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対人関係療法と自分との折り合い〜『8つの秘訣』補遺2

[2016.06.06]

摂食障害に関連する心理学的要因として、「食事をストレスや陰性感情に対するコーピング(対処行動)として用いる」ことがわかっています。

過食やむちゃ食いは、ネガティブな感情伴う嫌悪的な自己認識から逃避する試みであり、ネガティブな感情をコントロールしようとすることは、摂食障害の病因や維持要因として重要な役割を果たしています。

 

8つの秘訣』では

しかし、どんな経験が摂食障害行動を引き起こしやすくなるかを見極めることで、自分が取り組む必要のある領域を知る手がかりになります。
さまざまな状況であなたがどのように感じ、反応するのかをあらかじめ知ったり予測したりすることはできないので、ひとまずは試行錯誤をくりかえしてみるのがいいでしょう。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

と過食やむちゃ食い、自己誘発嘔吐などの摂食障害行動について「摂食障害行動の自己モニタリング」を行うことを勧めるのは「対処能力を脅かすようなハイリスク状況に直面したとき、過食のようなそれまで慣れ親しんだ心地の良い不適応的方略をとりやすくなる」からなのです。

 

摂食障害、とくに過食やむちゃ食い、過食嘔吐のハイリスク要因として

・個人的要因:抑うつや不安、怒りなどのネガティブな感情(33%)、低覚醒状態(孤独、退屈)、衝動や誘惑(10%)
・対人的要因:幸福感などの陽性感情状態に関連したもの(他者の幸せそうな姿を目にする)、対人的葛藤(14%)、社会的圧力(10%)

がわかっていますし、個人的要因(46%)と対人的要因(52%)の両方が関連した状況で摂食障害行動の増悪が起こりやすいことがわかっています。

さらに摂食障害行動の増悪が起きるときには、食習慣の変化や社会的な引きこもり(回避的な対処)だけでなく、家族や友人へ助けを求めることが少ないこともわかっています。

回復への動機の段階ごとの質問に答えてみると、症状が再燃するときには必ず、始めに何か辛い体験があって、それに伴って辛い感情が表出し、しかもその感情について誰にも話していない、という点に気がつきました。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

ネガティブだと判断した出来事や感情、つまり、「辛い体験(ハイリスク状況)」や「辛い感情(ネガティブな感情)」に対して回避的行動をとろうとする慣れ親しんだ不適応方略が摂食障害行動の持続・維持につながっているということなのです。

 

たとえば、「どうしよう?どうしたらいいんだろう?」とあれこれ思い悩んで一歩が踏み出せない、のように、対処行動(コーピング)を行うまで長い時間がかかるのは、自分自身を振り返ったり、自分自身の行動を予測する能力と関連していることがわかっています。

そのため、三田こころの健康クリニックでは、対人関係療法で焦点をあてる現在の対人関係状況だけでなく、摂食障害症状の誘因や維持因子に対してアセスメントを行い、具体的な介入の選択(鑑別治療学)を行っていますよね。

具体的には

・対人関係状況分析:ネガティブな感情への対処として用いる独特な対人的パターンの同定
・個人的要因分析:現実自己と理想自己の間の不一致を変化させる

をみていくことによって、「辛い体験(ハイリスク状況)」を同定し、不適切な食行動を阻止するため

・食行動を支えていた思考や行動に代わる望ましい行動を身につける
・問題解決スキルやコーピング・スキル(陰性感情の同定、表現、受容)

などのコーピング方略を身につけることが摂食障害の治療なのです。

 

摂食障害から回復しようとするときには、病そのものからくる感情に取り組むだけではなくて、挑戦につきものの一般的な感情に耐えなければなりません。
何かに挑戦するときには、失敗する怖さや、結果がどうなるかが予測できない怖さが伴うものです。
こうした恐れからは不安感がたくさんかき立てられるでしょう。
しかし、このような不安に耐えられるようになると、より生きやすいものとなるでしょう。私たちの人生が豊かなものになるかどうかは、自分自身の感情を受け容れ、それらの感情に耐えられる技術を学んでいけるかどうかにかかっていると思います。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

このような「変化に伴う一過性の不快感(痛み)」に向き合うこと、つまり、Linehan(リネハン:弁証法的行動療法の創始者)が言うように「効果的で適切なやり方によって、そのままを受け容れ、あるがままに反応すること」が必要になります。

 

除去しようと悪戦苦闘することで苦しみに変わる不安に対して、不必要な葛藤(抵抗や格闘)をやめ、そこから自由になることで、摂食障害症状の嵐の中でも安全な心のスペースを築き、自分自身と他者に対する優しさと思いやりを育むことにつながります。

 

過食の原動力は「怒りと罪悪感」と本に書いてありますが、じつはその裏に潜む「不安」と向き合うことが必要になりますよね。

三田こころの健康クリニックで行っているように、

治療の土台作り(自分と向き合う)→対人関係療法(自分との関係を改善する⇨行動の仕方を改善する⇨対人関係を改善する)

というプロセスが、対人関係療法で「過食がゼロになることを目指す」治療になりますよね。

院長

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