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愛着の問題や発達障害と対人関係の課題

[2021.07.26]

「愛着障害かもしれない」「(他の医療機関やカウンセリングで)愛着障害と言われた」とこころの健康クリニックを受診する方は、診断基準でいう「反応性愛着障害」や「脱抑制型対人関係障害」に該当する人はまったくいらっしゃいませんでした。

 

これらの人たちは、学校や職場で対人関係を築けないなどの集団との関係の問題、あるいは依存や暴力など二者関係の問題を抱えている人がほとんどで、成長過程での発達課題が達成できておらず、加えて自分自身との関係の問題としてアイデンティティが未確立なため、過剰に他者の顔色をうかがったり、あるいは逆に、こだわりが強く自らのこだわりを他者に強要する人が多い印象をもっていました。

 

臨床現場で出会う愛着の問題を抱える人は、人の言動に敏感で、甘えたり頼ったりするのが苦手、安心感や自己肯定感に乏しく、対人関係が不安定になりやすい……そんな人たちである。

(中略)

適応障害や慢性うつ病などの背景に、愛着の問題が認められることがある。それは他者の言動への敏感さや不信感などによる不安定な対人関係、不器用な依存や突発する怒りといった不安定な感情などから気づかれることが多い。

青木. 精神科臨床における大人の愛着障害. こころの科学: 216, 30-35, 2021.

 

愛着(アタッチメント)という言葉が一般の人たちに知られるようになったことの問題点については『愛着障害と対人関係に向きあう』で触れたことがありますよね。

愛着障害と対人関係に向きあう

 

アタッチメントの問題が存在する時に、安心とは恐怖である。希望とは苦しみである。それゆえに関係は混乱する。(中略)そのような苦しみに愛着障害というラベルは救いかもしれない。それは愛着の障害ゆえなのだ、と。

(中略)

苦しみを抱えた当の人にとってもまた、それは救いになるのかもしれない。漠然と抱いてきた「生きづらさ」に名前がつくからだ。

アダルトチルドレン、境界例、発達障害、HSP、そのうちにおそらく発達性トラウマ障害もこうした生きづらさを表現するためのラベルとして使われていくだろう。

工藤. 人はなぜそれを愛着障害と呼ぶのだろう. こころの科学: 216, 92-93, 2021.

 

複雑性PTSD」「愛着障害」「発達障害」の関連』で、これら3者はほぼ同じ病態を別の角度から見たものではないか、と書いたことがあります。

 

この3者の関係は、『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』で説明されている「境界性パーソナリティ障害(BPD)」、「複雑性PTSD」、「アダルトチルドレン(AC)」の関係とオーバーラップする部分が多くあります。

 

これらの人たちの対人学習の乏しさは、自閉症スペクトラム(AS)や自閉症スペクトラム障害(ASD)の要素が強い人に多く見られることがわかってきました。

 

 

愛着に問題が生じる要因としては、まず一つは虐待などの親(養育者)側の問題があり、二つ目には発達障害などの子ども側の問題がある。

(中略)

不適切な養育や発達障害がなくても、親子関係にボタンの掛け違いが生じることはありうる。それが長期化すれば、成人同士の友人関係とは違い、子どもの成長に強い悪影響を及ぼして当然である。これが筆者が考える、愛着に問題が生じる要因の三つ目である。

(中略)

愛着の問題がある場合は、その原因として生来の育てにくさ、すなわち発達の問題が隠れていることがある。逆に発達障害がある場合は、愛着の問題は必ずあると考えてよい。

ASDだとはっきり診断されるような人だと、発達障害と愛着障害が複雑に絡み合い、両者の境界は不明瞭になる。

村上. 臨床現場における成人期の愛着障害. こころの科学: 216, 10-16, 2021.

 

神経細胞ネットワークに刈り込みと再編成が起きる思春期から青年期にかけて、遺伝的な固有性である発達障害の特性が目立つようになってくることと相まって、内在化した乳児期の言語獲得以前の養育者とのアタッチメント関係が再活性化し、自分自身との関係、二者関係、集団との関係という3つの対人関係のあり方に影響を及ぼすということです。

 

つまり、「愛着(の)障害」「発達障害(自閉症スペクトラム)」「複雑性PTSD」は、原因に違いがあっても精神発達の土台形成期に起源があります。

そして、思春期・青年期以降に、抑うつや摂食障害、自傷行為や解離、あるいは対人関係の問題としての統合失調型または反社会性、境界性のパーソナリティの病理および関連する病態を発現する(山下. 臨床に活きるアタッチメント研究の知見. こころの科学: 216, 23-29, 2021.)のです。

 

このように考えていると、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD(国際疾病分類)の診断基準に当てはめて疾患(病気)を治療するという「疾病モデル」の考えでは、その人の一側面しか見ていないように思えてきたのです。

 

たとえば、持続性抑うつ障害(気分変調症)、双極II型障害、神経性過食症、境界性パーソナリティ障害、複雑性PTSD、これらの診断名は、発達障害の患者さん1人につけられた病名でした。この患者さんの診断名は、診断基準を部分的に満たすだけで、恣意的につけられる度に薬が変わり、また治療方針も変更になったのです。

 

疾病モデルはその人にくっついている悪い部分を治すという考えですから、その人自身の悩みに病名をつけることで、病気であることの罪責感は減らすことができるものの、症状に焦点が向くため、生きづらさを軽減する方向に進むことは少ないように思えます。

 

元々どんな人だったのか、そして、どのような生きづらさを感じていて、その人がめざすライフゴール(人生の目的)へ向かうにはどう支援すればいいのか、という治療関係をベースにした方向に、私の対人関係療法のやり方は変わっていったのです。

 

院長

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