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摂食障害と行動依存(アディクション)

[2018.02.26]

ひと昔前のように、拒食から過食あるいは過食嘔吐を発症する典型的な患者さんが激減して、最近の患者さんの傾向として、ダイエットの一環あるいはリバウンド大食期に自己誘発嘔吐から発症する「排出性障害」の患者さんがすごく増えた印象があります。(『過食・大食をともなう排出性障害』参照)

 

このタイプの患者さんたち(乱れた食行動に悩む女性たち)は、対人関係上のストレスではなく、「何もすることがないから」という理由で、過食/大食あるいは自己誘発嘔吐を繰り返しますから、型どおりの対人関係療法では改善できないのです。

 

摂食障害はクセや依存症なのか』で紹介したように、『素敵な物語』に「摂食障害はアルコール依存や麻薬依存のような物質依存ではなく、行動依存だということを覚えておいてください。つまり、乱れた食行動に苦しむ女性は、食べるという行動に依存しているのであって、食べ物に依存しているわけではないのです。」と書いてありますよね。

摂食障害(食行動障害)を「食べる」あるいは「吐く」という行動に依存してしまう心理について「行動依存」の側面からアプローチする必要があるということですよね。

 

摂食障害の患者さん(乱れた食行動に悩む女性)の心の理解と治療に役立つかもしれないと思い、『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』を読んでみましたので、少しずつ紹介していきたいと思います。

 

中学校での調査以降、私は「孤立と無力感」がアディクションと密接な関係がある、という確信をさらに深めていき、アルコールや薬物のアディクションの問題で来院した大人の患者たちに対して、アルコールや薬物を使い始める前の生きづらさについて詳しく聞き取るようになった。

しかし、もしアルコールや薬物の使用が孤立に伴う無力感を何らかの形で埋め合わせるための行為なのだとしたら、アディクトたちがアルコールや薬物に頼り始める前に、必ず孤立と無力感を生みだすような生きづらさがあるはずである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

「アルコールや薬物」を「摂食障害行動(乱れた食行動)」と読み替えると、その背景には「孤立と無力感を生みだすような生きづらさ」があるということですよね。

何もすることがないから、退屈だから、淋しいからという理由で、過食や大食、あるいは自己誘発嘔吐という「行動」にしがみつき、「生きづらさ」によって生じた「孤立と無力感」をなだめよう、なかったことにしようとすることで、ますます「孤立と無力感」を強めてしまうのです。

 

では摂食障害の患者さんたち(乱れた食行動に悩む女性たち)が感じる「生きづらさ」とはどういうことなのでしょうか?

 

そのようにして大勢のアディクトたちの生きづらさを記録していくうちに、彼らの生きづらさには大きく分けて二種類あることに気づいた。

一つは、養育者からの虐待や極端な養育放棄といった、誰が見てもわかりやすい「明白な」生きづらさであり、もう一つは、そういった生きづらさが一見すると存在しない患者に見られる、わかりづらい「暗黙の」生きづらさである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

虐待や極端な養育放棄といった「「明白な」生きづらさ」は、愛着(アタッチメント)の安定性と関連がありそうですよね。

愛着障害(反応性アタッチメント障害)の診断を満たさないとしてもジーナー(Zeanah)らのいう「安全基地の歪み」と関連していそうです。(『虐待と愛着(アタッチメント)2〜反応性愛着障害』参照)

摂食障害(乱れた食行動)は、もちろん「「明白な」生きづらさ」とも関係しますが、多くの場合は「わかりづらい「暗黙の」生きづらさ」と関連しているようです。

 

ソフトドラッグ群のアディクトたちは、我慢と努力さえ続ければ、なんとか家庭でも学校でも自分の居場所を確保することができる。

彼らの「生きづらさ」の中には、アディクトではない人から見て、「それくらい我慢できても当然なのではないか?」と思われるものもあるかもしれない。

(中略)

しかし、毎日我慢と努力を続けなければ、いつ家庭や学校で居場所がなくなってしまうかわからない。いつ親が激怒したり、周囲から期待されなくなって見捨てられたりするかわからない。こういう不安感をソフトドラッグ群のアディクトたちは日々抱え続けているのである。

このような、みずからの心理的安心感や満足感を犠牲にしてでも周囲の期待に応え続けようとする行動パターンは、広い意味での「過剰適応」と呼ぶことができる。

アディクトではない人なら、周囲からの期待に過剰適応を起こさずに応えることができるのに、なぜソフトドラッグ群のアディクトたちは過剰適応を起こしてしまうのであろうか。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

文中の「ソフトドラッグ群のアディクトたち」は「摂食障害の患者さんたち(乱れた食行動に悩む女性たち)」と読み替えてくださいね。

摂食障害の患者さんたち(乱れた食行動に悩む女性たち)は、居場所を確保するために広い意味での「過剰適応」を続け、その過剰適応の連鎖が破綻するときに、乱れた食行動として発症すると考えることができそうですよね。

 

院長

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