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摂食障害の愛着トラウマを癒す

[2017.09.19]

食障害症状(乱れた食行動)に苦しんでいる人は、【内受容感覚(情動や身体感覚)】に対する気づきの乏しさがあり、【不快な感情や身体感覚に対する回避解消行動】、つまり「状況判断することなくすぐに行動に移してしまう」、あるいは、「少ない報酬であっても少しでも早く得ようとする」が特徴です。

「情動を同定すること」、「反応への注目や気づきを向けること」、「一時停止ボタンを押すこと(衝動の波に乗ること)」など、【行動の仕方を改善する(考え・感情・情動のコントロールについての気づき)】も、摂食障害の患者さんにとっては難しく感じられるプロセスのようです。

 

乱れた食行動で苦しむ女性たちの中には、必死で気づかないようにしている、恥ずかしく思う秘密を抱えている人もいます。

ある人は、自分の子ども時代を思い出せないほど、母親のアルコール依存を恥ずかしく思っているかもしれません。
子ども時代に十分な注目や愛情を受けてこなかった人は、自分を欲深いと恥じているかもしれません。
そして、いまだに屈辱感を抱くような、身体的虐待や精神的虐待に苦しんだ過去を持っている人もいるかもしれません。

しかし、このような記憶や経験を完全に無視することはできません。無視しようとしても、それはただ影へと追いやられるだけです。
そして表面に出てくるときはいつも、食べ物への執着、秘密の過食、制御不能のダイエットといったような、歪んだ、有害な形で出てきてしまうのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害は、ネグレクトや虐待など、愛着トラウマとソーシャルサポートの問題があるときに形成されすいと言われています。
愛着トラウマが「メンタライジング(自分の心と他者の心理状態を見わたすこと)」の欠如を引き起こすためです。(『摂食障害から回復するために自己志向と協調性を高める』参照)

 

自分の一番深いところ、つまり心の闇まで行くと、私たちの多くが今まで無視しようとしてきた痛みや苦しみに遭遇します。

父権的な文化では、ストイックに痛みを隠し通すことが求められます。心の痛みを話そうとすると、「自分を哀れんでいる」として繰り返し非難されてきました。そのため自分の痛みを否定し、いつでも「大丈夫」と言うようになってしまったのです。

全体性に向かう旅路で自分自身の中心を見つけると、見捨てられたことや孤独を感じていたこと、価値のない人間のように感じたり場違いなように感じたりしたこと、今まで無視していた夢や失ってしまったチャンス、身体的もしくは精神的虐待、愛する人の死、失敗に終わった結婚、女性らしさを大事にしない世界で女性として生きることの辛さなど、奥底に眠っていた痛みに遭遇します。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

食べ物をコントロールすることによって、気持ちをコントロールしようとする行為は、情動的な苦痛を和らげるための非機能的なで非メンタライジングな方法と理解されています。

気持ちはしっかりと感じることで圧倒されにくくなりますから、摂食障害から回復する最初のステップは、これまで摂食障害症状をつかって感じないようにしていた気持ちを感じられるようになることと、気持ち(心の痛み)を心の中で抱えておけるようになる(気分耐性を高める)ことです。

 

乱れた食行動を克服するには、生まれ変わる前にまず心の闇を受け入れなければなりません。

拒否されて失われてしまった自分の一部を修復し、忘れると決めた経験や否認してきた感情を今一度取り戻し、自分自身の全体性の一部として統合しなければなりません。

このような全体であることこそが女性を強くし、生まれ変わるチャンスを約束してくれるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

対人関係療法で行っていくように、【自分との関係を改善する(心の状態についての気づき)】【行動の仕方を改善する(考え・感情・情動のコントロールについての気づき)】によって、愛着の問題や対人関係の葛藤などの「心の痛み(闇)」に対して直接的に目を向けられるようになります。

そして【他人との関係を改善する(自己概念あるいは関係の中における役割についての気づき)】に取り組むことで、食べ物と身体を使って間接的な形で解決する必要がなくなることを目指していきますよね。

 

最終的に自分を救ってくれるのは、自分自身への共感、つまり自分の感情やニーズを知性と理解をもって見る能力です。

そして、深い癒しが起こるように、痛みをゆっくりと切り抜ける助けとなってくれるのは、痛みと「一緒にいる」ことができる力です。

共感することで、自分の置かれている状況を自分や他人のせいにすることなく、そして自分の傷を否定することもなく、子ども時代と乱れた食行動とのつながりを認識できるようになるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害から回復するために必要なのは、社会的ランクの安定性を確立するのに役立つ優位性/劣性の評価の蓄積である「自尊心(自己評価)」ではなく、「自分自身への共感」つまり【セルフ・コンパッション(自分への優しさ)】にもとづく【深い自己受容(自分自身が自分の安心基地になる)ということですね。(「完璧主義と自尊心の束縛から抜け出す」参照)

 

この「セルフ・コンパッション(自分への優しさ)」にもとづく「深い自己受容(自分自身が自分の安心基地になる)」こそが、痛みと「一緒にいる」ことができる心のキャパシティ(気分耐性)を培ってくれるのです。

 

数年前に自分への愛は自分自身との絆を伴うという考え(Swanton, 2003)に触れたとき、私には、安定型の愛着を自分自身と関わるためのモデルと考えることもできるという考えが浮かんできました(Allen, 2005)。

言い換えれば、人は、メンタライズすることとマインドフルであることによって——つまり、自分の感情に注意を向けること、それを受け入れること、その根底にあるものに興味を持つことによって——情緒的苦痛に対処することができるだろうということです。

このような態度で、人が他者を慰めるか他者からの慰めを受け取るのとちょうど同じように、人は自分自身を慰めることができるでしょう。

J.G.アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

成人期の「摂食障害」、あるいは性格と間違われやすい「慢性のうつ病(気分変調症)」や「愛着の問題(俗にいう“愛着障害”)」の治療では、自分が自分自身の「安心基地」になり、自分自身に「共感(セルフ・コンパッション)」を向けられるようになることが土台になるということですよね。

 

院長

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