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摂食障害の「本当の問題」は?

[2017.02.20]

素敵な物語』からの引用に例としてあげられている「自己主張のスキル」「問題解決スキル」「境界線のスキル」など、学ぶ必要のあるライフスキルを身につけるために最適なのが対人関係療法による治療ですよね。

 

三田こころの健康クリニック新宿では、対人関係療法や『8つの秘訣』で身につけていくスキルを【自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)】【行動の仕方を改善する(考え・感情・情動のコントロールについての気づき)】【他人との関係を改善する(自己概念あるいは関係のなかにおける役割についての気づき)】と説明していますよね。

 

もし、ある患者さんが、太っていれば男性から執拗に言い寄られることもないから無茶食いを始めた、と気がついたとしましょう。
この場合、彼女は体重という「問題」を解決する前に、嫌なことははっきりと嫌と伝える、自己主張のスキルを身に付けなければなりません。
また別の女性が、争いごとに直面したときに感じる精神的な緊張を解くために過食嘔吐をしていた、と気づいたとしましょう。
この場合はまず、争いごとを解決するスキルを学ばなければなりません。
そしてダイエットに異常に執着するのは、アルコール依存でうっとうしい母親に対応するためだったと気づいた女性は、人間関係の中で境界線を引くスキルを学ばなければならないのです。
ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

対人関係療法で身につけるスキルは摂食障害から回復するために必要なのですが、そのスキルを使うために、まず真の問題を自覚することが必要になります。

乱れた食行動や摂食障害の場合、食べ物との葛藤は、単に私たちが本当に苦しんでいる物事の鏡像でしかないのです。ですから、食べ物自体が問題ではないと正しく理解しなければなりません。
ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

8つの秘訣』でも摂食障害行動(乱れた食行動)が起きるときは、その背景に本当の問題が隠れていることが示唆されていますよね。

私も母も、体重は表面化している症状にすぎず、本当の問題は別にあるということが見えていなかったのです。(P.8)

今は、食べものを制限したい、嘔吐したいと感じるときには、何らかの警告なのだということがよくわかります。必ず何か他の問題が関連しているので、立ち止まって、心の中を探るのです。(P.79)

根底にある本当の気持ちにまったく注意を払わないでいれば、それらは何度でも問題として表面化してきます。どんな気持ちに対しても「改善する」ために衝動に任せて食べものにエネルギーを注いだり、また食べることを避けたりしているかぎり、結局はその試みは失敗に終わるでしょう。(P.122)
コスティン他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

「本当の問題」を覆い隠すための摂食障害行動は「強迫的」であり、また「行動への嗜癖」でもあるのです。行動への嗜癖については『素敵な物語』で触れられていますので、ここでは摂食障害行動の強迫性について考えてみましょう。

 

もし食べ物や痩せること、そしてダイエットに執着しているなら、食べ物に関する行動は、人生で本当に苦しんでいることから気をそらすためのものなのです。
太っているように感じるのはとても苦しく辛いことですが、太っているという気分に集中することで、解決できそうにもない嫌な気持ちを実体的なものにして、いわば定義を与えることができます。
食べ物に集中することは、文字どおり、そして比喩的にも、問題の根源に「手を触れる」方法のように見えます。
しかし、池に映った星のように、それはただの錯覚なのです。
ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

心の問題を頭で理解しても心で処理できないために実体的なものとして扱い、行動で何とかしようとすることが強迫性の根源にあるようですね。

「〜すること」という男性性が、「〜であること・いること」の女性性をコントロールしようとする構造がここでも見えますよね。

 

この状態は、心の中と。行動や身体などの現実との区別がない「心的等価モード」と呼ばれる状態です。
心の中で起きたことを外部の世界に投影し、それが現実のものと捉えられていて、心と外的現実の境界線がうまく作られていないのです。このことは、自分と他者の境界線の問題としても現れます。

自分と他者の境界線については、外的現実や他者との関係について取り組む対人関係療法が有効なのですが、摂食障害から回復するためには、対人関係療法では扱わないことになっている自分の心と外的現実の境界線にも取り組んでいく必要がありますよね。

次回以降も、摂食障害の強迫性についてもう少し詳しく見ていきましょう。

院長

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