り返してしまいます。

その結果、栄養不足の飢餓状態に陥った脳は、誤った方向に思考が導かれるなど、心理学的問題を引き起こしてしまいます。

 

そもそも、3食の食事を摂取せずに、あるいは、過食を我慢することで、当然のことながら摂食障害から回復できた人はいらっしゃいませんよね。それにもかかわらず、脳の栄養不足の状態では、食事制限をしたら摂食障害から回復できるかもしれないと考えてしまい、摂食障害の罠にからめとられてしまうのです。

 

十分な栄養を拒否したり、口に入れるものを身長に選ぶように指示を出したり、お腹が空いていても食べないようにと言ったり、一口でも食べたら飽食の精がやってきて彼女を支配すると吹き込んだり、「怠け者のブタ」でしかないと彼女を批判』するようになります。(『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』)

 

また、飢餓状態では運動過多(活動亢進)がみられるようになったりします。この状態を双極性障害と誤診されていたケースについて『「社会的うつ」は医原性なのか』で触れたことがありますよね。

 

心の安定は身体の安定の上に成り立ちます。

「摂食障害だから、3食は食べられない」のは理解できますが、しばらくの間は過食になっても構いませんから、「摂食障害から回復するためには、頑張って3食食べる必要がある」のです。(食事、睡眠、仕事や勉強、人付き合い 生き延びるために日常生活をどう乗り切るか」参照

 

1日3度の通常の食事を摂らずに過食を我慢しようとすることが効果的でない理由は、「乱れた食行動の引き金となる感情や根底にある問題に対処せずに、行動だけを取り除こうとしてしまうからです」と『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』に説明してあります。

さらに脳の栄養不足の状態では、記憶、感情、情緒をコントロールする「神経認知機能」が十分に機能せず、他者の意図や性質を理解するなどの対人関係の基礎となる「社会認知機能」もうまく働きません。そのため、対人関係療法のような精神療法を行うと脳が疲弊してしまい、治療が進まなくなってしまうのです。

 

こころの健康クリニックの対人関係療法による摂食障害の治療では、乱れた食行動を引き起こす「根底にある問題」とは、「自己批判(自分へのダメ出し)」だと教えていますよね。

そして「乱れた食行動の引き金となる感情の問題」を引き起こすのは「自己批判(自分を責めること)」です。「自己批判(自分を責めること)」は、「他人と比べて自分を責める」「なぜ?どうして?と原因探しをして自分を責める」というように、どんどん拡がっていくのです。

 

私は女性で、治療のときにたくさんの同じような女性たちに囲まれていたにもかかわらず、自分がほかの女性たちといかに「異なる」のかについての長いリストをつくっていました。

そのリストに書き加えているかぎり、回復への道を前には進んでいけなかったのです。

でもそのうち、リストに新しく書き加えるのをやめて、むしろ項目をはずしていくようになりました。

回復を助けるそんな些細な行動を、少しずつ時間をかけて積みかさねていって、とうとうエドから自由になり、こうして自分の物語をみなさんと共有するようになったのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

「他人と比べて自分がいかに異なっているか?」を比較することで、回復への道に立ち止まってしまったジェニーさんは、他人との違いリストの項目をはずしていくようになりました。

 

こころの健康クリニックで対人関係療法導入前のセルフヘルプ面接で『素敵な物語』を読んでいる人には馴染みの部分だと思いますが、こう説明してあります。

 

乱れた食行動を克服する第一歩としてやらなければならないのが、自分自身を見つめ直し、正しく理解することです

(中略)

執着は、自分がおかしい証だと考えるのではなく、今までの人生を生き抜くために必要だった自己防衛のメカニズムなのだ、と考えられるようにならなければなりません。

この自己防衛は、人と違うことで誤解され否定されているように感じたり、打ちのめされそうになったりすることで受けていた心へのストレスを耐え抜くために学んだ方法なのです。

(中略)

こうして、長いこと隠してきた感情や欲望を自分自身に対してさらけ出すのですが、「私はわがまますぎる……私は敏感すぎる……本当の私なんて誰も好いてくれない……」と、自己批判の波に飲み込まれそうになってしまいます。

(中略)

(乱れた食行動の)克服は、(自分はおかしいんだという)自己批判をやめること、必要なライフスキルを学ぶこと、次のステップに進む準備ができているよと教えてくれる自らの内なる声を信用すること、というプロセスを、ゆっくりと一歩一歩進んでいくことなのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店(下線を追加)

 

脳の栄養状態が十分であったとしても、「自己批判」のような否定的な言葉や考えに囚われてしまうと、記憶、感情、情緒をコントロールする脳領域(ワーキングメモリ)に負担がかかり、「神経認知機能」が障害されます。

さらに、否定的な言葉や考えに囚われてしまうことで、他者の意図や性質を理解するなどの対人関係の基礎となる「社会認知機能」も障害されるのです。

 

この考え方は『セルフケアの道具箱』では《「呪いのことば」から「希望のことば」へ》というワークで説明してあります。摂食障害の人だけでなく、気分変調症や混合性不安抑うつ障害の人も、どうしても自己批判が止められない人は、参考にしてみてくださいね。

 

さて、今日はジェニーさんの心理療法士であったトム・ルートレッジさんの言葉を、「希望のことば」として引用して終わります。

みなさんがこの本を手に取り、読み終えたときには、摂食障害から回復する方法とともに、自分で回復の道を歩み続けていく責任ということにも気づかされるでしょう。そう、あなた次第で、次にどうなるかが決まるのです。

ぜひみなさんには、自分自身の摂食障害と向き合い、今まで直面してきた中でも一番困難な課題に挑戦していくのだという意識をもち、必要な支援を受けられるように行動を起こしていただきたいと思います。(誰も一人でこの困難な回復を目指すことはできないでしょう。)

ぜひジェニーさんやその他の多くの人々が実践したこと、つまり自分自身が摂食障害に罹患していることを受け入れ、同時に摂食障害に自分の人生を定義されることはないのだということに気づいてほしいと思います。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

院長

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