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愛着(アタッチメント)とボンディング障害と産後うつ病

[2012.09.11]

愛着障害のうち、養育者(主に母親)側の対人関係能力(サポートを得る能力と愛着スタイル)、抑うつ感情(特に産後うつ病)との関連について、九州大学の吉田敬子先生らが、母親と子どもの間に情緒的な絆の障害があり、わが子に対して情緒的な絆が持てずに育児困難など、育児機能に障害が出ている場合を「ボンディング(絆)障害」として、いくつか総説を書いておられます。

 

母親と子ども(乳幼児)の間の情緒的な絆の発展には、

・母子をとりまく育児の環境要因
・母親自身の精神医学・心理学的な問題
・産後うつ病
・ボンディング障害
・乳幼児側の問題
・慢性(あるいは先天性)の小児科疾患や発達障害
・反応性愛着障害

などが関与すると言われています。

そもそも。
子どもの誕生という出来事は、母親にとって
・出産時外傷
・睡眠の剥奪
・授乳
・夫婦や家族との対人関係の調整
・性生活の元の形式や方法を回復すること
・社会的孤立
などなど、さまざまなストレスに満ちたものになります。

 

母親の情緒反応は出産後の3〜4週間、しばしば遅れがみられ、そのことが多くの母親にとって、傷つき、疲弊、戸惑い、不安に繋がり、新生児が見知らぬ遠い存在に感じられますが、新生児が微笑んだり見つめ返したりすることにより、情緒的絆は産後3ヶ月ころまでに、徐々に強くなると言われています。

情緒的な絆の障害は大きく2つに分けて考えられています。

(1)全体的な情緒応答性の遅延
・児への応答の遅延:児への感情の欠如(母性本能の欠如のように感じられる)
・児への嫌悪や拒否:情緒的虐待やネグレクトにつながりやすい
(2)病的な怒り
新生児の夜泣きや寝付きの悪さ、偏食や気むずかしさが母親の自己コントロールの範囲を越える場合:言語的虐待、身体的虐待につながりやすい

と考えられています。

 

情緒反応性に関わる心の能力と志向性については、「愛着(アタッチメント)システムは生育環境の影響も受けやすい」というエントリーでも触れました。
また、水島先生の『怒らない子育て』も参考にして下さいね。

 

これらのうち、最も問題になるのが「産後うつ病」です。
リンネ・マレー教授らは、産後うつ病の母親にみられる特徴として

乳児の要求にどのように応えるのかに戸惑い、乳児がなぜ泣くのかわからない
抑うつ感情により、子どもへの関心より、自分の感情にとらわれている
乳児から母親に向けたサインを見逃し、母子交流は少なくなる
わが子の関心を自分に向けようとして、むやみに(時には敵意を込めて)遊ぼうとする
子どもが不快感を示していることに気づかず、過剰な刺激を与え続ける

などなど、を挙げています。

これらの産後うつ病に罹患した母親は、

・社会経済的な制約が多い
・否定的なライフイベントを多く経験している
・急いで仕事に復帰している
・母乳栄養の中断が多い
・小児科医の受診が多い(健康上の問題がなかったとしても)

などの特徴があるといわれており、このような母親に養育された子どもは乳児期後半になると母親に対して不安定なアタッチメント行動を示し、また情動のコントロールが悪く衝動的で、同年代の乳児と遊べず、引っ込み思案、あるいは荒々しい行動をとるようになると言われています。
これが反応性愛着障害ですよね。

 

以前は、実の娘を虐待してしまう母親の現象について、「白雪姫コンプレックス」という言い方がなされていました。
「あの時殺しておけばよかった!〜」
このセリフは、エディプス神話における父王のホンネでありながら、グリム童話「白雪姫」における女王のセリフでもあることから、母−娘のコンプレックスについて1980年代にエリッサ・メラドの著書で「白雪姫コンプレックス」という言葉が使われました。
つまり、「白雪姫コンプレックス」は、愛着の世代間伝達のなかで、虐待の世代間伝達という『ボンディング(絆)障害』の一つのタイプというわけです。

このあたりのことは、『如実知自心』で、『シック・マザー』や『愛着崩壊』を紹介した時にもちょっとだけ触れましたので、そちらも参照してくださいね。

 

もちろん、子どもへの影響は、ここに書いた産後うつ病のような母親の精神疾患そのものよりも、むしろ母親の母親による養育のあり方の問題による間接的な結果であるかもしれませんし(愛着の世代間伝達)、夫やパートナーによるサポートの有無も産後の母親の精神状態に影響するため、間接的に子どもの愛着傾性や発達に影響を与えることも考えられます。

 

また、好ましくない養育環境に曝されたとしても、その予後は子供が持って生まれた素質によって異なりますし、また乳児の気質も両親のメンタルヘルスや行動に影響を与えます。

ですから、母と子の関係が愛着形成の第一義だとしても、夫やパートナーと子どもとの関係、母(妻)と夫やパートナーとの対人関係も愛着形成に関わっているのですよね。

如実知自心』の『愛着と対人関係』も参照して下さいね。

院長

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